破壊の光
大事な愛娘の声に意識を向けると、エトナが妙に懐いていたカルブに肩車され、なかなかの速度でこちらに向かって走ってくるところ。
”螻蛄の女王”は少し狭くなっている場所、幸運にも岩盤が固くなっているようで自身が通れる大きさを確保するのに苦戦していたようだった。
それも恐らく、束の間。
(エトナ、だと!? なんだってこんな危なねえ場所に来やがるんだっ)
「父ちゃーんっ……まち、まちがぁぁ」
「エトナ! 馬鹿野郎! 何しに来やがったあ!」
言いながらノーゲルと二人、エトナの後ろについてくる螻蛄の群れに向かって銃撃する。
より危険な”螻蛄の女王”は差し置いて娘の生きられる時間が長くなる可能性を優先して行動する。
カルブもエトナを地面に座らせて、目から光線をだしたり左手のバルカン砲で応戦する。
次々と弾込めをして、後方の螻蛄達に銃撃を仕掛けるものの、もう最後の一匹というところで、グウェーブも、ノーゲルも弾薬が尽き、ガチャガチャと引き金を引きながら”親父”は吠える。
「くそったれがぁ! 娘に触るんじゃあねえ!」
螻蛄がエトナに鎌を振りかざす。
指令を受けてエトナを守ろうとするカルブも目からちょろちょろと弱弱しい光線が出るだけで螻蛄までは届かない。
グウェーブは破れかぶれ、思い出の斧を力いっぱい振りかぶり、神に祈りながら投擲する。
明日から鉄を撃てなくなってもいいから、二度とこの手が動かなくてもいいから、当たってくれと。
願いが通じたのか、それとも単なる偶然か。
鎌を振り上げたことで少しだけ上体が反れていた螻蛄は外骨格の切れ目に”トマホーク”をお見舞いされる。
心臓はないのだろうが、受けた衝撃で鎌は空を裂き、傷口から液体を零しながら数歩歩いて螻蛄は倒れる。
「父ちゃん……ッ」
「エトナッッ!」
互いに駆け寄って抱き合いながらも、グウェーブは生きていて良かった、最後に娘に会えてよかったと、思う。
「グウェーブ、時間がねえ」
相方が呟くと、親父はエトナの肩を持って、そっと押し離す。
「ノーゲル――」
「馬鹿垂れがあぁあッ」
ノーゲルは思いきりグウェーブの脳天に拳骨を落とし。
「なにしやがる! 時間がねえんだよ! 俺が女王をおびき寄せるからノーゲル、おめえはエトナとカルブを――」
すると、ごちん、と。今度は頬を殴られてグウェーブはよろける。
「このっ、いい加減怒るぞ、ノーゲル!
「……いい加減怒っとるのはこっちだ! 馬鹿垂れがっ」
ノーゲルは目を真っ赤にし、鼻息荒く拳をプルプルと振るわせて怒りを露にする。
後ろの方では巨大な螻蛄の女王がついに半身をくぐらせて、片方の鎌をぶんぶんと振りまわしていた。
「グウェーブ……おらぁ、独り身だって言ったろうが。おめえさんにはエトナが、エトナにはお前さんが必要だろ……?」
「のぉげるぅ……」
グウェーブは自身が犠牲になることはたやすいと思っていたが、エトナをの名前を出されれば弱かった。反対することができない。
それに、全員で町まで逃げようとしたところで、全滅は確定だ。涙を零しながらノーゲルと握手してから抱擁し、次にエトナを抱きかかえる。
「なぁ、ノーゲル……俺達三人は、最高だ」
「ああ、そうだ。会えてよかったぜ? 親友よ」
二人が最後の会話に伝えたいことを交換し合うと、エトナが割って入る。
「なぁ、いやだぜ、とうちゃん! のーげるおじさんも逃げようってもんだ!」
「エトナ……グウェーブ――父ちゃんと一緒に、幸せになるんだぜ?」
ノーゲルはエトナと目を合わせ、ウィンクをしてから親指を立てて笑って見せる。
岩に阻まれて苛立っている女王はさらに激しく暴れまわっていた。
「いやだってもんだ! のーげるおじさんだって、おれの父ちゃんみてえなもんじゃねえか!」
「……っ」
一瞬ぐしゃりと顔を歪ませたノーゲルはすぐにエトナに背中を向け、螻蛄の女王に向き直る。
その時、ガラガラと大きな音を立て、螻蛄の親玉、女王がその体に自由を取り戻す。
今まで聞いたことのないような咆哮に、全身が粟立っていた。
「――行けえぇぇぇぇいッ!」
エトナを抱きながら、友に背を向け、走り出そうとした。
グウェーブの涙がポロリと落ち、エトナの首から下げたペンダントに当たってキラキラとカンテラの光をはじく。
その光景を見て、カルブがサッと走り出し、グウェーブのズボンの裾をキュッと引っ張る。
当然、走り出した時に引っ張られれば転倒する。
エトナを落とさないように腕を前に出しながら転んだグウェーブはもろに顔面を岩肌に強打する。
「ば、こ、馬鹿野郎が! エトナが落ちたら怪我いやお前さんこの流れ見てただろ逃げんだよぉ――」
「――ソレ タベテイイ?」
早口でカルブを叱責するグウェーブに食い気味で質問する。
「は……?」
ちょっと何言ってるかわからないといった顔であんぐりと口を開ける親父。
しかし、純真な子供は、大人には分からない感情をもってカルブの質問に素直に答える。
「かるぶ……このペンダントのことかい? こいつぁ『たからもの』だけど、こいつがあればあいつを倒せるのかい?」
「……トナ ソウデス」
「父ちゃんたちをたすけれるの?」
「ソウデス」
「まちをたすけられるの?」
「ソウデス」
「……だすけてよっ、父ちゃんたちをたすけてっ」
泣きながらそう言って、親父の手を離れてエトナが駆け寄ってくると、ペンダントを首からとってカルブに差しだす。
「チガウ ナカミ ナカミ」
そういうと、ぶきっちょそうな手で器用にペンダントを弄り、蓋を開けて見せる。
「なんだこれ、ひらくのか」
エトナが不思議そうにペンダントの中身の、血のように真っ赤な石をちょんと摘まんで眺める。
「ハヤク タベル」
よし、と眉をキリリと吊り上げ、摘まんだ石をカルブのぱっかり開けた口に放り込む――
――瞬間。
カルブの体は黒い光に包まれる。
外装の隙間から赤い光が漏れ、目の色もまた赤く変化した。
グウェーブとエトナは何が起きているのか――起こるのか。
全く予想もできずに流れに身を任せる。
こうなってしまったら、どうせこの人形に、『トモダチ』に任せるほかない。
背後で急に発光する何かに思わず振り向いた、膝が震えるノーゲルも、目の当たりにする。
――破壊の光を。
「”オメガ・ブラスター” ハツドウシマス」




