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からっぽ  作者: てりやき
普通
53/95

五十一日目

人間の心得

・人の話を聞く(桜)

・TPOに合わせた行動をする(ゆうか)

・笑顔でいる

 スマートフォンを開くと、ロック画面が現れる。時間と、今日の日付と、天気なんかを、当たり前のように表示してくれる。

 その背景の写真。

 俺のには、スマホを買ってもらった当時、好きだった名言が書いてある。

「野生に堕ちるな!! 人間であれ!!」




 彼女たちは、俺が変わると宣言すると、しばらく黙った。

 桜はちらっとゆうかの方を見て、ゆうかはあごを触って、「考える人」の銅像のようなポーズをとって、考え込んでいた。

 八時十分の予鈴が鳴って、桜は慌てて自分の席に戻った。その様子を目で追って、俺は彼女の席が一番左の列の、後ろから二番目だと言うことを知った。

 それから、隣の席のユイが後ろのドアから入ってきて、

「おはようございます」

と俺に挨拶をしてきた。

 なんだか――

「お、おはよう」

 なんだか、既視感があるような気がした。

 いつも通りの日常、なのに、俺の心持ちだけが新しくてソワソワしている。

 そんな瞬間をすでに一度、経験しているような気がしたのだ。

「ヒロト」

 ガンッ!

 後ろから突然肩をぽんぽんと叩かれて、俺は机に膝をぶつけるほど、ビクッと飛び跳ねた。心臓が飛び出るかと思った。

「なんか、リストを作ってみたらいいんじゃねーかって思って」

 ゆうかは俺が派手な音を立てたことには全く反応せず、ただただ真剣に、自分の考えを語ってくれた。

「ヒロトって、言っちゃ悪ぃけど、常識が()ぇんだよな、たまに。だから、良い人間の心得、的ななんかがあったら、そういう、非常識な行動もなくなんじゃねーかって思ったんよ」

 彼女の考えは、かなり的を得ていたと思う。

 桜やゆうかの行動を理解出来ないのは、彼女たちがおかしいのではなく、俺が何かズレているからだと、いつからか気づいていた。

 そして、その()()とはきっと、本来コミュニケーションによって築かれていくはずの、常識とか、振る舞いとか、そういうのだと薄々勘づいていたりもした。

「たしかに」

 だから、手っ取り早くそれらを教えて貰えるなら、俺にとって願ったり叶ったりだった。

「じゃあ、明日までにいくつか考えとくわ」

 そう言うと、彼女はきちんと座り直して、机の中からノートを取り出した。




 今日の放課後になって、彼女はそのリストを渡してきた。

 元々ノートのページだったと思われた紙に、横書きで三つほど書かれていた。彼女曰く、

「あんま思いつかんかったわ! とりあえず、オレのが一個、桜のが一個、ふたりで考えたのが一個ね。あとはまあ、過ごしてくうちに思いつくっしょ!」

とのことだった。

 俺は正直、このリストに書かれたことが奇妙に見えた。なぜなら、なぜそうしなければならないのか分からないのに、これらをすれば良い人間になれるような確信だけはあったから。

 まあ、ごちゃごちゃいっていても仕方ないので、とりあえず明日からこれに従ってみようと思う。

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