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SSランク冒険者ですが今日も初級者用ダンジョンで大好きな人を見守ります

作者: てへぺろ


  挿絵(By みてみん)



 シルクスタ共和国、カノープスの街の冒険者ギルドは、昼下がりのけだるい喧騒に包まれていた。


 艷やかな光沢のある駱駝樫(ラクダガシ)製のクエスト受付カウンターの向こうで、受付嬢であるサラは、これみよがしに息を吐く。


「はぁ~、またソロダンジョンですかぁ?」


 自分よりずっと年下の女性に、対面三秒でいきなりため息をつかれ、ローゼはムッとする気持ちを隠せない。


 ローゼは、採集を主とするタイプの冒険者だ。ここ、カノープスのダンジョンは、さして有害なモンスターも出てこず、そのわりに資源が豊富であるため、クエストをこなすためにしばしばローゼは一人で潜っていた。

 今日もダンジョンでのクエスト受注手続きに来たのだが。


 あからさまに眉をひそめるローゼに、サラはピラピラとクエスト受注申請の紙を振る。


「これ、サブクエストの報酬高いやつなのに、ローゼさんったら、また女一人さみしく孤独にダンジョンに潜るんでしょ? 絶対サブまでこなせないですよね」

「別に孤独じゃないわよ。それに、だいたいみんなメインしかやらないでしょ。早く処理して」

  

 ローゼとしては、こんなところでサラの嫌味を聞くよりも、さっさとダンジョンへ向かいたい。いらつく気持ちをおさえて、背中まである緩くウェーブがかった赤髪を粗野にかきあげた。


 そんなローゼの気持ちを知ってか知らずか、サラは両手をかるくぐーの形に握り、あごにあてながら、ふわふわした金色のポニーテールを揺らす。


「もったいなーい! クエストがかわいそうー! ローゼさんもはやく素敵な男でも捕まえて、一緒にダンジョンダイブしてくれるバディにすればいいのにぃ」


 勝手に何癖つけておきながら、この言いよう。

 失礼にもほどがある。

 きっと睨むローゼに、サラはおおげさにビクっとする。仮にもローゼは長年冒険者をやっている。殺伐とした圧をかけるのは、お手の物だ。


「やだぁ、ローゼさん、こわぁい! でもぉ、アッシュさんも、そう思いますよねぇ?」


 ぴょこんとポニーテールがひとゆれし、サラがローゼの後ろを覗きこむ。ローゼのすぐ後ろでクエスト受付けの順番待ちをしている男性に、軽くめくばせした。

 

「え………………、えっと」


 灰青色の少し癖のある髪に、透明感のある青い瞳。冒険者ギルドにいるのが不似合いなほど、アッシュは端正な顔立ちの男だ。年の頃は、サラと同じくらいだろうか。

 身軽な革製の防具や、背中の剣、着ている服の布地に至るまで、ひと目見ただけで良いものだとわかる。

 

 アッシュは妙に掠れた声をごまかすように何度か咳をしたあと、かるく首を傾げた。

 

「ローゼさんの、恋人のはなし、ですか?」


 ちょっとした一言すら、気品がにじむ。その立ち居振る舞いから、貴族の出自を疑われることもあるが、れっきとした平民の冒険者である。


 やだぁ、ちがいますよぉ、とサラが手を口に当てつつ、雑にローゼ用の書類を仕上げる。ろくろく見もしないので、枠から曲がった字がはみでた。

 

「クエストがかわいそうってはなしです。ローゼさん、このクエ行くんですって」

「ちょっと、やめてよ」


 仕上げたクエストカードを、サラがくすくす笑いながら、アッシュに差し出す。ローゼがそれを奪う前に、アッシュがさっと(かす)めとった。


ここ(カノープス)のダンジョン十五層ですか。いつもより、少し深いですね。メインクエストがこなせれば問題ないですし、このサブクエストは⸺ミノタウロスですか⸺危険なモンスター相手にしますので、無理なさらなくても大丈夫ですよ」


 穏やかに微笑むアッシュから差し出されるクエストカードを、ローゼは苛立ちまぎれにひったくった。そんなこと、いちいち言われなくても十分わかっている。


「どうもご確認ありがとうございます! 副ギルドマスター様!」


 ぷいっと顔を背けると、ローゼはなるべくキビキビ動きながらその場をあとにする。

 もう、一瞬たりともこの空間にいたくなかった。


「アッシュさぁん、次、首都行くときお土産買って来てほしいですぅ。ちょっと前にできた、話題のお店知ってますぅ?」


 後ろから響くサラの甘ったるい声に、なおさら苛つき、ローゼはあえて足音を立てながら、乱暴に外へと続く扉に向かった。



 カノープスの街近郊のダンジョン十五層。

 闇と静寂が支配する中、ローゼはランタン片手にゆっくりと歩をすすめる。


 ゴツゴした岩だらけの地面は、濡れており滑りやすい。他に生き物の気配はない。ローゼの静かな足音以外は、水の滴る音がダンジョン内に響きわたるばかりだ。


 特に壁際に近いところを、ローゼは注意深く観察しながら歩く。壁と地面の境目。そこには無数の石が落ちている。平べったいものや、ゴツゴツしたものに混じり、ごくまれに球状の石が転がっていることがある。大きさは子供のこぶしくらいだ。それを、ローゼは探していた。


 今日のメインクエストは、『ベルシュガーの幼体』を三つである。ちなみにサブクエストは『ミノタウロスの角片』。ミノタウロスは、もっと深層にいるボス級モンスターであり、ローゼ一人でどうこうできる相手ではない。はなからサブクエストは、範疇外だ。報酬には心惹かれるが、いつものようにメインクエストに集中する。 


(これかな?)


 他よりも少し黒っぽい球型の石。それをランタンの灯りで照らしながら、タガネとハンマーで注意深く外側を削る。

 小気味よい音とともに、薄く石片がはがれる。中には、黒い葉っぱのようなものがくるくると丸められて入っている。葉っぱをかき分けた奥に、小指の先ほどの艷やかな赤い丸い物体があった。


 間違いない、ベルシュガーの幼体の魔核だ。


(黒ってはじめてみたかも)


 ベルシュガーは植物系のモンスターであり、幼体だろうが成体だろうが、大抵白い。

 幼体を陽の光に当てると芽吹き、いくつもの大輪の白い花を咲かせる。その花を摘んですり潰し、茹でてアクをとり乾かすことで、甘みのある粉末となる。これが、シルクスタ共和国で広く親しまれている甘味料”ベルシュガー”だ。

 最近、輸入されるようになった、アクムリア連邦王国の天花蜜や、蜜葵(ミツリーフ)ほど華やかな味わいではないが、料理や素朴な菓子には十分役立つ庶民御用達の甘味料である。

 ちなみに適切に管理すれば、人を襲うことはない無害な魔物だ。


 ただ、ローゼはいままで、黒いベルシュガーは見たことがなかった。


(亜種? 突然変異なのかも)

 

 鼻を近づけてみると、変わったコクのある香りが鼻孔をくすぐる。


(これはこれでありかも。でもクエスト達成条件に含まれなかったら困るなぁ)

 

 黒ベルシュガーはクエスト的にノーカンと言われたら悲しいので、これ以外にも三つ、普通の白いベルシュガーを採集することにした。


 ひたすらコツコツと探すこと数時間。ローゼの腹時計が静かに主張しはじめる頃、無事に白ベルシュガーの幼体を三つ採集することができた。


 んんーっと伸びをして、戦利品を大事にしまう。

 採集しているときも楽しいが、この達成感もたまらない。

 

 言いしれぬ充足感に、ローゼは鼻歌混じりで今夜の拠点の準備をする。

 今日はこのまま、ダンジョン内で一泊して、地上に戻るのは明日だ。


 ここから先も、ローゼのお楽しみタイムである。

 今日はいつもより早めに潜ったから、時間がたっぷりある。


(せっかく水が豊富な十五層なんだから、カノップスープ作らなきゃ)


 ウキウキしながら熾石(しせき)で火を起こす。煙が出ない、ダンジョン用の特別な火だ。

 そこに、用意しておいた鍋をかける。水は張らず、まずは、ジャノメウシのミルク脂を溶かす。ふつふつと細かな泡がまわりから立ち、コクのある甘い香りがしてきたところに、刻んだリガの根をいれて軽く炒める。香ばしいかおりが立ったところで、千切った干し肉と、細かく刻んでおいた根菜類をいれて、美味しい香りをまんべんなくまぶす。

 

 そして用意しておいたダンジョン水を加えて、ひと煮立ち。このダンジョン十五層の、常に水が滴りおちているつらら石の下にあらかじめ鍋を置いておくと、ミネラルたっぷりの水がたまる。栄養価が高いし、食材の旨味も増す素晴らしい水だ。ローゼは、これを勝手にダンジョン水と呼んでいる。

 

 沸騰したころ、スープの素をいれる。スープの素は、細かく刻んだハーブ類を、発酵させたラバピグルンの肉に混ぜて丸めたものだ。あらかじめ家で仕込んで持ってきていた。

 蓋をしてくつくつ煮込む。漂う独特の香りは、すべてのシルクスタ民の胃を魅了してやまない。

 

 煮込んでいる間に、雑穀パンをスライスして火のそばにおいておく。硬くてシンプルな味わいのパンだが、少し火で温めるとパリッとして美味しさが増す。シンプルなだけに、癖のあるスープにもよく合う。


 木の椀によそうだけで、たちのぼる香りに喉の奥がじわりと潤う。今日はまた、格別に出来栄えが良い。


 とろみのついたスープに、パンを浸してすぐに食べる。浸しすぎるとパリパリ感がなくなるので、すぐに食べるのがコツだ。


 口の中にいれたとたん、じゅわっとぱりっと肉の旨味が広がった。


「ああ、美味しい~!」


 おもわず叫んだローゼの声が、ダンジョン内にこだましていく。



 ぐ…………きゅるるるるる……


 思わず主張してしまった腹の虫に、慌ててアッシュは腹を押さえた。こんなことで、気づかれるわけにはいかない。

 

 ローゼがいる場所からしばらく離れたここ、大きな岩の影である。

 そこからアッシュは時折、ローゼをこっそりのぞきつつ、美味しそうなスープの匂いを堪能していた。

 もちろん、きれいに気配は消している。


 アッシュはカノープス冒険者ギルドの副ギルドマスターである。

 冒険者とはいえ、女性がソロでダンジョンに潜るとか通常ならありえない。危険もたくさんあるだろう。ということで、管理職の職務の一つとして、ローゼを見守りにきているのだった。

 そう、これはアッシュの最重要業務である。

 仕事である。

 ちなみに、誰かに命じられたわけではなく、アッシュが勝手にやっている。


(ローゼさんの、カノップスープ……! おいしそう! 匂いだけでパン三斤はいける……!)


 とか思いつつ、手元の携帯食料をさみしくかじる。味も素っ気もなく、栄養しかないこの携帯食料。普通、冒険者のダンジョンで飯といえば、これである。

 しかしここに、ローゼのカノップスープの匂いが加わるだけで、あら不思議。

 一つ星料理店のメインディッシュもかくやというご馳走に早変わりだ。


(ローゼさん、美味しそうに食べてる……かわいい)


 そう、これは仕事。

 仕事なのだが。

 

 アッシュは、ローゼにベタぼれだった。

 ちなみに、片想いすること十年。十歳の時に十七歳のローゼにプロポーズして、見事に玉砕した過去を持つ。

 

 長く(わずら)い過ぎた恋心は、もはや悟りの境地に達していた。

 ローゼに直接アプローチどころではない。

 視界の端で彼女を見守れればいい。

 なんなら、同じ空間で息を吸っているだけで幸せ。

 それぐらいに悟りきっていた。


(美味しいって叫んだ! かわいい!)


 もう、ローゼが何してても、アッシュは楽しかった。


 副ギルドマスターの権限で、「ソロダイブだめです」とか「僕がついていきます」とか言えばよかったのかもしれない。しかし、毎回、あまりにローゼが楽しそうにソロダンジョンを楽しむものだから、なんとなく野暮な気がして言い出せていない。

 

 アッシュが携帯食料をちまちま食べ終わったころ、ローゼも食事が終わったようだ。鍋に蓋をしてダンジョンの壁際によけ、別の鍋で湯を沸かしてお茶を淹れている。


 どうやら、粉引(こび)きにした猩々豆(ショウジョウマメ)のお茶のようだ。アッシュのところまで深みのあるほろ苦い芳香が漂う。


 その香りにうっとりしているアッシュの耳に、ローゼの独り言がとびこんできた。

 

 何やらブツブツと、あまりよろしくない思い出について愚痴ってるようだ。お茶の入ったカップに話しかけるみたいに愚痴っている。


(あんまり、プライベートなことは、聞いちゃだめだな)


 そう思い、少し岩の奥に引っ込もうとしたアッシュの耳にそれは聞こえた。


「あの副マスさんには、ちょっとわるいことしちゃったな。八つ当たりで、態度わるかったよね」


 副マス。副ギルドマスターのことである。


(俺!? ローゼさんが俺のことを脳内に思い描いてらっしゃる!?)


 不意打ち的な衝撃に思わず岩影ぎりぎりまでにじりよるも、アッシュはひとつ息を吐いて吸って落ち着こうと試みる。


 副ギルドマスターは、三人いる。

 もしかしたら、アッシュのことじゃないかもしれない。


 それでも、胸がドキドキのバクバクで落ち着かなかった。



 細いロウソクの炎だけが、ささやかにダンジョン内を照らす。芯に魔術紋を施した特殊なロウソクだ。こめた魔力のぶんだけ燃えるので、うまく調整して、どれくらい寝たかの目安にする。大抵、朝近くに消えるようにしておき、太陽の見えないダンジョンでの時間の目安にする。

 ローゼは、きちんと魔物避けを施し、安全を確保したうえでシュラフにくるまって、ロウソクの横ですやすやと眠っている。

 

(あぁ、ローゼさんの寝顔見たい……いや、我慢我慢)


 穏やかなローゼと対象的に、岩陰で耐えるアッシュだった。


 これは、仕事なのだ。

 じろじろ寝顔をみるとか、失礼極まりない。


 なので。


(ロウソクの炎チェックしよ)


 ちゃんと灯りがついているか。

 魔物忌避剤は働いているか。

 変な魔物が近寄ってたりしないか。

 

 そんな大義名分とともに、こっそりのぞくアッシュであった。


(あぁー、寝言いってるローゼさんもかわいい……って、いかんいかん)


 頬をつねりつつ、邪念が入らないよう気をつける。

 そんな己との戦いにふけること数時間。


 ふと、妙な気配にアッシュは気づいた。


(なんだ……? ローゼさんの荷物から、魔力が増大する気配)


 壁際に立てかけてあるバッグパック。

 その一部が、もぞりと動いた気がした。


 目を凝らすアッシュの前で、もぞもぞが次第に大きくなる。

 ついには、留具がピンとはずれて、なかから黒くて丸いものが飛び出してきた。

 気づかず眠り続けるローゼの顔の横にころがりつき、ゆるく三回ほど回転して止まる。


(なんだ、あれ?)


 どくん。


 鼓動にも似た振動とともに、それの内側から魔力が膨れ上がった。


(魔物……!)


 アッシュがブーツの両脇を勢い良く叩き、仕込んでおいた魔術紋に魔力を流す。

 加速と消音。

 その両方をオンにし、岩陰から勢い良く飛び出した。


 無音で、しかし霞むほどの速さでローゼのすぐ近くに駆け寄り、黒い球体をひっつかむ。

 それはすでにぱかりと半分に割れ、そこから伸ばした黒い紐状のものをローゼに伸ばそうとしていた。

 つかんだそれを勢い良く遠くにぶん投げる。


 それは見る間に空中で、形を変えた。

 正確には、球体の中から、姿を現した。

 モジャモジャとした蔓を何本も伸ばし、その真ん中にぐるりと瞳が現れる。その色は、赤。

  

 その魔物の形を、アッシュはみたことがあった。

 

(発芽したベルシュガー!? しかも、黒だと)


「う、ううん」


 すぐ近くで、ローゼの小さな声が聞こえた。 

 ベルシュガーに気を取られすぎて、いまだにローゼの近くにいることに気づいたアッシュは、慌ててその場を飛び退く。

 幸いにも、ローゼは気づかず、またすやすやと穏やかな寝息をたてはじめた。


(お疲れのローゼさんを起こさぬよう、静かに処理しなければ)


 だいぶローゼから距離が離れた地底池の近く。

 そこに、さきほどのベルシュガーがいた。

 すでに球体の面影はなく、まるでへびのような蔦をぐるりと何本も生やし、下側の蔦で器用に横歩きしている。


「ピッピッピッ」


 もしかしたら、歩くのは初めてなのかもしれない。

 小さく鳴きながら楽しそうにヨチヨチしている。


(悪いが、眠るローゼさんの近くに、魔物をはびこらせるわけにはいかないんでな)


 アッシュは腰の剣を抜き、チャキリと構えた。

 狙いはベルシュガーの赤い目だ。


「ピピイッ!ピーーッ!!」


 殺気に気づいたのか、ベルシュガーが慌てて飛び上がって甲高く鳴く。

 

「しずかにしろっ! ローゼさんが起きちゃうだろうがっ」(小声)


 パニクったベルシュガーは、アッシュの声に余計に慌ててふためき、くるくると同じところをまわっている。


 アッシュは、一瞬でベルシュガーへと距離を詰め、その目を貫こうとして、ふと思った。

 

(いやこれ、一応ローゼさんのメインクエストの採集対象だよな)


 あたりまえだが、死んだベルシュガーは採集対象に含まれない。

 メインクエストが達成できず、涙にくれるローゼの姿が、アッシュの脳裏に浮かんだ。


(とりあえず、捕獲にするか)


 一旦、剣を鞘におさめ、捕獲用の魔物ネットを出そうとしたそのとき。


 ぞくりとうなじが粟立ち、アッシュは反射的にその場を飛び退いた。

 刹那、鈍い音とともに今までアッシュがいた地面に矢が刺さる。


 目を凝らせば、ダンジョンの闇の中にいくつもの影がみえた。


(ちっ、さっきのベルシュガーの声に惹かれて魔物が集まってきたか)


 十体ほどの異形の影。

 様々な種類の魔物が、赤い目を鋭く光らせながらアッシュをにらんでいる。

 あるものは爪をとがらせ、またあるものは、かつて人間から奪ったらしい錆びた剣をかまえている。基本、二足歩行のオークやゴブリンといった亜人系の魔物だ。


 彼らを見て、アッシュはわずかに目を細めた。話しながら、じっくり観察する。


「まあ、落ち着こう。俺は、しずかにしておきたい。君たちはまだ胴と首がつながっていたい、だろ?」(小声)

 

 アッシュの言葉に、褐色の肌のクアオークがでてきて下あごから生えた牙をふりながら、ぶるるんと顔を揺らす。小生意気に人間風情がとでも言いたげに、赤い目でアッシュをじろりとにらんだ。

 

 クアオークが、ゴツゴツした岩みたいな胸を反らし、めいっぱい空気を吸いむ。

 

「ちょ、まっ」(小声)

「ウオオオオ⸺」

「しーっ! ちょっと、しーーーっ!」(小声)


 いきなり気持ちよく轟音をぶっぱなすクアオークに焦るアッシュ。

 そんな声を出されたら、ローゼが起きてしまう。


「ウオ?」

「むこうで! 寝てる人が! いるからしずかに!」(小声)


 身振り手振りで、クアオークに事情を説明する。


「ウオオオオオオオ!」(小声)

「よし、それでよし」(小声)


 ぐっと親指を立てたアッシュに、クアオークもつられて親指をたてる。


「じゃあ、お互い納得したということで。お前たちは静かに俺を襲うわけ?」(小声)

「ウオッ!」(小声)


 小声ながら威勢のよいクアオークの吠え声に、アッシュは腰の剣に手をかけた。


「なら、俺も容赦はしない。ダンジョン保護法24条の特別条項に則り、正当防衛の権利を行使させてもらう!」(小声)

  

 ダンジョン保護法⸺ダンジョン内の生態系を守る義務を冒険者に課した法律である。基本的に踏破済みのダンジョンにのみ適用される。

 クエスト以外での採集もしくは魔物討伐禁止とか、ダンジョン内で普通の火を使ってはいけないとか、ゴミを残してはいけないなど様々あり、破ると罰金や禁固刑といった罰則もある。

 24条は、魔物討伐を原則禁止とした条項だ。特例として、正当防衛の場合は魔物に危害をくわえてもよいことになる。

 ちなみに、さきほどのベルシュガーは、ローゼに手を出そうとした時点でアッシュ的には重罪も重罪。正当防衛の拡大解釈で、クエスト対象でなければ滅殺の刑であった。


「ウオオオオオオオ!」(小声)

「グキャキャアアア!」(小声)

「ギャルルルルルル!」(小声)

「フゴフゴフゴ!」(小声)


 おもいおもいの小声で襲い来る魔物たち。

 無駄に静かな攻防が、ダンジョン十五層で繰り広げられる。


 敵の数は十。

 そのうち、矢などの遠隔攻撃を使うものが二。

 魔術使いは無し。


 敵の状況を把握すると、アッシュはクアオークの血錆がついた斧を掻い潜り、奥で矢をつがえるブヨゴブリン二匹の弓の弦を切断する。 

 鋭く息を吐き、迫りくるオクトコボルトの棍棒をいなしつつ、その場を飛び退き距離を取る。さすがに多勢に無勢。このまま、まともに剣を交える気はさらさらなかった。


 指で空中に文字を書く。アッシュの指の動きに合わせて優美で複雑な光る線が虚空に現れる。魔術律式と呼ばれる魔術を行使するための定義式である。またたく間に空間に魔術律式を構成し終えたアッシュは、両手の平をパンっとじめんにつけた。


 魔物たちのいる地面が揺らぎ、一斉に泡立つ。威勢よく駆けていた魔物たちの足が地面にとられ、つんのめるようにその場に膝を、手を、顔をつく。

 なんとかもがいて進もうとするものもあるが、ズブズブと肘下まで埋まってゆく。ある程度うまったところで、地面はもとの硬い大地に戻り、魔物たちは足を取られたまま一歩も動けない。


 土系のトラップ魔術、トゥトマライサー(大地の沼化)である。


  いつか、ローゼのバディとしてダンジョンダイブする時に、役に立つように、アッシュが頑張って習得した魔術だ。土系は、ダンジョンと相性が良い。


「さて、あとは首を刎ねるだけなんだが」(小声)


 アッシュは、剣を構えて身動きできない魔物たちをゆっくりとみまわす。

 屠られる予感に、魔物たちが悔しげに歯を食いしばる。

 中には覚悟を決めて首をうなだれるものもいる。


 アッシュ的に少し悩んだ。

 このまま殺すのは簡単だ。ダンジョン保護法的にも問題ない。

 しかし、この数を殺してダンジョン内の生態系に影響を及ぼすのは、良くない気がする。ダンジョン内の調和が乱れて、ローゼがソロダンジョンを楽しめなくなるかもしれない。


 思考するアッシュのうなじが、チリと粟だった。

 かすかではあるが、確かに大地が揺れた気がした。


 振り向いた先には銀色の軌跡。

 咄嗟に剣の腹で受け流しつつ、横に飛ぶ。


 硬質な音をたてて、剣が真っ二つに折れた。

 剣で防がなければ、アッシュが真っ二つになっていただろう。


『ほほう、今のを防ぐか』


 奇妙なひきつるノイズ混じりの地を這う声。それとともに、ダンジョンの奥から巨大な魔物が姿を現す。それが一歩あるくたびに、大地が僅かに揺れる。鏡のようだったすぐ横の地底池の表面に、細かい波紋が現れる。

 魔物の頭には捻くれた二本の角。

 牛頭人身の魔物。

 その身にはサイズの合わないボロボロの革の鎧をまとっている。


「ミノタウロス!? 人語を操るボスクラスがなんでここに」(小声)


 しかも、ミノタウロスだけではない。

 その配下と思われる魔物が、わらわらと出てきた。こちらも、オークやゴブリンといった、亜人系だ。

 

 ミノタウロスは変わらず地を震わす声を張り上げる。


『好き勝手、やってくれたな、小僧! このダンジョンは、我の城! 我が領域! 我の肚のうちにも等しい! 今ここで⸺』

「しーーーーっ!!! 静かに話して!!」(小声)

「ウオッウオオッウオ」(小声)


 とりあえず、気持ちよさそうに口上述べ始めたミノタウロスを、アッシュは止めた。クアオークもなぜか事情を説明してくれている。


『今ここで、この魔巣の礎にしてやろう』(小声)


 ミノタウロスも、意外と物分りがよかった。

 しかし、武器を振りかぶって襲ってくるのは変わらない。周りの配下も、小声で武器を振り上げる。


「残念だが、俺もダンジョンは得意でね!」(小声)


 アッシュは、ふたたび魔術律式を虚空に描く。アッシュの指の動きとともに、ふわふわと黒い球体が空中に現れる。拳大の球体は、その数、十個。アッシュが手をふると同時に、十個の黒い球体は、いまだ足を大地に縫いとめられた十体の魔物へと飛んでいき吸い込まれるように消えた。


 さきほどは沼と化していた大地が今度は盛りあがった。身動き取れない魔物たちを、盛りあがった石片が足から呑みこむように侵食していく。

 十体の魔物たちが、またたく間に土に覆われる。それはすでに魔物ではない、赤い目をした異形の岩の塊だった。

 

 それが、動く。

 パラパラと関節から砂礫を撒き散らしながら動き出し、まるでアッシュを守るように陣形をとる。


『なっ、魔核を利用したゴーレム化だと!?』

「小声、小声を忘れないで」(小声)


 おっと、みたいに、ミノタウロスは口に手を当てた。

 

『貴様、ただの冒険者ではないな!? その胸の冒険者ギルドのバッジ、SSランクだと!?』(小声)


 アッシュの胸の白銀に輝くバッジに気づき、ミノタウロスは目を見張った。

 そもそも、ここは初級者用ダンジョン。

 しかも、浅層部。

 よくてCランク、大抵Dランク以下の低レベル冒険者がたまにくる程度だ。それもたいてい、採集目的。

 このダンジョンを最初に踏破した冒険者のランクもBとかだったはずだ。

 こんなところに、最高ランクであるSSランクの冒険者がいる事自体、普通ならばありえないことだった。


 それに加えて、さらにミノタウロスにはふしぎなことがあった。


『なぜこんなに魔術に長けている! だいたいの冒険者は魔術など使えないはずだ!』(小声)

「決まっている! 愛の力だ!」(小声)


 ゴーレム魔術ジャムジャムデーモン(魔物仕掛けの絡繰人形)⸺各地に眠る古いゴーレム史跡を研究しまくり、土系の魔術を極めた結果生み出された、アッシュオリジナルの魔術。魔物がいる限り、石塊の軍勢を生み出すことを可能とする。

 これにより、数多(あまた)の高ランクダンジョンをアッシュは今まで踏破してきた。魔術師としても天才の名をほしいままにし、冒険者より宮廷魔術師か軍部に所属したほうがいいのではと各方面から言われた。「なんで冒険者なんてやってるの?」は、週に一度は言われ、様々な組織からのヘッドハンティングの声がけがあとをたたない。


 だが、そんなこと、アッシュにとっては瑣末なことである。


 これもすべては、ローゼのため。


「ゴーレムに家事育児まかせれば、その間俺はローゼさんと、いちゃいちゃできるだろ!」(小声)


 その一念で、アッシュは土系魔術を極め、ゴーレム魔術を編み出したのだった。

 男として、眼中にすら入っていないくせに、すでに結婚後のことを想定している。妄想だけは逞しいアッシュだった。


「さて、俺とおまえ、どっちがこのダンジョンの主にふさわしいか試してやろう。泣いてその角一本差し出せば見逃してやる!」(小声)


 アッシュは折れた剣を指二本でなぞる。

 折れたはずの先に石の刀身が現れる。一瞬光ったそれは、鈍色に光る黒い刀身と、化した。


「悪いが、こっちのほうが切れ味はいいんだ」(小声)

『くっ! いいだろう! SSランクだろうがなんだろうが、この我の力思い知るがいい! こい!』(小声)

「くらえ! 俺の(ローゼさんへの一方的な)ラブパワー!」(小声)


 無数の魔物とゴーレムが激突し、剣戟があたりを支配する。

 見た目に反して静かに行われる戦闘は、意外とミノタウロスが粘って明け方近くまで続いた。



 もぞもぞと、薄い光の中、目を覚ます。

 消えかけのロウソクの火がみえた。


「んんー……ふああ」


 寝ぼけ眼をこすりながら、ローゼはランタンに灯りをともす。ランタンがあかあかと周りを照らし出した途端、ロウソクの儚げな火は、もうその役割を終えたとばかりに存在感を失った。


「よしよし、今日も異常なしね。よく寝たあ」


 シュラフから出たローゼは、あたりをぐるりと確認する。まわりに張っておいた魔物忌避剤もやぶられておらず、ローゼが寝つくまえと、周りの風景はなにひとつ変わっていないように見えた。


 もう一度、ふああとあくびをして、シュラフを片付ける。


「んー、顔洗お」


 気持ち良い目覚めだが、もう少しシャキッとしたくて少し離れた地底池までのんびり歩く。特に周りに異変もなく、ダンジョン内は、昨日と全く同じだ。むしろ、心なしかきれいに掃き清められているようだ。

 地底池の表面が、大理石の床のようにピンっと真っ直ぐ静寂を保つのも変わらない。ローゼが指をいれると、わずかに池の表面が揺れ、すぐにまた静けさをとりもどす。

 指先から伝わるしびれるような冷たさに、ローゼの意識がクリアになっていく。

 冷たい水でぱしゃぱしゃと顔を洗い、拠点に戻ってきたローゼは、ふと壁際に見慣れぬものがあることに気づいた。


「黒色のベルシュガー?」


 昨日採集したはずのベルシュガーが、洞窟蔦でぐるぐる巻にされて転がっている。昨日はまんまるだったその表皮は、かるくへこんでいたりして、どこかにぶつけたようだ。

 そしてその横にきれいに並べておかれている黒くて捻くれた物体。


「これって……ミノタウロスの角片!?」


 思わずあたりを見まわしてみるも、魔物の気配はおろか小動物すら見当たらない。


「えと……ラッキー、なのかな?」


 不思議なことがあるものだと首をかしげつつ、ベルシュガーとミノタウロスの角片をバックパックにしまう。


「とりあえず、朝ごはんにしましょ」


 昨日のカノップスープの残りを粥に仕立て、チーズでとろとろにするのだ。

  想像しただけで、胃袋が元気になる。


「はあ、やっぱり、ソロダンジョンたのしー!」


 すがすがしさとともに、ローゼは気持ちよくひと伸びした。


  

 どんっとカウンターに置かれた採集品をみて、受付嬢のサラは目を丸くした。


「ロ、ローゼさん、これ、これって!」

「今回のクエスト完遂したわ。メインもサブもね。報酬受領手続きお願いできる?」


 クエストカードと採集品の間を、何度も目線を往復させながら、サラは手元の台帳を確認する。採集品の大きさや重さを測り、うわあと声をあげた。


「すっごおおい! ミノタウロスの角片とか、この大きさなら一ルクス金貨いくんじゃないですか。それを独り占めとか、いいなぁ。うらやましいなぁ」


 一ルクス金貨はかなりの大金だ。それだけあれば、一家族が一ヶ月、余裕で暮らせる。普通はパーティーを組み、仲間と分けるレベルの報酬である。


 サラは手をぐーにして頬にあて、しなをつくった。目の前のローゼの顔が金貨にみえる。

 

「ローゼさあん、こんど一緒にごはんいきません? もちろん、ローゼさんのお・ご・りで」

「行くわけないでしょ。これでダイブ装備一新するんだから外食する予定なんかないわよ」

「えええええ、信じられなあい! もったいなあい! なんてお金のむだづかい!」


 むきいいいっとサラがカウンターのむこうで歯噛みしている。

 ローゼがダンジョンで稼いだ金なのに、図々しいにもほどがあるサラだった。

 

 下手すれば報酬をちょろまかしそうなサラを、ローゼはきっと睨む。


「もう、ばかなこといってないでさっさと報酬渡しなさい」

「はぁい。ううっ、ソロダイブがこんなに儲かるなんて……信じられない。なんかくやしい。……ねぇ、アッシュさんもそう思いません?」

  

 ぴょこんとポニーテールがひとゆれし、サラがローゼの後ろを覗きこむ。ローゼのすぐ後ろでクエスト受付けの順番待ちをしている眠そうな男性を上目遣いにみやる。

 

「あ………………、えっと」(小声)


 目の下にクマをつくり、ぼんやりとしていたアッシュは、腕に大きな箱を抱えていた。声をかけられて、咄嗟に顔をあげ、一瞬固まり、また顔を下げる。灰青色の髪で隠れていなければ、その耳が真っ赤であることがみてとれただろう。

 

「その、ローゼさんに、これ、これを⸺」(小声)

「受付業務の邪魔になっちゃってるみたいなので、私はこれで失礼しますね」


 モゴモゴと何言ってるか聞こえないアッシュにちらりと目線をやり、ローゼはさっさとその場をあとにした。

 報酬はもう受け取った。

 どうせ昨日のような腹立たしい展開になるに決まっている。また、苛立ちを覚える前に立ち去るのが賢いというものだ。


 ローゼの背中越しに、サラのきんきん声が響く。


「あっ! アッシュさん! その箱、首都で話題のお菓子屋さんの箱じゃないですかー! 昨日、私が言ったこと覚えててくれたんですねっ!」


(私と全然住む世界が違うわね)


 ローゼは泥で汚れたブーツを見て、自嘲気味に息を吐いた。


 確か、あのアッシュという男は若くして冒険者として成功の王道ど真ん中を大手を振って歩んでいるはずだ。女性から誘いを受けているところもよくみる。なぜこんな田舎(カノープス)の副ギルドマスターを兼任しているのか知らないが、その華々しさはローゼには眩しすぎた。


(あの目の下のクマは、女遊びかしらね)


 抱えていた可愛らしい袋に入った箱も、あの受付嬢にでもあげるのだろう。そういうところには気が回りそうなタイプだ。


(あんなきれいで優秀な男の子が、可愛らしいお菓子を買ってきてくれるとか)


 自分の人生とは無縁すぎてため息しかでない。

 別に、うらやましくもない。

 嬉しそうにサラがお菓子をうけとるのを見たくなくて、ローゼは足早にその場をあとにした。


 

「結構、男性がはいりにくい店構えって聞いてるんですけど、大丈夫でした? って、アッシュさん、なんでそんな小声なんです?」

「はっ、もう小声じゃなくてよかったんだった!」


 はふっと息を吐いて、アッシュはお菓子の箱をカウンターにおいた。

 ほぼ貫徹のまま、朝イチで首都の冒険者ギルド本部に呼び出され、ひと仕事こなしたため、眠くて頭がうまく働かない。

 手元の菓子は、完全に寝不足でかるくラリった状態で、「ローゼさんが喜びそう」ってブツブツ言いながら、首都のおしゃれな女の子向けの菓子屋で買ったのだった。

 確かに店構えは可愛らしくて一瞬ひるんだが、アッシュよりももっと不釣り合いそうな体格の良い怪しげな男が常連風吹かせて店から出てきたので、それに背中を押される形でアッシュも店に入ることができた。

 店でも小声だった気がするが、可愛い店員さんはそういう男性客の扱いに慣れているようで、手際よく注文をとって菓子を包んでくれた。


 そして、ローゼのダンジョンからの帰還に間に合うよう、大急ぎで帰ってきたのだが。

 

 すでに目当てのローゼの姿はどこにもなく。

 アッシュはうなだれながら、箱をサラの方に押しやった。

 

()()()()()()()()()食べてください」

「きゃーん!()()()()に買ってきてくださったんですね! ありがとうございますうぅ!」

「じゃ、僕はもうこれで」

「ああん、アッシュさんも一緒に食べましょうよう! なんなら、今夜、一緒に食べません? お菓子じゃなくてもいいんですけどぉ。あぁん、つれない」


 熱烈にサラが目配せするものの、アッシュは、眠そうに首を振り、とぼとぼとその場をあとにするのだった。

 


 それから数日後。

 冒険者ギルドのはり紙をみて、ローゼは唖然とした。


”ダンジョン内で臭いの強い食べ物禁止(例:カノップスープ)”


「ええっ、なんで!?」


 どうやら、においの強い食べ物をダンジョン内でとると、魔物たちへの飯テロ状態となり生態バランスに悪影響を及ぼす可能性があるらしい。

 ミノタウロスの子供の夜泣きが止まらなくなるといった具体例がそこには書かれていた。


(しかたないかー。じゃあ、匂いが少なくて美味しいものつくろ!)


 あきらめずに、ローゼはあらたなレシピへのチャレンジに意欲を燃やすのだった。


 

 そんなローゼを柱の影から見つめるものがあった。


(ローゼさん、すみません、こればっかりは対処せざるを得ず)


 アッシュである。

 明け方までミノタウロスと死闘っぽいものを繰りひろげ、最後、負けを認めたミノタウロスからよくよく話を聞いたところ、カノップスープが原因で困っているということだった。そのため、冒険者ギルドに注意喚起することをミノタウロスと約束した。


(それにしても、ちゃんと魔物の事情まで配慮できるなんて、誰かしら? 素敵ね)


 などとローゼの中で、ひそかにアッシュの株があがりかけているのだが、見守っているだけのアッシュに、それを知る術はまだない。


 さて。

 このあとも変わらずローゼを見守り続けるアッシュの運命が変わるのは、ここから約三ヶ月後。

 ダンジョンでスライムに襲われたローゼを助けて治療したことをきっかけに、二人の仲は大きく進展するのだが、それはまた別のお話。


【完】

お読みいただき、ありがとうございます!

少しでもお楽しみいただければ幸いです。


三ヶ月後の話は、えっちなはなしになりますので月光の元に晒しております。

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