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からっぽ  作者: てりやき
人間
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九日目

 小さい頃から、色々なことに疑問を抱いてきた。

 なぜ植物は緑色なのか。なぜ道路の中央線の色オレンジだったり白だったりするのか。なぜ歳を取ると髪の毛が白くなるのか。

 でも中には、答えの無いものや、俺の納得出来ない答えが出てくるものもあった。

 例えば、犯罪者は犯罪を犯したから社会にとっては悪人である、というものに、俺は未だに納得出来ていないでいる。

 俺の父親は小さい頃、

「バレなきゃ犯罪じゃない」

ということを俺に教えてくれた。要するに、犯罪をすることが犯罪な訳じゃなくて、それがバレて初めて犯罪だって認定されるということだ。

 俺はそれを知ってから、犯罪をバレずに犯せるか、試してみることにした。具体的には、監視カメラの付いていない駄菓子屋を狙って、万引きをしてみた。

 やり方は、まず、店のおばあさんが昼ご飯を食べているのを確認して、引き戸を音を立てずに開ける。そして、リュックに入れられるだけお菓子を入れて、会計用のお菓子も持っておく。しばらくすると物音に気づいて、奥からゆっくりとおばあさんがやってくるので、あらかじめ持っておいたお菓子の会計を済ませて、完了。犯人を特定されないように近所の友達も準備して、我ながらいい作戦だと思った。

 しかし、しばらく繰り返していくうちに勘づかれたのか知らないが、一ヶ月ほど経ったある日、駄菓子屋の中の様子を窓から(のぞ)くと、なんとお菓子がひとつも置かれていなかったのだ。

 まあ、今考えると、お菓子が毎回三つずつぐらいしか買われてないのに、店の商品がごっそり無くなっていったのだから、売らなくなるのは当然と言えば当然だったが。

 そんなこんなで、俺は物心ついた頃から犯罪者になっていたのだ。ただ、今考えても、あれが悪い事だとはあまり思っていない。

 俺や俺の友達は貧しかったから、月額いくら貰えると決まっていた訳ではなく、皿洗いや風呂掃除でお小遣いを稼いでいくシステムだった。

 相場は、手伝い一回につき大体三十円前後。

 そんなんだから、盗みを働いてでも大量のお菓子を口いっぱいに頬張(ほおば)りたいと思うのは、当然の成り行きでは無いのだろうか?

 それに、もしも俺の家族が借金とかを抱えてて、明日食べるご飯も無いような状況でも、盗むことは犯罪だから餓死しなさいということなのだろうか?

 犯罪者が善か悪か。答えは多分、ひとつに定まらないのだろう。

 法律は社会を良くするためのもので、自分にとって必要なことでも社会にとっては悪になり得るのだから。

 そんなことを考える度、生きるのって面倒くさいんだなと、俺は改めて漠然(ばくぜん)と思ってしまう。




 数学は、そういった点では、素晴らしい学問だと思う。

 (とい)(こたえ)がはっきりしていて、それでいて複雑で美しい。人間社会をつくる(みにく)くて汚い思想や秩序とは、やはり大違いだ。

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