四十二日目
俺と桜とゆうかは、前のように、三人で話すようになった。
桜が部活中に盛大にコケたこと(今さらだけど、桜もゆうかと同じバレー部だったようだ)や、理科の先生がいつの間にか結婚していたこと、何歳までに結婚したいか、などなど、いつも通りのくだらないものだった。
前までの気まずさが、嘘のようだった。
傍から見たら、俺ら三人は、関係が元通りになっただけのように見えるのだろう。
でも、少なくとも、俺の心境は、前とは少し違っていた。
前まで俺は彼女たちのことを、人間とは何か違う、異質な生物だと思って不気味がっていた。なぜなら、どちらも俺が知っている人間とは、違った挙動をしていたから。
でも、今は、その分からないことを少しでも理解しようと、努めるようになった。
例えば、桜がバレー中に盛大にコケた話で、ゆうかが言うには、桜はまず、アウトの方に飛んで行ったボールを取りに走ったのだそう。そして、ギリギリで何とかボールをうまく返したが、止まれずに勢いよくコケたのだそう。
二人はそれを、
「あれはおもろかった!」
「いやー、届いたからほっとしちゃったのかなー?」
「ってか、そもそもあんな遠くに行ったボール、試合だったら取りいけねーじゃん!」
「たしかに」
と笑いあっていたが、俺は理解に苦しんでいた。
二人はなぜ笑い合っているんだ、褒めたたえるべきじゃないのか、と。
試合で取りに行けないほど遠くに行ったボールを、諦めずに拾おうとする、その精神力。
勢い良くコケるほど、ボールを拾うことに全身全霊を注ぐことができる、その集中力。
俺にとって、この話は賞賛するほかなかった。
が、その上で、考えてみた。なぜ彼女たちが笑っているのかを。
笑いの本来の意味は攻撃であると、誰かが言っていた。そして、それを踏まえると…………
そこで俺は、ああ、彼女たちはその失敗をした桜を嗤っているのかと、初めて納得することが出来た。
ゆうかは失敗した桜を、桜は自傷的に自分を、無意識のうちにそれぞれ攻撃しているのだ、と。
「たしかに、ハッハッハ」
俺はそこでようやく、二人の会話にワンテンポ遅れて、彼女たちのように笑うことができた。
「人間は、笑う動物だよ」
俺は、小説の男のセリフを思い出していた。
人間になるのは、大変だなと思った。




