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魔術師だもん


「どうしたんです? カナメさん」


「戻れ戻れっ! なんかわかんないけど、おっかない人たちが穴を取り囲んでんだよっ」


「えー! ここを、また戻るの? やだよぉ……」


「なんでまた……何をやらかんしたんですか? カナメさん」


「ね、素直にあやまろうよ」


「どうして僕が何かした前提で話をすすめてんだよ!」



 穴の入り口付近で少しだけ揉めていると、こちらへ呼びかける声がする。



「おい! そこにいるのは分かっているんだぞ、魔族の尖兵めが!」


「今ならばすぐに殺しはせん、話くらいは聞いてやるぞ!」


 要するに、穴を取り囲む彼らは、こちらを”魔族”と勘違いしているようだった。


「ふーっ……よし。僕が行って話を付けてくる。みんな落ち着いて、待っていてくれ……?」


 大きく息を吐き頬を両手でぱんと張り、今まで一番取り乱していたカナメが猛者どもの待つ穴の外へと出向く。


「や、やぁ。諸君――」


「でたな! 魔族めっ!」


「おい待て、人の姿、だぞ……」


「忘れたか!? グラシエル城は大臣の姿に化けた魔族に乗っ取られる寸前だったんだぞ!」


 勝手に動揺し始める猛者ども。すかさず、カナメは続ける。


「僕は決して、怪しい者ではありません。少しばかりドワーフの町を襲っていた魔族を倒してきた帰りの、隕鉄級冒険者です」


「嘘をつくな、人間に化けてるのは分かってるんだぞ、どう見てもその間抜け面……隕鉄の顔じゃないだろう!」


「こんのー! この光の剣の錆にしてやるっ」


 脅しをかけるつもりで両手に光の剣を出現させる。

 剣術はできないし、二刀流も無理だ。

 光の剣が錆びるわけもない。


 急に現れた輝く武器にたじろぐ猛者ども。

 ――の、後ろの方からやや小柄な美女がつかつかと歩いてくる。


「やっぱり! やっほー、カナメ君じゃないのー!」


 緑がかった髪の、弓の名手。

 いつかゴブリンキング討伐作戦でパーティーを組んだスレンダー美女、集団戦闘用決戦兵器こと、”雨降ら士 セラ”だ。


「セラさん!」


「まっさか、戻ってきてるとはねー! みんな武器を降ろしなさい、この子は特異進化したゴブリンキングさえ一撃で屠る、まぎれもない隕鉄級冒険者よ」


「なんだと……」「あの少年がゴブリンキング襲撃の際の……」などとどよめきながら好奇の目を向けてくる、どうやら冒険者らしい面々。


「みんな、出てきて大丈夫だよ、味方がいたみたいだ!」


 ちょっとだけ頭を出して様子を見ていたユーミやラスター、カルブが姿を現す。


「これまた、なんちゅう武器をもってるのよ、あなた。それに、新しいパーティメンバーだね?」


「これは成り行きで手に入れた光の剣です。それに……ラスターと、カルブです。セラさん――皆さんはここで何を?」


「ああ、何日か前にね。この辺りで聖王国アルジエナからでさえ観測できるほどの光の柱が立ってね? なにか尋常ならざる異変が起こっているのでは、なんて噂がたって。それで信仰国ガーリラウヤから冒険者ギルドに調査依頼が入った、ってわけよ。まさか――何も知らない、わよ、ね? あなた……達」


(カルブの光線のせいじゃねえか)(あ、カルブのやつだねえ)(カルブの破壊光線とやらが聖王国と信仰国に目を付けられましたっ)


 なんとなく目を泳がせながらしきりにカルブの方を気にする面々と、Y字にビシッとポーズを決めるカルブ。


「セラさんっ、こいつらやはり何か知ってますよっ! 怪しいですっ」


「ソウデス」


「ほらっ……ほらっ! 自白しました!」


(ばかたれええええ)


「ううん……でも、彼らが紛れもないラダ・クリッタの”隕鉄”登録冒険者なのは、事実なんだよ。とりえず、ギルドに連れて行って事情を聞かせてもらいましょうか」


 こうして大所帯はラダ・クリッタの町へと向かう。

 迂回すればモンスターが少なく道中は楽らしいが、『モンスターと戦っている姿を見ればその実力が分かると思うよ』というセラの粋な計らいによって、モンスターが多く、かつ強力な個体が出現しやすい直線距離を行くことになった。


 先頭を行くのはもちろん、前衛的魔術師ユーミ。


 できるだけ銃を見せたくないラスターはそれを布でくるんで担ぎ、やや後ろをカナメとセラと並んで談笑しながら歩いていく。


 後ろをついていく集団は、一番の実力者であるギフテッドのセラが前にいることで安心しきって追従していた。


「わたしも、お話ししながらお散歩したかったなぁ……」


 この道中をお散歩と勘違いするユーミはもちろん、襲い掛かるモンスターを。

 ベアウルフ、ハイゴブリン、デュアルホーンラビットなどを簡単に魔石に変えながらてくてくと歩く。


「へえー。”鉄棒のユーミ”ちゃんの棒さばきもかなり熟達したものだねえー」


「ま! 魔術師、です……」


 つい、否定はしてしまったが、実際はドワーフに鍛えなおしてもらった杖はかなり扱いやすく、棒術が成長したと思われても仕方のないことだった。

 それに対して魔術はまだ制御できない。後方からは、感嘆の声さえも聞こえる。


「セラさん。ユーミがぶん回しているモンスター達はその、どのくらいのものなんです?」


「ん~? あ、強さ? まぁ、灰銀級だったらほっといても倒してくれるかなぁ、ってところだね――それでも、ああ一瞬とまでは期待しないけどね……」

 先輩冒険者も納得させることができる、パーティの魔術師の力量にうんうんと唸っていると――


 魔術師だもん、と独り言ちながらしゃがみ込んで魔石を拾っているユーミの頭上に、凄まじい速度で何者かが急降下しきた。

 間一髪、ひゃ、と言いながら飛び退くと、先ほどまで彼女がいた地面は抉られ、代わりにその頭上に猛禽さながら、巨大な羽をはばたかせて滞空するモンスターがいた。


 大人の人間の身長ほど巨大な羽、それが左右に。

 胴体は獅子ほどもある。

 ――というよりは、下半身はまるっきり。


「やっばー! 高位のモンスター、『グリフォン』じゃないのっ!」


「セラさん、後ろにも来てますって! っていうか四匹いますよ!?」


 初めに登場した一匹のほかに、後方に一匹、左右に一匹ずつ。計四匹の、グリフォン。


 ただし、左の一匹は、カナメが言い終わるより先に、眉間、喉、心臓、胴体、羽の付け根。

それらを紫色の矢に貫かれて、既に絶命していた。


(は、はやい! これが本当本物の冒険者かよ!?)


「私は、後ろの一匹をやるから、そっち二匹。お願いねー!」



(お願いねー、ってそんな、ばかな!)


 返事も聞かず、セラは脱兎のごとく、冒険者の後方へと回り込んでいく。



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