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乗れ

「痛ってええええ!」


 緩やかな右カーブを進んでいたトロッコはラスターの予言通りに蛇女”テュフォンネル”に衝突したものの、ドワーフの技術力の賜物か、()()故障することなく減速した。


 だが、慣性が働いてそれに乗り込むカナメは操縦するラスターへぶつかり、せっかくホーリィの力でなんとか自分を誤魔化せる程度には和らいだ痛みがぶり返す。

 ユーミはトロッコの縁をしっかりと掴んでいて事なきを得たものの、ラスターはカナメに潰された痛みから、言葉が出ないでいた。


「カナメ、ラスター! 大丈夫っ?」


「だ、大丈夫だ。悪い、ラスター、生きてるか?」


「死ぬかと思いました……」


「カナメ、どうする? ここでへび女をやっつける?」


 魔族と戦闘をするならこのタイミングしかない。

 カーブで衝突したため蛇女は洞窟の壁に叩きつけられて砂煙が上がっている。

 不意打ちを喰らわせるならば、絶好の機会だ。

 だが。


「――この虫ケラ共……」


 トロッコの衝突程度で倒せるとは考えていなかったが、テュフォンネルは擦り傷程度はあるもののしっかり蛇の半身で起き上がり、憤怒の色を滲ませていた。


(ここでやるしかない!)


 カナメは覚悟を決めて操縦士にトロッコを止めることを指示するが、先ほどまで微速前進していたそれは今ははっきりと加速を始めていた。


「あ、いや、ラスター。止めていいぞ! ここで蛇のお姉さんをなんとかしよう」


「あ、いや、カナメさん。止まらないんです、故障したみたいで」


 前方に倒れていた蛇女はすでに少し後方へ、そしてトロッコはぐんぐんと加速していた。

 当然、蛇女は怒り、そしてこれまた当然、追いかけてくる。



「虫けら共が、斯くも不要な命ならば――さっさと毟り取ってやろう!」



 嬉々として一同を置き去りにした彼女は正に、”鬼の形相”をしながらも、今度は追走に転じる。

 じゃりじゃりと地面と鱗を擦り付ける音は、車輪の音にかき消されていた。


「こっちが逃げてる恰好になっちまったぞ!」


 トロッコは既に、飛び降りるのは無事では済まない速度が出ていたが、それとは別の問題が発生する。


「ねえ! あれって」


「――グウェーブさん達です! カルブとエトナまで!」


 危ない、避けろと叫ぼうとしたところで、思い返す。後ろには蛇女だ。轢殺を避けたところであれに出会ってしまっては無事では済まないだろう。



「乗れぇええええええ!」



***



 がたがたがたがたと慣れ親しんだ車輪の音が聞こえてきて振り返ったノーゲルは目を剥いた。

 光の精霊の力でピカピカと点滅をしてアピールしながら爆走してきたそれは確かに身に覚えがあるものの、どうやら追いかけてきているらしい異形の何かには全く見覚えがない。


「魔族か!?」


 グウェーブが叫べば、乗れ、と叫んでいるカナメの声が聞こえてきた。


「の、乗れと言っておるぞ、無茶を言う!」


「へ、へびおんな、ってもんだ!」



「乗れええええええ!」



 鼻を垂らしながら手を差し伸べてくる黒髪の少年に、魔術師の少女。確かにあのような蛇女と一緒に取り残されてしまうのはぞっとしない。

 衝撃を緩和しようと、走りっぱなしの体に鞭打って、さらに前方に走りながらその時に備える。

 カルブは意図を理解してエトナを肩車していた。


 接触は一度きり。


 しかし結果は良好だった。

 ユーミは怪力によってノーゲルの腕をしっかりと掴み、彼のずんぐりとした体をトロッコに引っ張り上げ、並みかそこそこ程度のカナメも少しの間ドワーフの男を風になびかせてから、先に乗り込んだ相棒と少女の援護で何とかそれを持ち上げた。

 聖剣の加護によって多少の身体強化はあるものの平凡な身体能力の彼は、肩を脱臼した程度で済んだようだ。

 カルブはエトナを乗せながらもジェット噴射で危なげなく乗り込む。


「はぁ、はぁ……無茶をさせやがるっ! それにあの蛇女は一体なんじゃいっ」


 ドワーフの男二人は汗を滴らせながら、今回の搭乗案内に不満を漏らしていた。


(痛えええええ! 満身創痍だ、畜生っ)


 胸に加えて肩まで尋常ではない痛みを抱えて。


「……だけど、後はあの蛇のお姉さんをどうにかできたら、クリアだ」


「ええ、カナメさん。でも、まずは止まらなければ」


 丁寧な言葉遣いの少年はカナメの覚悟に水を差す。


「なぁ、おっちゃん達! 壊れて止まれないんだ、直してくれ」


 何度も走ったことがある道だから、分かる。


「馬鹿を言え、なんの道具もねえ! それに直すも何も、……もうすぐ町に着くってもんだ!」


 町を救いたいと思ったのに、魔族が町に到着するのを助長してしまった今回の作戦。

 いずれじり貧な状況のドワーフの町ではあるが、これで魔族の狙い通りになってしまったらちっとも笑えない。


「……ナメ、トメマス?」


 考えていると、この乗り物を止めることができると、カルブが提案してきた。


「できるのか、カルブ! ぜひ頼むっ」


 しかし、止まるということは。


「なぁ、ユーミ! トロッコが完全に止まるまで、蛇の女と距離をあけたい!」


「おうけい」


 そうして、窮地を何度も助けてくれた少年と少女の合体技(魔女っ娘プロデュース)を構築する。光のスクロールを描いて、()()()を準備。


 いつもは地面に落ちるだけの光の粒子は、術師が高速で動いているため流星のように尾を引いていた。

 洞窟の鉱石から拝借した金属弾は凄まじい速度で蛇女に着弾し、その体を抉っていく。


(なんちゅう威力だ、カルブの”あれ”も凄まじいが、こいつぁ銃なんて目じゃねえなぁ)


 なぜこの少年は銃を持たないのか、と考えていたグウェーブはしかし、その理由について納得する。

 それを見ていたカルブもジェット噴射をしながら進行方向に飛び、トロッコを前から抑えつけ、足の力と噴射の力をもって地面に敷かれた軌条や石をまき散らしながらトロッコを制圧にかかる。


 一同が乗り込んだトロッコが止まった頃には、ドワーフたちの生まれた街のすぐそばだった。


「……やった、か?」


 ノーゲルが作戦の成功を予感すると、


「あ! それは言っちゃダメだ! フラグでしょうに!」


 カナメが言えばその通り、洞窟の奥からはじゃりじゃりと何かがこすれる音。


 そして、虫けら共、皆殺し。そんな呪詛の叫びが聞こえてきた。

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