爪が甘いのだよ。
様々な貿易船や輸送船が行き交い、コロニーの中心に立つタワー【サターン】へと向かって行く。
此処は宇宙を駆け巡り、宇宙一と言われ全ての流通を司る大商会サタン商会が保有する貿易コロニー【ハムレット】。
神童と言われた会長が、世界最高峰の天才達が集まる名門デスティニー大学を飛び級のまま首席で卒業し、それと同時に十数人の仲間と立ち上げたのがサタン商会だった。
15歳でサタン商会を創設し、約10年間で今では宇宙一の大商会となったのである。
他の輸送船に混じって、白い中型の輸送船がコロニー南3番港に入港した。
輸送船の中から数人の船員が降りてくると、電動カートに荷降ろしした木箱やコンテナを次々と乗せていく。
すると、南3番港の係員二人が近付いてきた。
「見慣れない船だな?……悪いが所属商会、又は国、コロニーか会社の名を教えてくれ」
帽子を目深に被り、素顔を隠した係員の一人が電子デバイスを起動させると問い掛ける。
「私は第三宙域メテオコロニーから来た中小企業ヨカランテに所属する輸送船【ゴアズ】です。本日はサタン商会に注文されていた電子機器をお届けしに参りました」
髭面で大柄な男が、ヘラヘラとした笑みを浮かべて名乗る。
「ふむ?では君は?」
ヘラヘラとした笑みを浮かべて名乗る。
「私はゴアズの船長をしております、ビリアームズ・ドベと言う者です」
船長のビリアームズは頭を軽く下げて名乗った。
「所属名、本人認証は確認した。今からメテオコロニーに戻るには時間が掛かるが、今日はどうするのかね?」
薄く笑って係員はビリアームズに問い掛ける。
「そうですね、今日はハムレットの中でも安いホテルに一泊しようかと思います。はっはっは、何せ田舎の中小企業ですからいつも懐の金も持ち合わせが無いもので」
苦笑してビリアームズは係員に答えた。
「ほう、それなら我がハムレットの中でも手頃なホテルを紹介しよう。後程君のデバイスにホテルの住所や写真を送って上げるよ。改めてようこそ、ハムレットへ。サタン商会を代表して歓迎しようじゃないか」
係員は笑ってビリアームズに手を差し出す。
「ありがとうございます、そうして頂けると助かりますよ」
ビリアームズも係員に手を差し出すと、二人は握手を交わした。
「それでは、私共はまだ荷降ろしが残っているのでこれで失礼します」
「あぁ、邪魔をしてしまって悪かったね」
ビリアームズと係員は言葉を交わして二人は別れる。
「……会長、良いのですか?」
充分ゴアズとビリアームズ達から離れた後、ずっと黙っていたもう一人の係員が問い掛ける。
「今はまだ泳がせて置くとしよう。だが、連中も単純で笑いを堪えるのに僕は苦労したよ。サタン商会は全ての企業や商会のデータをデータベースで管理している。メテオコロニーに中小企業ヨカランテなんて存在しない。どうやら……連中を過大評価し過ぎてしまったようだ」
溜め息混じりに係員は言うと、南3番港の事務棟に入った瞬間、帽子を掴んで放り投げた。
長い紫色の髪が露となり、作業着姿の美しい顔立ちの青年は目を細めると呆れた顔をする。
「スパイのセラもそうだが……連中も爪が甘いのだよ。ネズミ共の内、見た目が良いのは生かし、見苦しいのは処分しろと伝達して置け」
「承知致しました。船長のビリアームズはどうなさいますか?」
こめかみを押さえながら命令すると、係員の男が聞く。
「……ふうむ、髭を剃れば私好みの顔付きかもしれんし、小隊長となればセラよりも内部機密に詳しいだろうな。ビリアームズも生かせ」
「承知致しました」
係員の男は頭を下げて返事をすると、早速電子デバイスで指示を飛ばす。
「さてさて、後はセラが動いて他のネズミも動くのを待つだけだね」
ポケットから扇を取り出すと、閉じたまま口許に当て青年は笑って人工太陽を窓から見上げるのだった。