五十一日目
人間の心得
・人の話を聞く(桜)
・TPOに合わせた行動をする(ゆうか)
・笑顔でいる
スマートフォンを開くと、ロック画面が現れる。時間と、今日の日付と、天気なんかを、当たり前のように表示してくれる。
その背景の写真。
俺のには、スマホを買ってもらった当時、好きだった名言が書いてある。
「野生に堕ちるな!! 人間であれ!!」
彼女たちは、俺が変わると宣言すると、しばらく黙った。
桜はちらっとゆうかの方を見て、ゆうかはあごを触って、「考える人」の銅像のようなポーズをとって、考え込んでいた。
八時十分の予鈴が鳴って、桜は慌てて自分の席に戻った。その様子を目で追って、俺は彼女の席が一番左の列の、後ろから二番目だと言うことを知った。
それから、隣の席のユイが後ろのドアから入ってきて、
「おはようございます」
と俺に挨拶をしてきた。
なんだか――
「お、おはよう」
なんだか、既視感があるような気がした。
いつも通りの日常、なのに、俺の心持ちだけが新しくてソワソワしている。
そんな瞬間をすでに一度、経験しているような気がしたのだ。
「ヒロト」
ガンッ!
後ろから突然肩をぽんぽんと叩かれて、俺は机に膝をぶつけるほど、ビクッと飛び跳ねた。心臓が飛び出るかと思った。
「なんか、リストを作ってみたらいいんじゃねーかって思って」
ゆうかは俺が派手な音を立てたことには全く反応せず、ただただ真剣に、自分の考えを語ってくれた。
「ヒロトって、言っちゃ悪ぃけど、常識が無ぇんだよな、たまに。だから、良い人間の心得、的ななんかがあったら、そういう、非常識な行動もなくなんじゃねーかって思ったんよ」
彼女の考えは、かなり的を得ていたと思う。
桜やゆうかの行動を理解出来ないのは、彼女たちがおかしいのではなく、俺が何かズレているからだと、いつからか気づいていた。
そして、その何かとはきっと、本来コミュニケーションによって築かれていくはずの、常識とか、振る舞いとか、そういうのだと薄々勘づいていたりもした。
「たしかに」
だから、手っ取り早くそれらを教えて貰えるなら、俺にとって願ったり叶ったりだった。
「じゃあ、明日までにいくつか考えとくわ」
そう言うと、彼女はきちんと座り直して、机の中からノートを取り出した。
今日の放課後になって、彼女はそのリストを渡してきた。
元々ノートのページだったと思われた紙に、横書きで三つほど書かれていた。彼女曰く、
「あんま思いつかんかったわ! とりあえず、オレのが一個、桜のが一個、ふたりで考えたのが一個ね。あとはまあ、過ごしてくうちに思いつくっしょ!」
とのことだった。
俺は正直、このリストに書かれたことが奇妙に見えた。なぜなら、なぜそうしなければならないのか分からないのに、これらをすれば良い人間になれるような確信だけはあったから。
まあ、ごちゃごちゃいっていても仕方ないので、とりあえず明日からこれに従ってみようと思う。




