愚かな狂信的信奉者
ハムレット研究都市ダンダリオン。此処はマジェスタが破壊され一度は全ての研究員を失ったのだが、亡くなった研究員の意志を継ぐ者達が全宇宙のコロニーや、地球からハムレットに移住した事により、5年を掛けて再びサタン商会の頭脳となり復活した。
沢山の研究所が建ち並ぶダンダリオンの中で、一際大きな黒い塔がある。
この塔の名は【パンデモニウム】。ファウストの研究室が大半を占めてあり、各シリーズの機体研究は勿論、異種族化した者達のメンテナンス室もある。
立ち入る事を許されているのはファウストの他にリュドシエルを始めとしたパイロットや、リュージュ達研究員のみだけ。
ファウストの後妻が使用人と共に管理をしており、必ず無人になる事は無いのだが、万が一があったとしてもセキュリティを生きて突破するのは不可能だ。
通称【悪魔の塔】と呼ばれ、多くの研究員達から恐れられている。
普段なら使われていない地下室で、ファウストはダニエルの尋問を行って居た。
「で?……さっきユーリェンから送られてきたけど……宇宙連邦軍に薬物流していたのはグラフォス商会だよな?……何の目的があってそのような事を?……ジャンキー軍人作っても得になるとは思わんのだが?」
首に駐車をして元の青年の姿に戻ると、ファウストはダニエルを睨み付ける。
「薬物を流したのは宇宙連邦軍だけではありません、地球連邦軍にも流しました。戦場は常に死と隣り合わせになります。……怖じ気づく軍人より、最初から薬物でハイになってるジャンキー軍人の方が使いやすいと……両軍の上層部から好評で……グラフォス商会も潤っております」
手首を縄で縛られ、天井に吊るされたダニエルは笑みを浮かべる。
「成程……上層部も含めて腐ってるな。……けど、どうしてそこまで薬物を?公に薬物の存在を知られてはグラフォス商会や君の首も飛ぶと思うが……リスクを犯してまで得る利益とは違うじゃないのか?」
眉を潜めて、ファウストは椅子に座ると、足を組んでダニエルに問い掛けた。
「そうですね……僕の命も無いでしょう。……ですが、例え警察連邦局に捕まって死罪となっても……私は宇宙連邦軍を潰したかったのです」
「……宇宙連邦軍を潰す?」
ダニエルの言葉に、ファウストは目を丸くした。
「……地球連邦軍で今まで存在すらしていなかった……あの人型機動兵器ザガックを貴方が開発したあの瞬間から……ずっと僕は貴方だけを見て来ました。それまでの戦闘機や戦艦だけの変わり映えのしなかった内戦や、紛争を貴方の開発したザガックが自由自在に動き回る躍動感……貴方こそが僕の崇める天才科学者だ!!」
興奮した様子でダニエルはファウストに言い放つ。
……こいつ……もしかして……。
気付いたファウストは笑みを浮かべる。
「なのに……宇宙連邦軍にも……貴方と同じ人型機動兵器を開発した科学者が現れた!!……貴方の猿真似をした奴等が許せなくて……だから……7年前から少しずつ宇宙連邦軍に薬物を流し始めたのです!!連中は味を占めて中毒者となって……マジェスタを攻撃する馬鹿な者達も現れた!!じわじわと獲物を追い込むのは楽しいですよ……実に楽しくて仕方無い!!」
狂ったようにダニエルは笑みを浮かべながら饒舌に真実を語った。
「……そうか……貴様も裏で糸を引いて居たのだな?だが貴様は一つ、勘違いをして居る。……それは何だと思う?」
愉しそうに笑って、ファウストは椅子から立ち上がるとダニエルに近付く。
「……勘違いですって……?馬鹿な……何を言って居るのですか?」
目を見開いたダニエルは困惑する。
「リキュウは知らないが……宇宙連邦軍のガゴイを作ったのも私だって事だ。レナード・ポワドと偽名を名乗って居るが……私以外にあの当時、人型機動兵器を作れる科学者など居なかったからね……。調べれば……私とレナードの報告書や、ガゴイとザガックの構造が似ているのも気付けた筈だ。……君は大きく見落としていたのだよ……」
「……そんな……嘘だ……マジェスタごと憎き魔女マキナを殺したと言うのに……僕は……じゃあ……何のために……」
ファウストに事実を告げられ、ダニエルは青ざめた表情になる。
「もう一つ、聞きたいことがある。地球連邦軍にまで薬物を売った理由は何だ?」
「……5年前、地球連邦軍が貴方を襲撃したからです」
ファウストが問い掛けると、ダニエルは答えた。
「……ふーん、そういう事か……。ダニエル、先程マキナ博士を魔女と言っていたが……お前は私を散々追い回していた癖に……大切な関係に何も気付いていなかった。マジェスタで殺されたマキナ博士は私の弟子だ」
ダニエルを見下ろしてファウストは言い放つ。
「……マキナ博士は……ファウスト博士の……弟子……?そんな……馬鹿な……だって……あの女は……貴方の研究を奪った魔女だ!!」
突然言われたダニエルは、冷や汗を掻きながらもファウストに言い返す。
「私はマキナに私の研究を託しただけであって、その後の計画を全て実現に向けて研究したのも彼女自身の功績だよ。お前は私以外の全てに盲目の様だが……マジェスタの一件に関わって居る以上……お前に一切容赦はしない」
底冷えするような冷たい瞳でファウストはダニエルに言い放つ。
「っ……!!僕は……絶対に認めないっ!!貴方の研究を……あの魔女が引き継いだ等と……!!それでは……何のために僕は……薬物を売って来たのか……リスクを犯した意味が無いじゃないかっ!!」
半狂乱になってダニエルは叫んで暴れるが……
「自分の浅はかさを悔いるが良い……。お前の望む通り私が身も心も躾してやろう」
薄く笑みを浮かべファウストはダニエルの耳元に囁く。
「……ひいっ……嫌だ……うわぁあああっ!!」
恐怖を感じてダニエルは叫ぶが、ファウストは冷たく見詰めるのみで手加減する気もないようだ。
「ファウスト様、私は昼食の支度が有りますので失礼致します」
ずっと壁際に控え黙っていた青年がファウストに声を掛けた。
「……あぁ、分かった」
ファウストは青年にせをむけたまま短く答える。
一礼して青年は地下室を出ると、エレベーターに乗り込むのだった。




