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かれこれ

 ――エルフの娘。


 そう聞いて、カナメの心は踊った。


(やった! この世界にもエルフがいる! しかもこんなに近くに!)


 周囲の冒険者も驚きを隠せない様子でセラの事を見ている。

 この様子では、この世界のエルフは珍しい存在、と考えて差し支えなさそうだ。


「あ~、ばれちゃったか……ごめんごめん、隠すつもりはなかったんだけどさ」


 片方の腕は後頭部を掻き、もう片方の手はぱたぱたと空気を仰ぎながら、やはり半笑いで答える。


「アンタは、水の精霊さん? よくわかったね」


『ええ、元来、エルフと精霊は親和性が高い存在ですからぁ~。しかし、あなたは――』


「ああ~、そうなんだよ、純潔じゃない。ハーフエルフだよ」


『そうでしたかぁ~、少し配慮が足りませんでしたねぇ~』


 そう言って少し俯くような仕草を見せるシズク。

 少し雰囲気が気まずく、沈黙が訪れそうになり、思い切ってカナメが切り出す。


「この世界では、エルフは珍しいんですか?」


「あー、うん。そりゃあ珍しい、かな? 彼らは森の深くに住み、結界をかけてすっかり引きこもっちゃって滅多な事では姿を見せないらしいよ」


 ”彼らは”

 ”らしい”


 これらの言葉は、深追いせずともセラの出自の複雑さを分からしめるに十分だった。普段はカラッとして明るい性格の彼女の表情は少しだけ陰りを見せる。

 お酒が入っているとはいえあまり好ましい質問ではなかった、そう考えて質問をエルフから切り離す。


「セラさんは、冒険者だったんですよね? さっき、『思い出す』って懐かしそうにぼやいているのが聞こえました」


 夜の帳が降り始めているが、実用的な光の精霊ではなく、ランタンを取り出し火打石で火を入れる。

 ぼんやりと橙色の光は日中の疲れを癒してくれる。

 そよ風に揺らめく焚火の光は、それを囲う者たちの光と影を浮き彫りにするようだった。


「なんか、気を遣ってる? あはは、大丈夫だよ、私はこんなのは慣れっこだからね。そうそう、今でこそ、こういう臨時依頼や招集がかかれば出ていくけど――」


 グリフォン戦のあと、はっきりこう言っていた。

 ――冒険者だよ、わたし。

 しかし、彼女の言葉は歯切れが悪い。


「うん、今は”兼業冒険者”みたいなもんかねぇ……。昔は。そうだなぁ、傭兵稼業もしたし、単独(ソロ)でも世界を回って。パティエナともパーティーを組んでた時期もあるんだよ」


 遠い目をしながら自身の荷物からナッツの様なものを取り出し、ポリポリと齧りながら続ける。


「ずっとソロだったもんだから、初めてパーティーを組んだ時は戸惑ったもんだよ。今日のこの子たちを見てると懐かしくってさ!」


 嬉しそうに言いながら、物欲しそうに見ているユーミにナッツを分け与える。


「お姉さんは、受付嬢のお仕事が長かった、って言ってたよね?」


「そーだね、かれこれ五、六年はやってるかな? 十五年ほど前の南西の諸島での戦争で、疲れちゃってね……」


「「!」」


「それって、国王陛――お父様も招集された魔族との小競り合い……ッ」


「そっか、よく知ってるね。何人も何人も。顔も知らないどこの誰だって、死ぬのは見たくないもんだよね」


 そうして、また遠い目をする。

 諸島の戦闘に参加。数年の受付嬢生活。


「それじゃあ、セラさんて一体何歳なんです?」


「こら。女性に年を聞くとは、躾のなっていない少年だね~、ま、隠すもんでもないけど。――恥ずかしながら正確には分からないんだけど八十歳、くらいだね」


「……! かなり年上の女性、だったんですね」


「あはは、半分エルフの血を引いているらしいからねっ! それにしても、カナメ君。 ゴブリンキング討伐依頼よりもっと前にさ、どこかで会ったことない? 私達」


「いえ、僕がこの世界に来たのは、『げふんげふんっ!』 いえ、会ったことはないと思いますけど」


「そうかなぁ。それより、ここに来るまでの冒険の話を聞かせてくれない? それに、ユーミちゃんが涎を垂らしまくってるから、食事の準備をしてあげなよ?」


 危うく異世界転生の話をしてしまいそうになって何とか誤魔化し、セラの言葉を受けて魔術師の方を見ると、確かにセラの持っている木の実を見つめて物欲しそうにしている。


「それと、そっちの少年と、お人形さん……って言っていいのかな?」


「ソウデス」


「僕はラスターと言います。これより北にあるアザラールという町で、カナメさん達に救われたのです」


「へえ~、さっそく”世界を救う”なんてのを、形にしてるんだねー! それにその武器に、さっきのお人形さんの一撃……」


「こ、これは! 門外不出でして――」



 がやがやと、騒ぎながら再会の夜を楽しむ。

 一行は、ドワーフの町のお土産であるモグラの干し肉を。

 青銅の冒険者もそれぞれに持ち寄ってきていた食料を持ち寄って、ここでもカナメの冒険譚が花を咲かせる。

 その話に、ある者は夢を。

 またある者は、魔族の侵攻に恐れを抱く。


 そうして、夜は更けていった。



***




 夜が去って朝が来ると、カナメはぶんぶんと頭を振って額に手を当てる。

 どうやら酒は残っておらず、体調も悪くない。

 その辺で転げているユーミとラスターは起こさずに顔を洗いに行く。

 朝の空気は心地よくふと、見上げると一段高い岩の上にセラが座っている。

 どうも本当に一晩中、見張りをしてくれていたようだった。


「やっ、カナメ君」


「本当に一晩中見張ってくれてたんですね、ありがとうございました」


「まーまー。奢ってもらう約束だからね。もし暇だったら、周りの魔石を集めといてくれない?」


 そう言われ周囲を見ると、朝焼けを反射してキラキラと魔石が落ちているのが見える。

 あの岩の上から、襲来するモンスターを人知れず射貫いていたとのことだった。


(お、恐るべし……)


「この魔石も、山分けなんですか?」


「んーん。それは私の、へそくりだよーん」


 笑って舌を出す、受付嬢兼冒険者。


 ややあって、ぼちぼち新米冒険者たちも起きだしてきて、昨日の残りと簡単なスープを作って、携帯用の堅いパンを食べ、流し込む。


「よっし、それじゃラダ・クリッタに帰りますか!」

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