五十三日目
桜と、久しぶりに楽しくデートをした。
彼女と二人で会ったのは、あの朝のコンビニ以来だった。
歩道橋で待ち合わせをして、彼女はいつも通り、時間ぴったりに来た。
「待ったー?」
のんきな声でそう言って、曲がり角を走って曲がってくるところすら、前回と一緒だった。
俺は、初めてゆうかと桜と俺の三人で、買い物に行った日のことを思い出していた。
あの時はたしか、桜を待ってる間にゆうかと喋っていて、流れで俺がパスワードを当てることになったんだっけ。549945がヒントだと思って、四桁のカプレカ数を答えたら、全然違ったっていう……
結局、5490、だったんだっけ。十月十五日が誕生日で、でも、九月四十五日だって……
あれ、そういえば、なんで九月四十五日なんだろう?
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
なんでもない、と言いかけて、そこで俺は止まった。
「桜」
彼女はびっくりしたように目を見開いて、小声で「は、はい」と返事した。俺が次に口にする言葉を、少し怖がっているようにも見えた。
「ゆうかの誕生日って、なんで、九月四十五日なの?」
彼女の口からホッと空気が出て、そして、彼女は軽く笑った。
「なんだ、そんなことかあ。えっと、なんか、ゆうかがちっちゃかった頃、お父さんが言ってたんだって。『お前の誕生日は、0945だな』って」
「へぇー」
「それで、ゆうかがなんでって聞いたら、9=4+5だから、だって。全然意味わからんくね」
「うん。意味不明だね」
彼女は嬉々として語っていたが、聞けば聞くほど、謎は深まるばかりだった。
ゆうかの父親が、9=4+5だからといって、0945にこだわる意味が分からなかった。そもそも、9=4+5が理由なら、「0945」じゃなくて「945」でいいじゃないか。わざわざ0をつける意味が無い。じゃあなんで――
「ねえ」
そこまで考えて、桜が声をかけてきた。
「また、考えごと?」
「また?」
「うん。ヒロトくんよくしてるでしょ? なんか、心ここに在らず、みたいな感じだったから」
驚いた。
俺が考えごとをしている間、周りからそんなふうに見られていたとは思わなかった。俺自身、周囲の人間をちゃんと見ることが無いので、誰も俺のこと見ないだろうと、勝手に思い込んでいたのだろう。
思わず足を止めてしまいそうなほど、ビックリしていた俺を他所に、彼女はわざとらしくため息をついた。
「だから私、書いたのに。『人の話を聞く』って」
「ご、ごめんなさい」
なるほど、と思いつつ、なんか申し訳なくなって謝った。
人の話は聞いているつもりだったので、不思議に思っていたのだ。
「まあ、次からは気をつけてね」
そう言って、彼女はニカッと笑った。
それは、初夏の日差しをはね返すような、眩しい笑顔だった。




