君だけに任せたい仕事がある
多くの職員が忙しなく動き回り、毎日来る貿易船や輸送船から運び込まれた商品や備品を仕訳し、データベースで管理して行く。
此処はサターンの地下物流倉庫で、24時間サタン商会が管理し、交代制で職員が働いている。
電子デバイスで情報は保護され、自立AIフォークリフトが常に動き回っていた。
他の職員と共に、一人の若い青年も電子デバイスで商品の記録をして働いていた。
紫色と、緑色のメッシュを入れた橙色の髪を一つに結わえ、サタン商会の制服である灰色のジャケットに、中に白いYシャツ、ズボンを着た青年は、丁度大人から子供に変わる年頃で顔立ちも幼さを滲ませている。
セラ・トレイター(18)。去年の冬に入社した若手の職員で、呑み込みも早く、現場の職員から重宝されていた。
……取り敢えず、サタン商会の会計データベースに不正アクセスして、使途不明金のデータをコピーしたし、小隊長達にも報告したから今頃こっちに着いてるよね……。
セラは仕事をしながらも、任務の事を考えて頭を回転させる。
……だけど、それだけじゃサタン商会が宇宙連邦軍に反乱を企てている証拠にはならないよね。また何か具体的な証拠を見付けないと……。
難しい顔をしてセラは目を細めた。
不意に、作業する音しか聞こえなかった倉庫が俄に騒がしくなる。
「やあ、皆。急に顔を出してしまって申し訳無いね。手なんか止めずとも、普通に仕事に集中してくれたまえ」
……この声は……!?
後ろから聞こえた声にセラが思わず振り返る。
「君が有能と名高い新人君だね?私はこのサタン商会を率いるサタン商会会長リュドシエル・ブラッド・サタンだ」
長い紫色の髪を背に流し、白いスーツを着たリュドシエルはセラに名乗った。
「そんな君の働きぶり、類いまれなる頭脳を見込んで是非とも、君だけに任せたい仕事がある。……悪いが、僕達に着いてきてくれないかね?」
表面上は穏やかに、人好きのする笑みを浮かべてリュドシエルはセラに言う。
……何なんだ?……無名の僕に……何故会長が……?
セラは困惑する事しか出来ない。
「会長にそう言われて光栄です。僕に出来る事なら……なんなりと申し付け下さい」
困った末に、セラは断ることが出来ず、恭しく頭を下げて返事を返した。
「うんうん、礼儀の成ってる若い子は嫌いじゃないよ。では、僕達の後に続いて来てくれ」
気分良くリュドシエルは笑い、隣に居る秘書はセラを見て僅かに目を細める。
「ありがとうございます……」
セラは貼り付けた笑顔で礼を言うことしか出来なかった。