滅びた村とスケルトン
依頼。
一つの国家を欺く代わりに片付ける、一つの依頼。
とても簡単な依頼とは思えないが。
いつだったか、勝手に世間知らずだと思い込んでいたユーミでさえもが知っていた『ハリルナルク教』、遥か北方に位置する、その信仰によって支えらる国家『ガーリラウヤ』。
異世界よりの転生者にはその国家が影響する力は読み取れないが、絶対に分かる。目を付けられないに越したことはない。
それにこの世界の常識としては海に面する隣国と、どうやら何かをめぐっていざこざがあるという話だ。
「なぁ、おっさん。その依頼ってのは、なんだかやばそうな匂いがするんだけど」
「そりゃあ、そうだろう? お前さんはこの冒険者ギルドのラダ・クリッタ支部。そのギルドマスターに対して、依頼主に”嘘”をつけって、言ってやがるんだぜ?」
「……危険、なの?」
ギルドマスターたる大男とパーティーのリーダー格との対話から、この依頼には大きな危険があると察する魔術師。
その質問は、”質問”ではなく、”確認”の一種だ。
その依頼が、危険であることは疑いようもない。
「ちょっと、マスター。”依頼”って、もしかして」
「ああ。何人かの隕鉄級が挑んだわけだが、誰も帰って来やしねえ。そのくせ依頼主は”力ある者”だから厄介だ。毎日毎晩、依頼の成否を確認しに鳩を飛ばしてきやがる」
初めはセラに返答する形で語っていたが、後半ははっきりカナメ達に向けて言葉を発する。
「依頼が達成できねえでいちゃあ、このギルドの名折れ。俺がセラとパティエナを連れて出張っていこうか考えていたところだが、達成難度が高けえ依頼の度にマスターが出るってのも考えモンだ」
(危険な依頼か、国家に目を付けられるか、二者択一……か)
同時に、カナメはこの気のいいギルドマスターが、自分たちをむざむざと死地に送るのだろうか、と打算的に考える。
「おっさん。僕たちにわざわざその依頼を頼む、ってことは、僕達だったら達成できる可能性があるって、踏んでいる。違うか?」
「ハッ! ご名答。 どうもこの依頼は”魔族”が絡んでるんじゃねえかと考えてんだよ」
「僕たちは何も、魔族の専門家、ってわけじゃないぞ……?」
「それにしても、グラシエル国転覆を狙う魔族に、さっき言ってたろ? ドワーフの町でも魔族を退けた。聞いたことがねえ、それほど魔族に対して常勝してる聖王以外の人間なんてのは」
「偶然だよ、買い被りだってば」
「いやあ、はっきり言って奇跡だ。神がおめえさん達を生かしてる、としか思えねえ」
神の思し召し。
この世界の転生前に、精霊王が言っていた。
神さまなんて――。
ふと、特に理由などないが。
思わず口にする。
「おっさんは、『神さま』がいるって、思うか――?」
「……知らねえなあ。神様っちゅうのがいたら、仲間は、冒険者は、死ななかったのかね? それとも、神様がいたから、辛うじて俺が生き残ってんのかね……」
どこか遠い目をしてガラルドは語る。
「まあ、ついでだ。その依頼、受けるよ」
どうにも直感から、この依頼を断るという選択肢があるとは考えられなかったカナメは決断をしたことを告げる。
それに、パーティの財布は底が見えかけていた。依頼を達成できれば資金調達にもなる。
「そうか。やってくれるってのは有難えが、十分気を付けてくれよ? 依頼の内容は……セラ、頼まぁ」
ガラルドがそう言って目配せをすると、セラは頷いて一呼吸おいてから概要を話し始める。
「本件は、公の依頼、ってわけじゃなくてね。ボードに張り出して受注を募る形式じゃなく、ギルドである程度人選をしたうえで依頼してる」
「少しだけ機密性が高い依頼ってわけですね」
「そう。――ざっと説明するね。これは聖王国アルジエナからの依頼。ここから南東へ一日半ほど進むと山間の森に『召喚士の村』があるって話があった。魔術ともギフトとも違う特異な術式を用いてどこからか召喚獣を呼び出すことができるという種族の集落……」
「聞いたことがあります。術式を真似たところで普通の魔術師では”召喚”を再現することは出来ず、どうやら一族の”血”がその術式を可能にしていると」
「うん。私達も噂でしか聞いたことがない。そもそも険しい山を踏破しなければたどり着けないし、興味本位で山登りするには危険すぎる。そして――」
感情を見せず、淡々と話をしていた彼女は言葉を紡ぐことをやめ、しばし沈黙していた。
「そして?」
「人族と魔族の争いが激化するのであれば、召喚士は人族に力を貸す。そういう盟約が先々代の聖王様と召喚士の族長との間で結ばれていた」
「だったら、こっちの味方ってわけですね」
世界を救う、その目的への強力な援助をしてくれるかもしれない、そう思って胸を躍らせるカナメだったが。
「――その集落が、魔族の侵攻によって滅ぼされたのよ」
「……え?」
「不思議な鳥のカタチをした生き物が運んできた文で危機を知った聖王国は、黒の聖女様へ救援を依頼した。並みの人間が徒歩で進んだのでは時間がかかりすぎるからね。竜に乗って聖女様が駆けつけたものの時すでに遅く、大量のスケルトンの群れが集落を蹂躙していたそうよ。遅れて聖王国の騎士がたどり着いたときには聖女様がスケルトンを全滅に追いやっていたみたいだけど」
――”スケルトンの群れ”に、”黒の聖女さま”
何か引っかかって記憶を掘り返したカナメがたどり着いた結論。
この世界に転生した折、荒野で出会った聖女から譲り受けた『聖剣』、
それは、確かにスケルトンが持っていたと聞いた。
光の精霊が宿っていたその剣を手にしたことで、いくつもの窮地を脱してきた。
実際のところ、剣とその召喚士の集落の関連性は聖女本人に聞かなければわからないが、そこに行って確かめなければ、なにか運命じみたものを感じて、そう思わずにはいられなかった。
しかし、依頼の趣旨が分からない。
その滅びた集落で何をして来いというのか。
「少し話がそれちゃったね、ごめん。その集落での生き残りを探してこい、ってのが今回の依頼よ」
「生き残り、って。その村は滅びたのでは?」
「それが、ラスター君。危機を知らせた文を運んだ不思議な鳥。つい最近、その目撃情報があったらしいんだよ」




