四十三日目
二日前――
「死にたい、わけじゃない。けど、生きたいわけでもない」
俺は彼女からの質問に、素直に、ありのままで答えた。
嘘をついて、「生きたい」と言おうか少し迷って、結局、正直に伝えた。
「なにかの本で、書いてあったんだ。人生はつまらないものだって。人生で何をしようが、最後には死ぬだけだって。それ読んだ時、なんか、生きるのってめんどくさいんだなって思って――」
「それ以上、何も言わないで」
彼女は目をそらしてから、怒ったように言った。
「じゃあ、生きたいって思えるぐらい、何かを一生懸命やってみたら?」
口調と語気が、全く合っていなかった。どうやら、怒りに身を任せないように、頑張って平常を保っているようだった。
「じゃあ」
そして彼女は、俺を冷たい椅子の上に残して、足早にその場を去っていった。
桜は、最初の頃と比べて、とても変わったと思う。
ゆうかと笑って会話するようになったし、前みたいに気まずくなることもなくなった。当然、コロコロ表情を変えて「わかんない」などと答えることもなくなった。
ただ、それとは別の問題、というか、違和感が出てきた。
彼女は時々、俺の目をじっと見つめるようになった。
初めは、自分の顔になんかついてるのかと思って、顔を撫でてみたりしていた。けれども、どうやらそんなのに関係なく、ただただじっと見つめ続けているようだった。
俺はそのうち、これは「観察」だと思うようになった。彼女は、俺という一人の人間を理解するために情報を集めているのだ、と。
昨日は三回、今日も朝八時現在の時点で既に一回、彼女に観察されていた。
「……ふっふっふ」
なんだか、変な話だなと思った。
「え」
「どうした? ヒロト。頭おかしくなったか?」
「いや、なんでもない」
他人が自分のことを理解するために、わざわざ労力を費やしてくれている。その事実が、ユニークというか、不思議というか、とにかく、面白可笑しく感じた。
朝のホームルームで、久しぶりの席替えを行った。
クラス内のオス猿たちは、「うしろうしろうしろうしろ!」と連呼していたが、正直、俺は別にどこの席でも良かった。ただ、周りが五月蝿いと集中出来ないので、そこだけが心配だった。
左の前の方から順番にくじを引いていくようで、俺はくじを二番目に引くことになった。
引いたのは、七番。
黒板を見て、自分がどこの席かを確認した。
今回のくじは、男と女で違うくじが用意されていた。そして、男女が隣り合わないように、青いチョークと赤いチョークで席に番号を振ってあった。
なので、必然的に前後左右は女ということになる。
青の七番は、右から二番目、前から三番目だった。クラス全員がくじを引き終わって、俺らは席を移動し始めた。
色々な音が、一気に交錯し始めた。
猿たちが喜ぶ音、椅子と机が当たった声、先生の音、机をズラす声。
「バイバーイ」
「あー行かないでー」
クラスの女の、別れを悲しんでいるような声が聞こえたが、気持ち悪くて耳を塞ぎたくなった。
教卓の方からぐるっと回って行って、席をやっとの思いで移動し終えて、俺はようやく椅子に座ることができた。
「ヒロト、さん?」
ふと、隣の席の女から、声をかけられた。
ユイだった。
「あっ、久しぶり」
「お久しぶりです」
彼女と会うのは、遠足以来だった。
歩くのが遅い彼女に、イライラしていたことだけは覚えていたが、それ以外は彼女について何も知らなかった。
「よ、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
これから仲良くしていく上で、彼女のことも知っていけたらいいなと思った。




