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首尾

 野営地から半日ほど西へ歩いて、

久々にラダ・クリッタ――東の大陸の中央やや下、様々な職種の人間や物、情報が交差する町――へと帰ってくると、以前と変わらず活気付いており、街道からそのまま続く町の中央通り沿いには色とりどりの露店が並んでいる。


 装飾品や刀剣。食べ物。どの店の売り子も威勢よく声をあげ、客引きに夢中になっていた。


「さぁて、私達はそのままギルドに行くけど、カナメ君達はどうする?」


 腹ペコのユーミにそそのかされてさっそく適当な食べ物を買わされたカナメに、セラが声を掛ける。

ここは、町の入り口から少し進んだ場所、ギルドまではそう距離はない。


「せっかくだし、おっさんとパティエナさんに会いに行こうか!」


「そうだねえ、元気にしてるかな」


「大都市ラダ・クリッタの冒険者ギルドのマスター……なんだか怖そうですね?」


「いや、ただの泣き虫おっさんだよ」


「ちょっとー、やめたげなよ。私だってその部下なんだけど」


 軽口を叩きながら、少し歩を進めれば見えてくる。

 大都市の中にあってひときわ大きな建造物。

 ――冒険者ギルドだ。


「うぃーっす、ただいまー」


 セラが先頭になって、ぎぃぎぃと軋む扉を開けて中に入っていく。

 そのあとに青銅級冒険者連中が進んで行く。

 最初は明らかに敵対していたが、一晩酒を酌み交わしてみれば、悪い人間はいないようだった。


「あらぁ、お帰り、セラ」


 扉を開けた瞬間に入り口を睨みつけてくる、依頼ボードを物色していたゴロツキ同然の冒険者達。


 それと、セクシーでしかない薄水色の髪を伸ばした妖艶な受付嬢。

起死回生の医療魔術によって死の淵から命を拾った、氷の剣を操るパティエナだ。


「よしよし、けが人や殉職者はいないわねぇ、うんうん……うん?」


 にこにこと帰還した青銅級冒険者達の顔を端から順番に見つめて、やがてカナメ達一向に目を止める。


「あなた達ぃ~!」


 ばたばたと(セクシーに)駆け寄ってきてカナメに抱き着くパティエナ。

ラスターと冒険者一同は、何事だ、と顔をしかめる。

 それに、幾何かの嫉妬。

 ユーミは真顔だ。


「ちょっと、パティエナ。あんた仕事中でしょう?」


 面倒そうに半笑いを浮かべながらセラが声を掛けると、はっとして二階に駆けあがっていく。


「ますたぁ~、ますたぁ~!」


 その後姿をじっくりと見つめながらカナメは、やれやれまたうるさいのが来るぞ、と覚悟する。


 予感は的中、がたん! と物音がしたかと思うとずしずしどすどすと遠慮のない足音を立てながら彼が降りてきた。

 筋骨隆々、鋼の男。

 ――ラダ・クリッタ冒険者ギルドのマスター、ガラルド。


 眉を吊り上げ、口をへの字にして気迫あふれる巨体を揺らしながらずんずん近寄ってくる。


「戻りやがったか! この糞ガキが!」


 目いっぱい近づいたかと思えば涙を浮かべながらにっこりと破顔して巨体に似合わぬ俊敏さを以てしゃがみ込み、カナメの脇の下に手を入れて軽々とその身を掲げる。

 すっかり『高い高い』の格好だ。


 ただし巨体で剛腕のガラルドが『高い高い』をすれば、下手をすれば『他界他界』になる。

正しくその脳天で冒険者ギルドの天井を叩き割ったカナメは、意識を失いかける。


「カ、カナメッ!」


「おう! こりゃあ”鉄棒のユーミ”! 元気にしてたかよっ!」


 ユーミに気付くとカナメの体は地面に乱雑に置き、ユーミの頭をぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃと撫でまわす。


「おい、おっさん! 殺す気かよ! いいぞ、やってやる! ユーミ、鉄棒だ!」


 ユーミにその鉄棒で反撃に転じることを命じたその時――。


「――落ち着きなさ――――――――いっ!」


 セラが大声(と、椅子の一脚を振りかぶり、ガラルドの頭へぶち当てた音)で場を制する。


「ちょっと、マスター。アンタも、仕事中でしょう……?」


「あ、はい。……いや、おう。すまねえ、久々の再開に取り乱しちまったようだな」


 一瞬、セラの気迫がギルドのマスターさえも委縮させてしまったようだった。

 軽く人払いをして、足元に散らばる椅子の破片をパティエナに掃除させながら、ガラルドは青銅級の冒険者達の顔を見渡して続ける。


「して、セラよぅ。首尾はどうだぁ? 青銅級連中の”認定試験”はよ?」


 認定試験と聞いて、冒険者達はたじろぎ、若干ざわめきだつ。


「どういうことですか、ギルドマスター! 青銅級へは登録すれば誰だって成れるはずでは――」


「――うるせぇっ!」


 大盾を持った戦士が上げた非難の声を、さらに大声でかき消し壁を拳で叩いて、案の定壁が壊れる。


「アンタも十分うるさいんですよ、マスター。まあ、突如現れた上位モンスターへの対応は後手後手。これは褒められたもんじゃないですけど、そのあとの湿地での集団戦は、よく纏まっていたんじゃないでしょうか。うん、青銅級くらいなら合格にしてもいいと思いまーす」


 どうやら、セラが同行していたのは試験官、としての側面も大きかったようだ。

二言目には他人の命を気にするガラルドの事、信頼できる人間に任せるのは当然と言えば、当然だった。


「そうかい……ほんなら、おめえらは今日から晴れて”青銅級”を名乗りやがれ、おい、パティエナ、清算を頼む」


「はいはーい」と軽快に返事をするパティエナに、セラが魔石の入った袋を渡す。


「ちょ、重っ。あなた、またついでにその辺のモンスターまで討伐してきたのねっ」


 セラが予定外のモンスターの魔石まで随分拾ってきたのを見て、パティエナがひそひそと耳打ちするのが聞こえた。


「(あんまり新米君達に最初からお金を持たせるのも考えものよ、セラ)」


 どうやら、最初のこの”認定試験”で、セラが予定より多くモンスターを倒し、新米たちに餞別をくれてやるのはこれが最初ではないらしい。


 さきほどのパティエナの返事を真似て、「はいはーい」と軽快に返事をすると、ガラルドに向き直る。



「マスター。別件の方ですけど……」


「あぁ。二階に来い」


「カナメ君達も、いいでしょうか」


「あぁん? まあ、このガキどもは信用できる。来やがれ」


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