たからもの
「ね、カナメ。ラスター……っくるよ!」
ぽりぽりとおやつを食べていたユーミがごくりと喉を鳴らしてから呟くと、微かに穴の前方から音が聞こえる。
「発砲準備します!」
ラスターは肩に下げた銃に弾丸を装填して片目を瞑り銃口を暗がりの奥に向ける。
以前より改良されスリムになった銃は取り回しがよさそうだ。
それをもう一丁、肩からぶら下げている。
威力を下げる代わりに大きさと重量を落とし、身軽さを重視したのだろうか。それともドワーフの技術により威力はそのまま、軽量化に成功したのか。
カナメもユーミの眼前にキラキラと光るスクロールを描いた。準備した魔術は土の弾丸。
魔術を放つ役割のユーミは、スクロールにいつでも魔力を込められるように心構えをし、一流の鍛冶師に鍛えてもらった金属製の杖を構える。
奥から響く振動は騒音へと変わっていく。
「行きます。3,2,……」
穴掘りに最適な前腕を洞穴の床に打ち付けながら、歪な姿のそれが向かってくる。
この世界の『キマイラ』、ノーゲルへと致命傷を負わせた”螻蛄の”化け物。
光の精霊の力によって照らす範囲へと侵入してきた瞬間、カナメ達一向にとって二度目の遭遇はしかし、あっけなく終わる。
「……1、発射」
耳を裂くような発砲音とともにラスターが新作の銃の口から煙を昇らせる。
すると、忙しなく足を動かしてくる螻蛄の脳天、目と目の間を目的に進む弾丸は外骨格を飛び散らせた後、生存には不可欠な部分を穿ち、彼、或いは彼女の生命を停止させた。
撃ち終わると同時にもう一丁の、次の銃を構えて居たラスターは冷静に見えたが、ぐしゃりと胴体を床につける螻蛄をみて安堵し、振り返る。
その額や首筋にはべったりと冷や汗を滲ませていた。
「や、やりました」
「すごいっ!」
「本当にすごい威力だな、精度もだいぶ上がったんじゃないか?」
最初の一撃と同時にとどめの一撃となった銃の威力に舌を巻きながら、感想を述べる。
「確かに、威力も精度も段違い。さすがドワーフの技術力といったところでしょうか。それにしてもこいつに大穴を開けたカルブの飛ぶ拳の威力は信じられませんね……」
少し間抜けな技名を言った後に繰り出す、剛拳。
外骨格どころか穴掘りが好きな螻蛄の胴体に大穴を開けてしまう威力。豪快な光景を思い出しながら、カナメはふと考えた。
「あれは確かにすごい威力だったけど、そういえばカルブの奴、魔石食ってたか?」
「おけらはモンスターじゃないみたいだから、魔石を食べていないよ?」
ユーミは息絶えた螻蛄の頭を杖でガンガンと叩きながら話す。
「……あの時はどのくらいの残量があったかは分かりませんが、数発で燃料切れになっていましたね。心配ですが……」
「とにかく最深部まで行って螻蛄発生の原因を突き止めるなり、はっ倒すなりして、急いで戻ろうか」
町に残してきた切り札を心配しながら、さらに奥へと歩みを進める。
どのくらい、歩いただろうか。
歩いて休憩してを繰り返しながら進むカナメの一行は、いよいよ最深部らしい場所まで来たことを鼻のいい魔術師から知らされる。
「ね、カナメ、ラスター……この先に、いると、思う」
立ち止まったかと思うと、言葉を噛みしめて、絞り出すユーミ。
根拠はないが、自信がある時にこんな話し方をしていた。いつだったか、死霊と対峙した時に――。
「な、なにがいるというのですか?」
恐る恐るという様子で質問をするが、頭のいい彼ならば本当は察しているはずだ。
「魔族がいる感じがする、ってことか?」
「わからないけど、いると、思う。嫌な感じがする」
洞穴の床は僅かに傾斜しており、下っていた。歩いていく内、徐々にひんやりと、じめじめと。
各々が嫌な空気を感じ取ってはいたが、それとは別の気配を感じ取る魔術師。
「どうしてわかるんです?」
「ユーミはどういうわけか、魔族の独特の匂いを感じ取れるんだよ、以前にもこんなことがあってさ」
「うん。ごめんね……わからないけど、わかるよ。いる」
「魔族がいるってんだったら陰で螻蛄を操ってるんだろうよ、奴らの目的がなんであれ――」
「「はっ倒す」」
「……やるしかないですね」
ひそひそと話しながら慎重に奥へと歩を進めた。
光の精霊の光量を絞っていくと、洞穴の奥に空間があることに気付く。ぼんやりと薄緑に光っていて恐らくある程度の広さがある空間。
三人で向かいあい、行くぞと頷き、じゃり、と音を立てて最初の一歩を踏み入れた。
恐らくここが――。
「下等な人間――”虫けら”共が――」
――目的地。
***
「かるぶ」
「ソウデス」
「そうじゃねえ。おとなはまたなんだかムズかしいはなしをして出かけてった。またそのへんであそぼうじゃあねえか。おまえさんはともだちだから、『たからもの』を見せてやるってもんよ」
「『タカラモモ……』」
「たからものはこっちにかくしてあるんだ」
「ソウデス」
カルブとエトナ、小さな二人組は町はずれの暗がりにいた。
少し先にドワーフの町を守る門番が立っているのが見える。グウェーブとノーゲルの二人以外にも、交代で螻蛄に備えているのだろう。
「ここにおれのたからものがかくしてあるってもんよ」
エトナが暗がりの大岩を、まだ少女とはいえかなりの力で押し上げる。
するとその下には窪みがあり金属製の箱が格納されていた。
エトナが箱を開けて、中身を取り出す。小鳥の雛を手に取るようにそっと。
手を広げてカルブの前に差し出すと、懐中時計のようなペンダントが小さな掌に収まっていた。
銀色で精巧な作り。しかし古さは隠しきれず、細かい傷やくすみが見て取れる。
それでも、その懐中時計はかなりの巨匠が作り上げたのだろう。オーラの様な凄みを発している。
「どうだい、かるぶ。こいつぁすげぇだろう」
「……ソウデス」
「あんまりおぼえてねえが、だれかにもらったんだ、もーっと小さいころによ」
「ウマレタトキニ」
「さぁどうだろな。……なぁカルブよぅ。この町のこどもは母ちゃんと父ちゃんがいるやつがおおいってもんよ」
「……ソウデス」
「きょうだい、ってのがいるやつもいるな。みんなたのしそうだ」
「…………」
「おらぁ、母ちゃんはいねえけど、寂しくはなかったんだ。はじめて『ともだち』もできた。それにこの『たからもの』を見てると、おらぁなんだか父ちゃんが三人もいるような気がしてくるんだよなぁ――」
「ソウデ――」
「「――螻蛄がでたぞぉっ!」」
低く太く、大きく。門番のドワーフが声を張り上げる。
脳を揺らすのではないかというほど空気を振動させる警鐘が鳴り渡り、穏やかであったはずの一日は、銃を構える暇もなかった門番の血をもってして、幕を下ろす。




