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熱々はふはふ


「…………」




「本当に大丈夫? 顔色が悪いよ?」


 様々な思考が渦巻き混乱していたが、一緒にまき拾いをしていた彼女の言葉で我に返った。


「――ああ、ああ。大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてさ」


「カナメはいつも変な事を考えるもんね」


(変、か。確かにらしくないことを考えてたな……)


「ま。薪はこのくらいあれば煮炊きするくらいは足りるかな。もどろう」


「うんっ」


 両手に薪を抱えて戻るとラスターとセラが遅い、といった様子で薪の到着を待っていた。

金属製の鍋には綺麗に盛り付けられた、肉と食べられる野草、そしてたっぷりの汁。


 後は煮て火が通るのを待つだけ。

 見たことはない動物だったが熟練の冒険者がとった獲物だ、まちがいはないだろう。

 カルブは両足を前にほっぽり出して無言で座っている。


「セラさんは――」


「どした? 少年」


「いえ、冒険者だった時……」


「なによ?」


「――世界を、救いたいと思ったことは、ありますか?」


「藪から棒に。魔族と人族の争いは何千年も続いてるんだよ? そんな、私一人がどうこうしたところで――。ごめん、君たちはそのために旅をしていたんだったね」


 火を起こせる魔術は光の精霊の力を借りて太陽光を収斂すれば使えるが、魔力の温存のためと、曇り空のために断念。ラスターの銃の火薬を借りて着火した。

 ぐつぐつと蒸気を立てる鍋の蓋を開けて持参したお玉で混ぜながら、セラがカナメに失言を詫びた。


「でも。でもね。カナメ君達なら、何となくやってくれそうな気がするよ。マスターも言ってた」


「カナメはきっと世界を救います!」


 食事の完成を心待ちにして涎を垂らしていたユーミが急に立ち上がり、責めるように先輩冒険者に大声をあげた様子を見て、ふふっと笑いながら。


「疑ってるわけじゃないよ。でも、みんなが平和な世の中を夢見ながらも、誰も自分の生活を変えようとはしない。自分以外の誰かがやってくれるって願うんだ、他力本願にね」


「そりゃあ、そうです。誰もが皆、戦う力があるわけじゃないんですから」


 セラが蓋を開けている隙に、乱雑に小皿を鍋に突っ込んで汁の味付けを見ていたラスターが会話に割り込む。

 彼の言うことも一理あるが。


 ――そんなに他力本願でどうするの。自分の力で切り開かなきゃ! 人生はさ――


 この世界に転生する前に、精霊王ウィシュナが言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。


「僕だって、つよいわけじゃないんだよ、ラスター。いつも誰かに頼って、力を借りなければ戦えない」


「でもね、カナメ君。いろんな人を助けて回ってる君を見ていると、力を貸したいな、って心底思えるよ? それに、実際にいろいろな町や人を救っているんでしょ」


「それは、このユーミが首をつっこむから」


 カナメに名指しされてみるみるしゅん、とする魔術師だったが、長いこと生きているハーフエルフの冒険者がしっかりとフォローをする。


「それじゃあ、ユーミちゃんのおかげだね。パティエナが助かったのは。――ありがとね」


 よしよしと頭を撫でて食べごろに煮立った鍋を椀によそいながらユーミに渡す。


「ささっと食べて一休み。そして麓を目指そ。雨が降ったら疲労が倍々だよ」


 ふーふーと息を吹きかけ具材を覚ましてから口に放り込み、幸せそうな顔をするユーミを見ると、それだけでも世界を救う理由としては――。


「あるよ」


「……え?」


「――私も。私だって、世界を救いたいと思ったことが、あるんだよ」


 それじゃあ、一緒に。


 そう言おうとしたカナメだったが、言えずに彼女が差し出す椀を受け取るだけに留める。

 ユーミも、ラスターも。

 世界を救いたいから力を貸してくれ、そう願って着いてきてくれたわけではない。

 彼女と彼が、自信で願い出たから同行している。

 心強いから。

 それだけで彼女の人生を自分に掛けてくれ、とはとても言えなかった。


 言葉を紡ごうと開けた口に無理やり熱い具材を放り込んで、ハフハフ言いながら次の言葉を探す。


 やがて出た台詞はこうだ。


「セラさんが、僕に人生をかけてもいいって思ったら助けてくださいよ。まー、のんびりしているといつの間にか僕に世界は救われているでしょうけど」


 初めは、隠居してモブとして暮らしていれば、精霊王が魔族をコントロールして拷問してくるという話だった。

 しかし今のところ、かの精霊王にそのような素振りはない。

 そうしていつの間にか、カナメはこの世界が少しだけ”好き”になっていた。


新しい町にたどり着く度に。

初めて会う誰かに出会う度に。

”この世界”が好きになっていた。


 自ら、この世界を救いたいと思った。


 ――偶然なのか。



 ふと、脳裏によぎる言葉をアツアツの具材を口に放り込むことで振り払いながらさらにセラを煽った。


「なにも最前線で戦うだけが、戦いじゃないですよ。それに――」



 ”本当に魔族を打ち倒す事が、世界を救うことに繋がるかはわかりません”



 思考の片隅にあったその言葉はなぜか、どうしても言ってはならない言葉の様な気がして、先ほどと同じように別の言葉を探す。



「それに、僕たちが困ったら助けてくれれば十分有難いことですから! 今回みたいに」


「あはは。ありがとね。まぁ、今回は意地でも君たちを助けるつもりでいるよ!」


 笑いながら、自分の椀とお代わりのユーミの椀に具材をよそって、空を見上げるハーフエルフ。



 徐々に黒々と、濃く厚くなっていく雲。



 麓について野営するまでに雨が降り出さないことを一行は願った。


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