日常 Daily
朝起きると、ぼくは女の子になっていた。
ぼくは巨大な喪失感に見舞われる。いままでの自分が、そっくりそのままなくなってしまったのだから当然だ。けれども、自分はここにいる。心と躰の不一致が、ぼくの心を激しく波打った。鏡を前にすると、この鏡に映る自分が、いまこのように思考する自分なのだろうか、という不一致を感じるのだ。世界が揺らぐような気がする。ぼくの顔は、なんとなく妹に似た顔立ちになっていた。それでも悩んでばかりもいられない。世界は個人の事情に関係なく進んでいくのだから。
気を取り直して、さっさと身支度をすませる。ここで、ぼくはスカートに片足を突っ込んでいるときに不自然さを覚えた。どうやら、ぼくには感覚的に女としての記憶があるようだ。なぜなら、触れたことのない下着も、スカートも、迷うことなく着用できるのだ。いやいや、それ以前に、なぜ女性物の衣類があるのだろう。
不思議なのは、それだけでない。
大学に出勤して、講座の連中と顔を合わせても、誰もぼくが女に変身したことに気付かない。これでは、まるでぼくが初めから女のようだ。なにもかも、普段通り。もしかしたら、問題はないのかもしれない。人間は、それだけ柔軟な生き物、ということだろうか。
しかし、ぼくにも憧れの女性はいる。彼女と同性になってしまったことだけが、消化できない不満である。彼女とステディな関係には、もうなれないだろう。この夢は、叶えられなくなった。これだけが、少々残念といえば、残念だ。ぼくは同性の恋人でも構わないのだけれどね。
さて、明日に備えて、早めに寝よう。
明日は、どんな一日になるのだろう。
今日よりも楽しい一日であったら、すこしは、嬉しい。