十三日目
それから、時間になって、桜が来た。
ゆうかを見た時とは違って、俺は桜が着ていた奇妙な服に違和感を覚えた。
普通の服なのに、なぜか肩に穴が空いていて、丸みを帯びた部分が丸見えだったのだ。
なぜそんなとこに穴が空いているのかを聞くと、二人は同時に笑い出し、
「これっ、そういうデザインだからっ!」
と答えた。
もはや、俺にとって理解出来ないことを、この二人が持ち合わせているのが当たり前のようになっていたので、俺はもうあまり驚かずに、そういうものなのだと受け入れることにしていた。
そいつの答えを聞いたあと俺は、肩が丸出しなデザインは、桜のような肩を出したい人達にとっては需要があるものなのかもしれないと解釈した。
二人はどうやら、元々買い物に行くつもりだったらしかった。目的地も知らされずにチャリで地元のショッピングモールに連れてかれ、服やアクセサリーを見て回らされた。
母親に同じように連れていかれたことが何度もあるのだが、服の似合ってる似合っていないをジャッジするのは意外と面白い。
何故かと言うと、人間のメスの場合、自分の好み以外の「意外と似合う」を求めてるからだ。
それを見極めて上手く褒めるというのは、なかなか骨が折れるもので、俺はゲームのようなやり込み要素だと思いながら、今まで母親の「どう? 似合ってる?」をいなしてきた。
途中で桜に、
「陰キャくん、褒め方うまっ!」
と言われたので、実際に日頃の成果が出てきたのをしみじみと実感した。
ちなみに、何を言って褒めたかは、テンプレートを組み合わせたものばかりだからか、すぐ忘れてしまう。現に帰る頃には、買った服について二人が話してる中、俺の頭の中はゆうかとの賭けで頭がいっぱいだった。
5、4、9。
もしも、この数字が四桁のうちの三桁だったら、確率は一気に10分の1にまで減少する。
そんなことは、誰にだって分かる。
ただ、二日間じっくり考えても、やはりそんな単純なことをあいつがするようには思えなかった。
一応、5490~5499までの数字に何か特徴が無いか、調べてはみた。けれども、手がかりは無し。寧ろ謎が深まるばかりだった。
そんな時、偶然、母親がクレジッドカードを俺の口座で作ってきたと言って、カードだけひょいと渡してきた。
「暗証番号は、6020ね」
その数字は、俺の誕生日である二月六日を逆さまにしたものだった。
そうか、逆さま…………
俺はノートに数字を逆から書いてみた。
9、4、5。
…………いや、当然だが、何も起こらなかった。
スマホで0から9の総当りをやっても、9455が「四角錐数」という、あまりパッとしない特徴を持っていると言うことしか分からなかった。
俺はだんだん考えるのが面倒くさくなってきて、スマホの検索ボックスに「特徴」と入れてスペースで区切ったあと、4、5、9と0~9を組み合わせた四桁の数を、総当りで入れていった。
仕事が与えられた猿のように、無駄なことは考えず、ただただその作業に没頭した。
そして、その瞬間は思っていたよりも早くやってきた。
流れ作業の中、「特徴 5499」とタイプして検索しようとした時、下の検索候補に妙な数字が写ったのだ。
549945。
俺は少し震えながら、その候補をタップした。
一番上に出てきたサイトは、ある書籍を紹介するものだった。どうやら、数学の魅力を詰め込んだエッセイ本のようだ。
本の内容の一部が抜粋されて書かれていたのだろう。俺は、完全数と並んで書かれていた可愛らしい単語を、小さな声で読み上げた。
「カプレカ数」