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ひとつ依頼を

「この、認定試験は、このギルドだけの特別でよ」


 どすっと特別製の大きな椅子に腰かけると、小指を耳に突っ込みながら、カナメたちをソファーに促す。


「冒険者は、死ぬ。いやぁ、死んでいたよ。中級者に上りたての頃もばったばったと身の丈に合わねえ依頼を受けてやられてったが、初心者の頃も少なくねえ人数、やられる」


「同じゴブリンに挑むのだって、初心者のうちは勝手が分からないし、戦士なら一対一で戦えるけど、薬師は。弓士は。同じように戦えないから、差が出ちゃうんだよね」


「せっかく、魔術の素養がある奴だって、初戦で術式の構築が間に合うまでにウェアイーグルに脳天つつかれて死んじまった、なんて話もあるぜ?」


「だから、認定試験、なんてものを実施してるんですね」


「そういうこった、心構えと、役割。そんなもんを学んでもらわねえことには依頼は回さねえ。反感買って他の町にいっちまう奴もいるけどなァ」


 がはは、と笑いながら背もたれに体重を預ける、ギルドマスター。

ふう、と一息ついてから話を続ける。


「そんで、セラ。依頼の方。 いまいましい信仰国からの依頼はどうだ? なんかわかったか?」


「それについては、彼らに話してもらおうと思うんですけど」


 そう言ってカナメたちの方に視線を向ける。


「おーん? おめえさん達、北国まで観測できたっていう、あの光を知ってンのかい?」


(どうする……ま、このおっさんに、セラさんだったら信用できるか)


 そうしてカナメは語り始める。

野営地では話さなかった内容も含めて。


「あの光の柱は、このカルブ――」


「ソウデス」


「ちょっと、待て。『このカルブ』って言われても、なぁ。なんだ? そいつ?」


「カルブは、仲間だよ!?」


「あ、ああ、ユーミ。そうなんだけど、ちょっとこのおっさんに説明するから待ってくれ。――カルブは」


「カルブは、僕が住んでいた町、渇いた街のアザラールの遺跡攻略の際に、空から降ってきて、そのまま同行しています」


「お前さんは?」


「申し遅れました。僕はアザラールからパーティーに同行している、ラスターと言います」


「ああ。おれぁ、ガラルドだ。続けてくれ」


 足を豪快に組みなおし、頭を後頭部の辺りで組んでより一層体重を背もたれに預けるガラルド。

 ラスターがカナメと目を合わせると、彼はゆっくり頷いた。

説明役をラスターに譲る、という合図だ。


「この、カルブはもともと、現代の技術では考えられないような攻撃方法や、移動方法を持っています」


「あの、飛び出す右腕の拳だね。凄い威力だったのはグリフォンをブチ抜く様子で私にもよぉく分かったよ」


「ソウデス」


「ええ。僕たちが流砂に呑まれてドワーフの町にたどり着き、そこを侵略しようとしている”魔族”と、彼女が操る”螻蛄”と対峙した時――」


「ちょっと待てっ! 魔族だと!? ドワーフの町はこっからそう離れてねえはずだぞ!?」


「大丈夫です、魔族はカナメさんが倒しました。その折、どうも、ドワーフの町を守護していたというアクセサリ、その中に入っていた小さな赤い石をカルブが食べたらしいのです」


「魔族を、倒しただぁ? またおめぇらは……それに、小さな赤い石、か……」


 ガラルドも思うことがあったのだろう。

町とギルドが脅威にさらされた、ゴブリンキング討伐作戦。

 異常な進化と成長を遂げた、キングを倒した際にドロップした赤い石。

ガラルドでさえ見たことがないというその石にギルドは永久依頼、という形でカナメに調査を頼んだ。


「脅威にさらされたカルブはその石を食べて大技を放ち、その光が地面を穿って」


「遥か北方からも観測できる光の柱、になったわけか……」


「カルブが食べた、っていう守護聖印の中身の代わりに、僕が持っていた石の一つをはめ込んだら、全く同じ効果が出たよ。ドワーフの町を守っていた石と性質は同じらしい」


「赤い石……こいつぁ一体……」


 顎の無精ひげにゴツゴツの手を当てながら、いつになく神妙な顔をするガラルド。


「……なぁ、おっさん。おっさんは口が堅いかい?」


「あ? ああ、口と拳骨はヒューマン族で一番堅いと思うぜ?」


「……頭もな。これはどうやら【賢者の石】ってものらしい」


「賢者の石、だぁ? そいつぁまるっきり、おとぎ話の中の話じゃあねえか!」


「最初に『賢者』となった神の成れの果て、その力を封印した杖の割れてしまった欠片って話、だね。でも、カナメ君は一体どこでそれを知ったの?」


 不思議そうに身を乗り出してセラが尋ねる。


「ん~、僕も聖女様から聞いた話、ってだけなんだけど」


 ――それを知れば奪い合う。戦争をする。

殺してでも奪い取って損はない。


 砂漠の町で雨上がりの夜に黒の聖女様から聞いた話を思い出す。


 賢者の石、と聞いて身を預けていた背もたれから一気に身を乗り出してきたガラルドは、ややあってまた座り心地の良さそうな椅子に全体重をかける。


「これまた、聖女様と来た。あの秘密主義者がなんだっておめえさんには口を開いてくれるのかサッパリだが……」


「なぁ、おっさん。その、信仰国ってところに報告をあげるんだろ? なんとか僕たちが関係ないって方向に誤魔化してくれよ」


「無茶言うぜ……」


 普段執務を行っているであろう机にどっかりと両足を乗せ、片方の手で額と目元を隠す。


「そこを何とか! 変な団体にカルブが取り上げられでもしたら困るんだよ」


「えー! 取り上げられちゃうの? やだよっ!」


「お、おねがいします!」


 懇願する若いパーティー。

彼らには、一生忘れられない恩がある。


 少し考えを巡らせた後、目元を抑えた指の隙間からぎろりと眼だけをのぞかせて、カナメに告げる。



「ほんなら、おめえさん達。一つ依頼を片付けてくれや――」


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