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それじゃよくない

 心の中で愚痴を言いながらも、カナメはスクロールを描いてユーミの前に並べる。

 攻撃力は、光の剣自体が持っているため、書き込む”言語”は以前よりずっとシンプルだ。


「”光の剣(メリゴ・)の探求譚(サンダースネイク)”」


 ユーミの魔術を借りてひとたび発動すれば、舞い踊る二本の光の剣だけで高位のモンスター”グリフォン”はズタズタに切り裂かれ、恨みがましくこちらを一瞥すると、体は紫煙へと形を変え、消滅していく。


 残る一体については、特に心配はしていなかった。

 ――彼らがいる。


 一旦上空へ飛び上がり、猛スピードで滑空してくるグリフォンに悲鳴を上げる冒険者集団。

 しかし降下してくる軌道をしっかり読んでいる者が仕事をする。


 冷静に、彼の撃ち出した銃弾は轟音を伴って嘴を粉砕し、獲物はけたたましく鳴き声を上げながら、気流を捕らえる事に失敗し地面へと向かう。


 落ちた先には――


「ロロ ロ、ケロッケロ パンツ」


 何を伝えたいのか一切不明な技名を告げると、言葉とは裏腹、文字通り衝撃的なその右腕の攻撃で空から落ちた不幸な鳥のどてっ腹に大穴をこじ開ける。



 冒険者の集団は、突然の行為モンスターの襲来と、同行者による手際のよい処理にしばし呆然とするほかなかった。



「さっすがだねー! いやぁ、強いのは知っていたけど、アンタたち全員どうかしてるよ!」


 けらけらと笑いながらセラが軽い足取りでこちらへ戻ってきていた。

 背後を見れば最初の一匹と同じく急所を射貫かれた大きなグリフォンが今、紫煙となって消えゆくところ。


「セラさん、まさか……この辺りにグリフォンが出るって……」


「知ってるさー! 冒険者だよ? わ・た・し!」


 高位のモンスターが出ると知っていて、先頭を歩かせるとはなんと性悪な。そう思ったが、セラは決して意地の悪い人間ではない。考えがあるのだろう。


「少し調べれば、この辺りにグリフォンが出る可能性がある、ってのはいくらでも情報があるよー? 冒険者なら事前情報の有無、それがどれだけ重要かなんて常識でしょ!」


 どうやらこのセラという女性は、同行していた連中に、冒険者の常識を説きたかったらしい。


「それに、まったく! 前方に私がいたから前に気を付けないのはまあ百歩譲るけど、左右も後方も索敵も警戒もしないなんてどういう了見よ!」


(僕達をダシに使いながら、連れの教育にも役立てようってんだな……狡猾だこと)


 だんだんとヒートアップしてくるセラを前に、彼らは完全に委縮し座り込んでしまっている。


「それに、最初の一匹目が現れた時点で武器も抜かなかった、アンタとアンタとアンタ! 故郷に帰んなさい! あれ、アンタは壁役? そのでっかい『盾』は自分だけを守るもんなわけ? そもそもたとえ情報がなかろうが、モンスターが出ないって場所だろうが、警戒しなくていいってわけじゃないんだけど?」


「まぁまぁ、セラさん、そのくらいでいいじゃ――」


「――よくない! 冒険者はそれじゃよくないんだよ! 何人が少しのミスで、不注意で、家に帰れなくなったと思ってんだッ!」


 ついには怒気をはらみながら喝を入れる。

 完全に目が据わっているいるようだった。目が熱を持っている、ともとれる。

 少しだけ、ゴブリンキング討伐作戦を思い出す。

 複数のパーティが一夜でほぼ全壊した時の事を。


「アンタ達……一体どれだけの冒険者が、依頼を受けるだけ受けて報酬をもらいに来ないと思ってるわけ? 一体どのくらい、二度と受付に現れない冒険者がいたと思ってんのよ」


 受付の仕事をしながら、沢山の冒険者の顔を覚えたのだろう。そして、記憶の中だけでしか見ることが無くなった顔。

 依頼こそ受けていなかったが、報酬カウンターに魔石を持って行ったときに、セラは嬉しそうにしていた。



 ――いつしかセラには、カウンターに報酬を受け取りに来る冒険者は皆が、『ただいま』と言っているように聞こえていた。



「まあ、いいわ。今回は臨時依頼だし。もうアンタらとパーティを組むことはないし。この先はどうせ大したモンスターも出ない()()()から、カナメ君達に全部倒してもらいましょ」


 そう言って不機嫌そうに歩き出す、セラ。

 弓は肩にかけた革製のベルトにひっかけて背負い、両手は頭の後ろで組んでいて、この後の道中では自分は何もしない、という意思表示にも見える。


 しかし、発破は充分。

 後方を行く冒険者たちはしっかりと隊列を組み、殿は獲物を狙うそれこそ猛禽のような目で警戒をしていた。


 カナメ達と並んで歩くセラは背中では怒りを表現していたが、そのくせ片目でちらちらと後ろを気にしては、突貫パーティーの隊列に満足しているのか、口角が上がっていた。



(この人といい、ガラルドのおっさんといい、あの町の冒険者ギルドは面倒見のいいひとが多いなぁ)



「――今回の依頼はね」


 平原を歩いていると、セラが話し出す。


「ギルドとしても、乗り気じゃなかったんだよ、慢性的な人手不足でさ。町には下位の”青銅”級冒険者しかいなくってね?」


「じゃあ、後ろの人たちは駆け出しの冒険者さん、ってことなんですね」


「そーそー。ゴブリンキングの時もそうだったけど。階級が上がると冒険者は皆が皆、高位のモンスター討伐を受けたがって遠方に行っちゃうのよ」


「だって、階級が上がれば階級なりの依頼を受けるのは普通じゃないんですか? 報酬も上がるんでしょうし」


「うーん……。皆ね、モンスターを討伐した習慣や、貰った報酬でいい暮らしをすることは容易に想像できるみたいだけど、仲間が死んでしまったり、自分の腕や足が無くなってしまうことはあまり想像できないみたいなんだよね、調子よく階級を駆け上がる者ほど顕著だよ?」


 調子よく階級を駆け上がるもの。

 上げられてしまったもの。


 ――カナメのパーティーだ。


「気、気を付けます!」


「ははは。いやぁ、アンタ達は大丈夫でしょ。相当に死線をかいくぐっているように見えるよ」


「いやぁ、そんなことは……」


 魔族。ゴブリンキング。ミイラ。キマイラ。二段階変形蛇女。

 そんなことあるな、と感慨深く考えながら歩みを進める。


 いつしか一行は平野から、少しだけぬかるみのある場所へ来ていた。湿地のようだ。



「ま、そんなこんなで。冒険者ギルドの依頼は危険だ、って最初にイメージしてもらう必要がある。つまり、その身に恐怖を刻ませる。今後生き延びてもらうためにもね」


 そう言って歩みを止める、セラ。



「まぁ、みんなはその辺で見ててよ。――後輩たちの試練をさ」

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