実験体と裏に潜むマッドサイエンティストの影
おー、景色がすげぇ速さで変わって行く!!疑似とは言え魔法だからなぁ……。再現された魔法は戦闘でも実戦効果あったし……成功かぁ……うん、間違いなしだぜ。
メカニックや研究員達の間を抜けながら、モミジは染々実感する。
サタンタワーに入ると、右奥にあるエレベーターに乗り、一気に5階まで上がってエレベーターから降りた。
「……うわぁ……外の皆も酷かったけど……中の皆もひでぇ……」
全身血塗れのまま、魔法や、清掃道具を使って床や壁、研究室を清掃する研究員達の姿を見て、モミジは表情を引き吊らせると医務室へと向かう。
右の突き当たりに医務室があり、中まで入りきらなかったのか敵の死体が青いビニールシートに包まれ入り口に置かれていた。
……ん?こいつは……人間の姿保ってるからローザが殺した奴かな?
シートを捲って死体を確認したモミジは目を丸くすると、首を傾けて周囲を見回す。
……死体から何かを見付けたって事は……身体の中って事かな?……中に入って聞いてみるか……。
顎に手を当て、モミジは考えを纏めると医務室のドアをノックする。
「俺だ……モミジだよ。悪いが……中に入っても大丈夫か?」
セキュリティセンサーに向かってモミジは声を掛けた。
セキュリティセンサーはATAIであり、サタン商会やメイシェン商会の者なら自動的に登録されているので、顔、声、本人認証で内部データから瞬間的に照合されるのだ。
『モミジ・トオダ。サタン商会所属ジュリエット部隊主席メカニック班班長。声、顔、本人共に照合完了』
ATAIが喋ると、医務室のドアがスライドして開く。
「おっ、開いた。邪魔するぜ~」
モミジはドアから医務室に入ると、軽く声を掛けて中を見回す。
部屋には様々な機材が揃っており、広さは18畳程で、照明が付いてるので中の様子が見えるが……。
保管容器に入った死体の一部がテーブルに置かれており、一番奥には各モニターを見て検査結果に注視する二人の青年が背を向け座っていた。
「よぉ、会長の命令でサタンタワーに戻って来たんだけど……何か死体に見付かったってメカニック達に聞いてさ……。一体何が見付かったんだ?」
二人の後ろに来ると、モミジは首を傾けて問い掛ける。
「モミジか……。いやな……ローザの殺した死体を検査してみたら違法薬物のデパートだったんだよ」
一人の青年がモミジに振り返って苦笑いする。
焦げ茶色の肩まである長い髪を一つに結わえ、白衣を着た青年は美しい顔を歪ませ、腕を組むと溜め息を着いた。
ユーリェン・シム・ランタオ(35)。メイシェン商会所属の研究員でサタン家の侍従も兼任しており、リキュウの右腕でもあるが……ファントムの助手も務めているのに、ディーバ部隊所属メカニック班班長も兼任している苦労人。
主にサタンタワーの研究室とサタン家に居るので、ファントムに呼び出されない限りは行って居ない。
「……違法薬物のデパートだと?」
思わずモミジは目を丸くする。
「……簡易検査だけでも……十種類以上の違法薬物が判明した」
もう一人の青年もモミジに振り替えると、モニターに薬物一覧を表示して拡大した。
「……何だよ……これ……」
モミジは薬物を見て言葉を失う。
「ストロングデーモンは禁止薬物で増強剤、飲めば人体の3倍はあるパワーを出せるが……理性を失い廃人になる。エンジェルマフィンは気分を落ち着かせる精神安定薬ってのは形だけ。服用した者は脳にダメージを負ってしまうし……中毒性があるんだ。……他にもエレメンタルキノコは幻覚を見せる毒物だし、ヘラクレスレモンは性的欲求を10倍にする毒物だ。飲んだら最後、所構わず周りを襲う」
クオンと瓜二つの顔立ちで、金髪の長い髪を一つに結わえ、白衣を着た青年は目を細める。
シズク・カイバラ(25)。サタン商会所属の医務官でディーバ部隊所属医務官でもあり、パイロットも兼任している。
ファウストの次男で、クオンと一卵性双生児で弟。
「……まぁ、他にもエンゲージトロフィムは筋肉増強剤で一時的に人体の垣根を越えた100倍の力を出せるけど……薬切れたら身体の組織を破壊するし……アーマードナジトロンも精神薬で心を安定させる所か……思考を全て性的興奮に変えるだけだよ。……こんなの服用してりゃ……毎日やりまくらないと駄目だ。トマフル部隊で服用して居るとしたら地獄だぞ」
ユーリェンも呆れた顔をして肩を竦めた。
「……まさか……考えたくねぇけど……宇宙連邦軍は強化人間を作ってんのか?……しかも……まともな医学知識を有していたら絶対に使わない薬物なんかを使って……正気を疑うぞ?」
モミジは現実に青ざめた表情で二人に言う。
「うちのファウストが抜けたのはマジェスタ攻撃されて直ぐだから……五年前になる。……その後を引き継いだ奴がヤバいマッドサイエンティストだったんだろうよ」
ユーリェンは苦虫を噛み潰した顔をする。
「強化人間って言うより……これは人道に反した実験体だ。人間をモルモットとしか思わないと……此処まで薬物を使えない」
感情を無くした表情でシズクは断言した。
「……狂っていやがる……」
モミジは悲痛な表情で拳を握り締める。
「ファウストとリキュウの方が俺より宇宙連邦の内部に詳しいからな……。見るかどうかは分からないけど……一応報告は入れておく。モミジ、これから長く闘うなら覚悟しとけ。……軍人は血の通った人間ばかりじゃない。それだけは忘れるな」
「……分かった」
ユーリェンに忠告されてモミジは返事をする。
「……それじゃあ、俺、会長にサタンタワーの守備任されてるからルシファーで待機するぜ」
「おう、敵は来ないと思うが気だけ抜くなよ」
「後で軽食を届けに行かせる」
モミジは手を振って背を向けると、ユーリェンとシズクが声を掛け見送る。
そのままモミジは医務室から出ると、一度立ち止まり溜め息を着いた。
……姉さん、心配していた危険が現実になったな。
照明を見上げてモミジは思い出す。
『今はヒューマノイドも、スペースノイドも表立って大きな争いまでは起こしていないけど……一度大きな事件を起こせばそれが火種となって戦争になると思うの。……戦争は人を大きく狂わせるし……憎しみが憎しみを生む負の連鎖しか起こさないわ……。きっと長引けばそれだけ……人を人と思わない人道に反した扱いをしてくると思うのよ。……私はね……ファウスト先生が発見した理論を私が研究して現実に導く計画を立てる中で……それだけは防ぎたいのよ……』
悲しそうに微笑むマキナの様子をモミジは思い出した。
「……マキナ姉さんが嫌っていた戦争を早く止める為にも、俺達は闘わないと駄目だ。……しんみりしている時間なんかねぇな。早くルシファーに戻ってサタンタワーを守らねぇと……!!よっしゃぁっ!!気合い入れるぞ!!」
一人でモミジは気合いを入れると、力強く廊下を走り出すのだった。




