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これからも

 町を出て歩き続ければ、やがて街道に雑草などが目立ってくる。

 踏み均されて歩きやすかった道は次第にがたつきが現れ始め、道の中央にも人の身長ほどの草が伸びているほどに手が入れられていない。


 ラダ・クリッタから南に少し進み、街道を外れて東へ。

大昔には道だったと、言われてみればわかる申し訳程度の道を行く。


「こりゃあ、草刈りが必要じゃないかね」


「人気がないんだよ、わざわざ危険なトゥリヘンドの山へ行こうっていう、動機がないわけ」


「そんな場所に”その人たち”は、それでも住み続けていたのでしょう?」


 ナイフで草を払いながら進むことに飽きているのかぶっきらぼうに話すセラに、それでも質問をかぶせるラスター。


「集落まで行ければ意外と住みやすいのかもね? それとも何かがその場所にある、住み続けなければいけない理由がある、とか」


「なにかを、守っている、のかなぁ」


 ユーミが言うように何らかの秘匿を、一族が守っている。その場所で。

充分にあり得るとカナメは考える。

 と、同時に思い返した。


 一族は『剣』を守っていたのかもしれない。この腰に下げた、一時は呪われていた聖剣。光の精霊が封じられるほどの――。


 魔族が侵略して滅ぼしたとしたら、目的は。”召喚術士”の全滅か、それとも”聖剣の奪取”か、或いは両方。


 考えたところで結果は変わらない。

ポケットに手を突っ込み、忍ばせていた飴玉の様な甘味を取り出して口に放り込む。

 洗練された味ではないが、糖分が頭に補給されたような錯覚を覚えるには十分だ。


「あー、ずるい!」


 頬を膨らませてカナメが口にしている甘味をねだる魔術師に再度、同じ所作を繰り返して手渡す。ついでにラスターとセラにも。


 飴玉を片方の頬に格納して、ぶつぶつと何か独り言をこぼす、セラ。

しかし手は休めずに、ナイフを魔力の矢に持ち替え他のメンバーが気付かないような距離にいる、モンスターを射貫く。

 どうやら、あまい、おいしい、染みるぅ、鬱陶しいなもう! などと甘味の評価と草の陰から眈々(たんたん)とこちらを狙う者たちへの文句が入り混じっているようだ。


 カルブが首をグリっと横に向けてじっとセラの顔を覗き込む。


「うん、拾ってきて。たまには食べてもいいよ」


 凄腕の弓士はどうも、いくつか食べさせる代わりに遠くの魔石を回収してくれる得体の知れない存在が気に入っているようだった。


「へへへ、ありがとねっ。カルブ君」


 草影の頭から立ち上る霧。

モンスターを仕留めた証拠をめがけて一直線に走り、そしてまた一直線に戻ってくるカルブ。彼から回収した魔石を腰に下げた袋に収納しながら頭をぽんぽんと二回触る。

 道中で何度か同じ手法でモンスターに襲われる前に先手を打ち、仕留めながら進んできていた。


「しかし、とんでもない技術ですね……それに、わかるのですか? 敵の位置が」


「んー……勘だよ、勘。何十年も単独で冒険者をしてたからね。それに、ラスター君の()()は威力は素晴らしいけど、音が大きすぎて隠密行動には向かないかもね」


「確かに、一発撃ったらこっちの位置が割れちまうよなあ」


「まあ、白兵戦の後方支援なんかでは強力な事は変わりないんだけど。その代わりに『狙われる』から覚悟してね? 敵にも遠距離攻撃はあるモンだと思った方がいい。それと――」


 同じ遠距離攻撃を得意とする先輩として、ラスターに助言をする彼女。

 喋りながらも器用に手を動かして、矢を射る。カルブに小さな魔石を食べさせて、射たものをとってきてくれるように促していた。


「――獲物が逃げちゃうと狩りにならない。一旦ごはんにしよう、天気が崩れるまでに麓の辺りまではたどり着けそうだ」


 回収係からウサギにも似た獲物を受け取ると、高らかに皆に見せて食事休憩を宣言する。


 早朝から六、七時間歩き続けて、今は昼をとっくに過ぎていた。

 予定では、ここで休憩をして麓の辺りに日暮れに到着。野営をしてまた早朝、緩やかに勾配をあげていく道を半日進めばトゥリヘンドの山へ。

 少し進んで一気に傾斜と道が険しくなる前にもう一度、ひと眠りしてから本格的な山登りだ。


 荷物を降ろし、先ほどは草を払っていたナイフで獲物を捌き始めるセラ。

 カナメも旅の途中で鳥や蛇を捌いたことはあるが、とても彼女のように器用にはできない。熱心に彼女の手元を観察しながらも、水の精霊の力を借りて持参した鉄の鍋へと透き通る液体を注ぐ。


『主様ぁ~、どうですかぁ私の水はぁ~』


「ああ、助かるよ。味は別に普通の水だけどな」


『あぁ~ん、い――』


 瞬時に水の精霊シズクを腕輪に封じ込める。

実際は生命に不可欠の水を出せることには大助かりしているが、彼女の間延びした独特の()()は旅の緊迫感をごっそりと削いでしまう。

 ――もっとも、雑に扱う方がこの精霊にとっては喜ばしいことのようだったが。


「便利なものですね……水を扱う魔術師でもそんなに単純な動作で水を出すことは困難なのではないでしょうか」


 水の満ちた鍋を受け取って、落ちている石を組んで作ったこの日限りの(かまど)に置くラスター。一人暮らしだった彼は料理ができるため、味付けなどの調理は任せる。


(たまたま精霊達が助けてくれるだけ、なんだけどな)


 ふと、今となっては、精霊王より授けられた”精霊王の加護”。この力なくしてこの異世界で生存することは出来なかったかもしれない、とカナメは考えた。

 間違えて転生しなければその加護は得られていない。

もし、別の人間が転生していれば自らの才覚のみでこの地を旅することになったのだろうか。

もし、”18歳未満は戻る(リターン・)を押してください(エイティーン)”のみで戦うことになったら。


 頭をぶんぶんと振り、薪になるものを探しに行く。


「まき拾い? わたしも行く」


 手持無沙汰のユーミを引き連れ木が生えている場所まで歩く。想えば、この不憫な魔術師と出会わなければカナメは戦うこともできずにいたのかもしれない。


 ――本当に、間違えたのか、精霊王は。


 ――本当に、偶然なのか、自分が出会った人は、場所は、仲間達は。


 黒の聖女アヴァリーザ。

 名もなき聖剣。世界樹。

 ユーミ。

 冒険者ギルド。

 ラスター、カルブ。

 光と、水の精霊。



【――…カナメ? あなたはこれからも奇跡を起こすでしょう――】



 これからも? 


(ユーミ、君は一体、誰なんだ?)



「ね、カナメ、大丈夫?」



 いつの間にか強く握りしめていた渇いて白んだ薪は、手汗を吸収して少しだけ、黒く変色していた。


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