ずぅっと
「もう、いっちまうってのか」
名残惜しそうに、髭面のドワーフが声を掛けてくる。
カナメのパーティは次の目的地を目指し、旅の準備を済ませていた。
「ああ、さっさと世界を救ってゆっくり世界一周旅行でもしてみたくってさ」
「本当に、おまえさん達には世話になったな、なんぞ礼でもさせてほしいんだが……」
「いや、いいんだよ。僕は武器が扱えないのに、こんなにすごい短剣があるし。それに――」
そう言ってユーミを見ると手持ちの杖をサッと見せつける。すでに鍛えなおしてもらった鉄の杖は滅法気に入っているらしい。
ラスターに関しては、今ではこの世界に二丁しかない”銃”。ちゃっかりその開発と調整を手伝ってもらっていたようだ。
カルブは……
「なぁ。かるぶよぅ、本当にいっちまうってのか」
「……ソウデス」
感情などは感じられないが、カルブはどう思っているのか。
「『ともだち』がいなくなるってのはさみしいってもんだ……」
エトナはせっかく出来た友達と離ればなれになることにさみしさを隠せずにいた。
「ソウデス」
(ロボットだから、しょうがないけど。なんか気の利いたことくらい言っとけよな……)
ぐずぐずと泣きながら鼻水を垂らす幼いドワーフの少女がいたたまれなくなり、カナメが声を掛けようとすると。
「……トナ サンニンノ『オジヤ』ガ イルデショウ ソレニ――」
そう言って、いつもは敵を穿つために使っている右腕を建物の入り口の方へ向ける。
すると、そこにはドワーフの子供たちがみっちりと重なり合っていた。
当の本人たちは隠れているつもりだったのだろうが、横幅のあるドワーフ族はしっかりと体の半分以上が隠れられないでいた。
「あ、見つかった……」「どうする?」
などと子供同士で相談し合い、ややあって。
「ごめん、エトナ! 本当はお前の父ちゃんは凄い人だったんだってみんなが言ってた」
「ごめんな! それに、おけらの親玉をそっちの人形を使って倒したんだって?」
「また、洞窟の冒険の話をしてくれよ。なぁ、僕たちと『ともだち』になってくれよ」
よだれが垂れそうなほどぱっかりと口を開けていたエトナは、首だけカルブに向き直る。
「――ソレニ 『テモダチ』ハ ワタシダケデハ ナイヨウデス」
「あ、ああ、”そうみてえ”だ……でも、”うそみてえ”だ」
「ね、エトナちゃん。お返事を、しなくっちゃ」
普段パーティの中では幼い性格のユーミがお姉さんのように、返事をしないと、と促す。
「う、うん! なぁ、おれもおまえさんたちと、ほんとはともだちになりたかったんだ!」
子供たちの純粋なやり取りを見て、自分も子供の頃はあんなだったのかなぁなどと考えながら。
「よし。じゃあ、次の町を目指そう。そうだ、トロッコでだいぶ走って来たけどこの町はどのあたりにあるんだ?」
世界地図を広げながら、グウェーブに尋ねる。
「おお、ドワーフの町はちょうどこの辺り。ラダ・クリッタの東だな」
「本当かよ! また結構な距離を戻ってきちゃったな!?」
トロッコはちょうどアザラールの南東ほどから、かなりの距離を走ってきていたらしい。
「だが、カルブが開けた大穴。あれで近道すれば、ラダ・クリッタまでは割にすぐ付ける。俺達も商品の流通が容易になって、これはこれで正直な所かなり有難えってもんだ」
「まあ、来ちゃったもんはしょうがないしな。とりあえす、一度ラダ・クリッタの町に行って冒険者ギルドでも覗いてみるか。じゃあ、世話になったなグウェーブのおっちゃん」
「ああ。大穴の近くまで見送らせてくれ」
グウェーブの家を出るとノーゲルが待ち伏せをしていて、泣きながら握手を求めてきた。
なぜか町のドワーフ達をぞろぞろ連れ立ってカルブが穿った地上へとつながる階段のふもとまでくる。
さすがドワーフ、綺麗に穴の斜面に沿って階段を敷き詰めていた。穴の入り口、洞窟の天井までも階段が設えてある。
「じゃあな、みんな!」
半身だけ振り返り手を振る。
「じゃあねえ」「皆さん、大変お世話になりました」
「なぁにを言っとる! 世話になったのはこっちのほうじゃあねえか」
「ソウデス」
「おいカルブ、慎みなさい」
一応、カルブにも空気を読むことや慎みもインプットしてもらわないと困る。
「なぁ、かるぶっ」
ドワーフ族の小さな少女。彼女は今回の件で初めて友達ができて、父親の汚名は晴らされた。
そしてたくさんのドワーフの子供と新たに友達になったのだ。だが、何人もいるからいい、というわけではない。
どの友達も、掛けがえのない『ともだち』だ。
「なぁ、かるぶっ! おまえさんはいっちまうけど、おれとおまえさんはずぅっと、ずぅっと『ともだち』だってもんだ!」
「……ソウデス 『モロチン』ソウデス」
「なぁ、ラスター。こいつの言語回路、直せないかね?」
「どうでしょうか……かなりの技術や素材が必要になるかもしれません。それこそ、【賢者の石】級のマテリアルが……」
こうして一行は、再び地上へと歩みを進める。
進行状況としては、一歩進んで二歩もどる、といった形だ。




