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からっぽ  作者: てりやき
人間
38/95

三十七日目

「なんだよ!」

「なんだよじゃねーよ! お見舞いだろ!? お見舞い!」

「そんな約束してねーだろ!」

「したわ! 聞いてなかったのか?」

「聞いてなかった!」

「いや、素直かよ!」

 校門の前で映画オタクに捕まって、少し口喧嘩のようになった。

 生まれて初めての口喧嘩だったかもしれない。人に絡まれることが少ない俺が、言いたいことをあんな大声で叫ぶこと自体、普通だったらありえなかっただろう。

 その勢いのまま、俺は彼に引きずられるようにして、桜の家へと向かった。

 彼はどうやら桜の家を知っていたらしく、どうやって知ったのかを聞くと、

「『勉強を教えるために来て欲しいって桜が言ってました』って適当に嘘ついたら、先生が快く教えてくれたんだよ!」

と答えた。そんな簡単に生徒の個人情報を教えるはずは無いので、本当はもっと上手い取り引きをしたのかもしれないな、なんて思ったりもしたが、実際は分からない。

 彼は俺にとって、本当に未知数のニンゲンだった。

 昨日書いたように、彼があんだけ真面目な普通の人間(それら)のような顔ができるなんて、想像もしてなかったのだ。もしも他にも隠していることがあるなら、映画好きなのは本当かもしれないが、それ以外は全て嘘の可能性が出てきた。

 いや、映画好きなのも、そういう「設定」かもしれない。

 ぼちぼち彼は引きずるのをやめて、目の前の家を見上げていた。どうやら、桜の家に着いたようだった。

「ヒロトが鳴らせよ」

 そう言われて、俺は渋々インターホンの前まで歩いていき、そして押した。

 押してから待っている間、ちらりと後ろを見たら――

「ザザッ……はーい、今行きまーす」

 もうそこには、彼の姿は無かった。




 彼女の家は、匂い自体があまりしなかった。

 無臭だった。

「……ごめん」

 彼女からはいつも、洗濯したての服のようないい匂いがするのに、どうやってこの無臭を保っているのだろうか。

「勝手に怒って、こ、混乱させちゃったよね」

 そもそも、俺の服は汗のせいか、そんなにいい匂いがしなかったり、いい匂いがすぐに消えてしまうことが多い。

「……ねえ、聞いてる?」

 やはり、単純に洗剤の量を多くしているだけなのだろうか? でも、汗と混ざって変な匂いに――

「いだだだだだ」

「聞けっ!」

 俺は彼女に、ほほを引っ張られて、そこでようやく、意識が現実へと戻ってきた。

 桜の家のインターホンを押すと、桜の母親らしき女性が現れて、中に案内された。二階から桜が驚いた顔で降りてきて、リビングのテーブルで向かい合って座ることになった。

 そして現在――

「えっなに? どうした」

「…………はぁ」

 この前ほどでは無いが、彼女がまた、機嫌を損ねていた。

「あのさ、たまに、なんかこう、『心ここに在らず』みたいな感じで居るの、なんなの?」

「えっ?」

 思い当たる節が、ひとつも無かった。まるで、やっていない罪を着せられたような気持ちになった。

「まあいいや。そんなことより、ゆうかのこと」

 俺は固唾を飲んで、彼女のことをじっと見据えた。

「なんで、急に避けるようになったの? ゆうかのこと」

 なんと答えればいいか分からなかった。

 なんだか、どう答えても不自然になってしまうような気がして、何も言えなくなった。

「えーと、いやー、なんというか…………」

「嫌いなの? ゆうかのこと」

「いや」

 そんなことは別に無いのだ。

 違う。どうすれば。なんと言えば……

「その、実は、ゆ、ゆうかが俺に告白してきてー」

「えっ!」

 頭をフル回転させて、ようやく出てきた嘘が、なんとも気持ち悪いものだった。

「ほっ、ホントに!? 自分が『桜と付き合え〜』って言ったのに?」

 こんな感じに誤解を招くぐらいだったら、正直に話すべきだったのだろうか。

「うん。でも、俺はフッたから、ちょっと気まずかったんだよ」

「あー、そーゆーことだったのね! なーんだ、早く言ってよー」

 そう言って彼女は、アハハ、と笑った。

 リビングにその声が響くと、俺も釣られるように口角を上げた。

「はははは」

 人生で初めて、嘘をついた瞬間だった。

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