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からっぽ  作者: てりやき
人間
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十一日目

 いつも通りの土曜日、俺は相変わらずゲームをしていた。

 九時頃に起きて、ベッドに転がって、ゲームを始める。昼頃になってお腹が鳴るほど腹が空いていることに気づいて、仕方なく起きて飯を食べる。

 まさにこれが怠惰(たいだ)というものなのだと思った。

 何もしていないと、それはそれで身体が疲れて来るもので、足に力が入らないせいで歩くことすらおぼつかなかった。

 そんな体にムチを打って、俺は午後から出かけることにした。どこにも用事は無かったけど、家にずっと居るのもなんだか嫌で、俺はとりあえずでチャリを漕ぎ出したのだ。

 なんにも考えず、ぼーっと走っていたら、いつの間にか本屋に寄っていた。

 最近は、邪魔者たちのせいで全然読書できていなかったので、新しい本には手をつけたくなかった。ただ、見て回るだけでも充分に堪能(たんのう)出来るし、(むし)ろ本屋で立ち読みすることでしか味わえない楽しさもあると思うので、全く問題は無かった。

 例えば、本屋大賞などのランキングで上位に選ばれた作品をちらりと見ると、幾つもの章に分かれていることが多い(ような気がする)。母親(いわ)く、

「現代っ子はスマホのメッセージとかの短い文章しか読んでないから、文庫の百ページぐらいの量少ないやつでも読み切れないんだって」

との事だった。

 重度のスマホ依存症である母親にそんなことを言われても、俺はあまり説得力を感じなかった。最近何かで読んだ、「依存している人は自分が依存していることに気づいていない」ということは、きっとこういうことを言うのだろうなと、今更になって思った。

 スマホが無いと生きていけないと(なげ)いているような母親やクラスメイトとは違って、俺はスマホに依存するようなことは無いと思う。寧ろ俺は、そうならないように気をつけているつもりでもある。

 小さい頃に電車の中でみんなスマホをいじっているのを見て、スマホに人間社会が侵食されていっているような気がして、それが気味悪かったのを今でも覚えているのだ。

 本屋を出て、俺は次に、近くのリサイクルショップに向かった。本の買い取りを専門的に行っているチェーン店で、安いものだと百円か二百円ぐらいで文庫本が買えるので、割と気に入っているのだ。

 俺は、ある本を探して始めた。

 それは、第一回本屋大賞受賞作である、「博士の愛した数式」という本。

 たまたま数学のことについて調べている時に存在を知って、それから俺はここに来る度に、血眼になって探すようにしている。

 今日も、相変わらず置いて無かった。知名度が高いからあっさり見つかるだろうと高を(くく)っていたが、どうやらまだまだ時間が掛かりそうだった。




 家に帰って、ベッドに横たわった。

 とりあえず、親からの連絡をチェックするためにスマホを開く。

 通知が二件来ていた。

 「帰り遅くなります」という母親からの連絡。

 そして、「明日、ひまだったら遊ばない?」という、「Sakura」というニックネームからの遊びのお誘い。

 なぜ、俺のメッセージ機能に、桜の連絡先が入っているのだろう?

 …………そんなことより、お誘いの返事だ。

 正直、遊びに行っても行かなくても、どっちでもよかった。俺の中では、遊びに行ってみたいという好奇心と、厄介事を避けるための思考が、天使と悪魔のように戦っていた。

「どうしよ…………」

と言いつつも、自分の中でどうしたいか決まっていた。

 俺はこれから先もずっと、好奇心には勝てないのかもしれない。

 そんなこと漠然(ばくぜん)と思いながら、俺はとりあえず「わかりました」と返信して、相手の返信を待った。

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