留年の彼方に
「おはよう、笹部君。」
月のない夜の学校の教室に、金色の髪と青い目をした少年が立っていた。
「・・・義則か。」
「そう、僕義則!」
相手をしているのは金髪のイケメン、笹部たかしである。
彼らはとある用があって、深夜の教室に集まっていた。
「それで、どうだ?」
「どうだ、とは?」
笹部は喉をならした。
「テストの答えの件だよ。どうせ俺らじゃ普通に受けても赤点だ、回答は確保できたのか?」
「ふふ」
義則は意味ありげに笑った。それは肯定ではないが、まったくの否定というわけでもなさそうだった。
「そうだね。君は前回テストの答案をひり出したブツで書いて0点。僕は僕の頭でひり出した糞みたいな答えで0点。」
「ああ、だから、」
「ふふ。・・・答案のありかなら、知っているよ」
「なに!」
瞠目する笹部を前に、義則は「ついてきなよ」と言って、夜の廊下へと向かう。
笹部は16年留年している以上ほかにやりようもなく、公望中学校の、ギシギシと軋む暗い廊下に足を踏み入れていった。
と、そこで異変は起きた。
「おばけ、だ、よー」
そう、お化けが出てきたのだ。
髪色は金髪で、目は黒。耳には銀のピアスと見た目は人間そのものだが、その脇から漂ってくる地獄の異臭が、彼が人間ではないことを告げている。
見た目にしても、よく見ると脇が黄ばんでいた。
「わ、お化けだ。」
「む、お化けか」
「そう、お化け。」
「お化けかー」
そうしてそのまま笹部は義則についていって、夜の職員室の前にやってきた。思わず笹部は唾を飲み込む。
「・・・まじで、入るのか?」
「ああ。」
「バレたら完全にアウトだぞ?」
「何をいまさら、君の人生の方がはるかにアウトだよ」
「ポー――――――ッツ!!!!」
笹部は発狂して、怒りのままに義則を殴打した。後日、職員室には笹部の憤死体が転がっていた。
「・・・あんなんで死ぬなんて、愚かだね。アタマ周瑜かな?」
義則はそう言うと、カンニング答案を机に並べたままテストを受けた。
「・・・字が、読めない??」
母国語の日本語で書かれていて、偏差値6.66(ちなみにこれは悪魔の数字である)の彼には読めなかった。
「ポー――――――ッツ!!!!!」
発狂死した。