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謎の勇者の冒険譚

 精霊王の言った通り、想像を絶する痛みに襲われたカナメだが、光の精霊ホーリィの力を借りて失神寸前のところで自身に治療のスクロールを施し、目が覚めるや否や泣き喚くユーミの魔力を使わせてもらって、何とか治療する。


 そのあともまたたっぷりと失神して、起きた頃にはもうあれから数日がたっていた。



「よぉ、やっとお目覚めか、勇者少年よ」


「ノーゲルのおっちゃん。その呼び方はなんだかむず痒いからやめてくれない?」


 勇者。カナメは世界を救うというアバウトな目標はあるものの、決して”勇ましい者”などではない。


「カナメ!」


 部屋に入ってくるなり、目を覚ましたカナメを見て頬を膨らませながらぷるぷると震え始める、怪力の少女。前回、怪我に響くから泣くなと言ったものだから堪えているようだが、少しだけ滑稽だ。


「町はどうだ? ドワーフの何人か、やられちゃったんだろ……」


「ああ。まぁ、気にするなと言っても無駄だろうな。しかし、俺たちは。この町は、救われたよ」


「そうだよっ! カナメが守ったんだよ。ちゃんとカルブも言いつけ通りに、逃げる魔族をはっ倒してたんだから」


「あー……最初はちょっとした凄い人形くらいに考えとったが、ありゃあバケモンだな」


 赤い石を食うと発動できる正真正銘の必殺技。だが、カナメとユーミはその技を見ていない。

 知らないのだ。


「……? ちょっと、抜けてるけど。まあ頼りになる奴だよ」


「そうだね。ね、カナメ。お腹すいてる?」


「うーん、腹は減ってるけど。急に食べたら腹を壊しそうだな……そうだ、少し町を散歩してくるよ」


 そっか、と言いながら常温の水が入ったカップを手渡してくれた。少し口に含んでから、ユーミの手を借りて立ち上がる。


「戦う度にこれじゃあなぁ……連戦があったらお手上げだ」


「ごめんね……わたしが魔術を思った通りに使えればなぁ」


「いや、僕こそユーミがいないと何もできないからね。剣術でも習おうかな」


 精霊の力は、魔力なしでも使えていた。

 光の剣はなかなかに強力な武器と言える。


「おう、少年勇者よ。もう起きていいのか?」


「いや、その呼び方も本当にやめてくれ。ああ、治療の魔術は自分に使うのは初めてだったけど、上手くいったみたいだ」


 気遣ってくれるグウェーブに、膝を屈伸したり腕を伸ばして左右に曲げたりして見せる。


「どこかへ出かけるのか?」


「寝たっきりだったからな、少し散歩でもしてこようかな、って」


「だったら、ちょうどいい。ついでに工房に来てくれるか?」


「……銃を、溶かすんだな?」


「まあ、解体次第だが、そうだ。こいつをぶっ放して、確かに思ったよ。今回はオケラ共に対してだったが。恐ろしい威力だ」


「まったくだぜ。これを同族に向けちまったらと思うとよぉ。金に困ったとき。酒の席でこいつがあったら。人を恨んだ時。よくねえ方向に助長されるかもしれねえ」


 グウェーブとノーゲルは、正しく理解してくれたようで、カナメは安心した。


 工房に着くと、弾薬を抜かれた銃が山盛りになって詰まれている。その横には部品が。ラスターが一生懸命にそれぞれの部品ごとに解体をしていた。


「ああ、カナメさん。おはようございます。身体の方はどうです?」


 手の甲で汗をぬぐって、晴れやかな顔で声を掛ける少年。


「おかげさまでバッチリだよ、うん」


 先ほどと同じように、体を動かして見せる。


「ラスターの頑張り次第だが、夕方までには、あらかた解体が終わるだろう。そうしたら、町を救ったこいつらにはご退場いただこう」


 言いながら、銃を大事そうに眺めて、虚空に向かって狙いを定める真似をする。


「なぁおっちゃん。ああは言ったけど、町を守る為にもいくつか残しといたっていいんじゃないか」


「……どうなんだろうな。結局、未来がどっちに転んだってよ、後悔するんだよな。だったらもともとねぇはずだった物なんか、スッキリさせといたほうがいいってもんだ」


 転ばなかった方の未来の事など考えても仕方ないだろうと暗に伝えてくる。

 それと、もしもこの先この銃が、同胞に対して風穴を開けるなどということがあれば、この少年は嫌な思いをするだろうと考えての事だった。


「まっ、俺たちゃ力自慢のドワーフだ。この先自分たちの町は自分たちで守る。そういうふうに努力していくさ」


「そっか。頑張れよ」


「お前さんもな。そうだ、今晩は宴にでもしようか。もう門番を立てる必要もねえ。ドワーフは元来、酒と宴に目がなくてな」


「いいね! 僕も久しぶりにお酒が飲みたい」


「カナメっ! 目が覚めてすぐお酒なんて!」


 身体を心配して注意するユーミにちょっとだけちょっとだけと言って抵抗するカナメを見ながら、ラスターも笑っている。


「じゃあ、少し散歩してくる。宴はどこに行ったらいい?」


「ああ? 町中が宴になる。どこにいたっていいさ。それにお前さん達は有名人だからすぐに捕まえられるッてえもんだ!」


 がははと豪快に笑って彼は、笑ってカナメとユーミを送り出した。



 グウェーブが言った通り、町を歩けばドワーフに当たる。この町では本当に有名人になったようだった。

 話しかけられて、挨拶を返して。といったやり取りを繰り返しながら散歩していれば、徐々に木製のカップで何かを飲んでいる者がちらほら、と。


「お! 早速はじまってるな!?」


 もう! というユーミをよそに売り子を見つけてカナメの手にも祝杯が収まった。

 ちょっとだけと宣言したはずのカナメは当然のごとく、二杯目に手を出したところでグウェーブとノーゲルが現れた。


「おう、おっちゃん。どうやら、お金を払わなくてもお酒をくれるみたいだ」


「そりゃあそうだ、町を救った英雄だからな」


「ほーん?」


「お前さんが寝とる間によぉ、カルブが作った大穴を鉱石の調査がてら加工してな。階段を作ったのよ」


「この数日でか? さすが、仕事が早いな。ん? カルブが作った穴、ってなんだ?」


「そうか、別行動をしていたんだったなぁ」


 そうしてカナメ達とグウェーブ達、別行動をしていた時の事を互いに報告しあい、酒の勢いも借りて盛り上がる。

 普段、冒険に出ることなどはなく鍛冶の仕事などで生計を立てるドワーフは彼らの刺激的な冒険譚に夢中になり、いつしか彼らの周りには町のほとんどのドワーフが集まってきていた。


「魔族は、守護聖印(ディフェンシブ)のせいで町に近づけなくって”おけら”を操っていたんだって、そう言っていたよ!」


 ユーミの話は洞穴の奥、蛇の魔族との命を懸けた会話の内容だった。


「ディフェンシブ……聞いたことねえなぁ」


「ふぅん。おっちゃんでも知らないのか? 確か、ちょうど洞窟で地震が起きた時に『結界が破られた』って言って喜んでたよ」


「むぅ。最近地震なんてあったか……まてよ? お前さんとこのカルブが破壊光線をぶっ放した時に」


「破壊光線? カルブが?」


「これのなかにはいってた、赤いふしぎな石をかるぶがたべた、ってもんだ」


 いつの間にか、カルブと一緒にカナメ達の近くに来ていたエトナが、首からかけた銀色をしたペンダントを襟の間から取り出す。


「なんだぁ、エトナ。いつの間にこんなものを……見せてくれるか?」


「まあ、いいってもんよ」


「綺麗な細工だ。こりゃあ、腕のいい、――っ!」


「どうしたぁグウェーブ」


 グウェーブが一瞬、呼吸を止めたのを見逃さずに、隣に座って酒を飲んでいたノーゲルが手元を覗き込む。

 ”エトナ”と刻まれた文字。


「こりゃあ、バリルガスの刻印だ……ディフェンシブか……ふふ、がっはっは!」


 ノーゲルが笑いだす。


「なんだよ、おっちゃん。気持ち悪いなあ」


「だってよ、勇者少年! あいつの、バリルガスのせいで螻蛄に襲われてる、なんて噂が立ってたんだぜ? それが蓋を開けてみりゃあどうだ!」


「確かに最低な話だぜ! バリルガスがこいつを作らなかったら、螻蛄の前に魔族に襲われて全滅してたってオチじゃねえか!」


「なんのはなしだってもんよ?」


「エトナ! お前の父ちゃんは最高だぜ、って話だ」


「父ちゃんは、おまえさんとノーゲルおじちゃんじゃあねえか」


 エトナに父親扱いされて、柄にもなく感動して照れ隠しに酒を煽るノーゲル。

 まんざらでは、なさそうだ。


「がはは、もう一人、いるってぇ話だ。最高の親父がよぅ!」


「へぇ。そうなのか。やっぱりさんにん父ちゃんがいるのか。……わるくねえ、ってもんよっ!」


 無邪気に笑うエトナを見て、悪い噂を信じてしまっていたドワーフの町人は居心地が悪そうにしていた。


「ん……赤い石ってまさか」


 カナメは肌身離さず大事にしているあれのことではないから血のような赤を秘めた石を取り出し、グウェーブとエトナに見せる。


「これか……?」


「そうだ、それそれ! なんだってお前さんも持っとるんだ!?」


「これはな、僕たちが冒険者ギルドに入ったとき、ゴブリンキングってのを――」


 そう言って酒の勢いで冒険譚を話し始めながら、何の気なしに銀のペンダントに石を入れてみると。

 パキィン、と耳鳴りのような音が一瞬聞こえて、放射状に淡い光のドームが広がる。


 瞬く間に町の大きさよりも広がって見えなくなったが、確かに結界と謳われるものに間違いはなさそうだ。


 少しの間、あっけにとられて静寂が訪れたが、すぐに活気づく。


「がはは、”聖王の槍”が三人の最高傑作だと思っとったが、バリルガスの最高傑作はこいつだったんだな!」


「ソレ タベテイイ」


「「だめだっ!」」



「おい、勇者少年! 酒の肴にもっと話を聞かせてくれや」


「ああー、僕はお話は得意じゃないから、ユーミ、ラスター。頼むわ」


「ええっ、僕ですか!?」「あはは! いいよっ」



 一同が集まる中央に陣取ってごうごうと炎を燃やしながら、その火で鉄を溶かす。

 銃だった物。

 まだ、その作りすぎた四十四丁の銃が町を守った英雄のうちに役目を終わらせる。


 彼らの冒険譚はまだまだ、ドワーフ族の歓声によって終われそうにない。

 今夜は長くなりそうだな、と思いながらカナメは酒のお代わりをもらってくる。



 こうしてドワーフの町には、


 ――愛らしい精霊ちゃんを従えて、お姫様抱っこをされながら空を飛び、光の剣で敵を八つ裂きにしながらも右腕を飛ばし、口から破壊光線を出す――。


 謎の勇者の冒険譚が末永く伝わることになった。

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