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洞穴

 作戦決行の朝。


 二人一組となったドワーフたちが、町の入り口でありながら洞窟の入り口でもある場所に集まる。

 グウェーブとノーゲルは勝手知ったる二人でパーティーを組んだようだ。


「皆さん、銃の出来は十分ですが、無理はしないでください」


「おお。お前さん達も気を付けてくれよ」


 互いに武運を祈って、一行は装備を整えてトロッコへ向かう。トロッコ組が出発していくらか時間が経過してから、ドワーフたちも洞穴に侵入する作戦だ。


 後ろから、「おう」と威勢よくドワーフたちの野太い気合を入れる声が聞こえてくる。

 それぞれ髪の色や甲冑が違う、軽装備の者もいる。

 個性は違うが似通っている特徴。背が低く、骨太。筋肉は発達している。


 ――どうか無事で。


 心の中で祈りながら、ラスターとカナメは目を見あいながら頷く。


 殺人トロッコに乗るのだ。

 もう一度。


「大丈夫です、大丈夫です。操作方法は教わりました。酔い止めも飲みました。進むのみ、です」


 頭のいい少年は自分とパーティに、大丈夫だと言い聞かせる。


「それじゃあ、カルブ。 何かあったら、町を……エトナを頼むぞ?」


「ソウデス」


 感情の見えないカルブに依頼をする。

 内容はきっとは伝わっただろう。


「エトナちゃん、いい子にしていてね?」


「あたぼうよ、それにいつもいい子だってもんよ」


 友達となったカルブに肩車のように跨っているエトナ。トロッコに乗り込んだ一行に手を振っている。


「それじゃあ、”おけらはったおし作戦”いってみようじゃないの」


「おうけい」


「発進します!」



 ゆっくりと。


 トロッコは加速していく。


 次々と景色を置き去りにして、猛スピードでトロッコは走り抜けた。


 酔い止めは少しだけ効果があった。

 少しだけ。


目的地に着くと、元気にトロッコから飛び降りたユーミに手を引かれ、ナマコのようにぐったりしている二人は取り急ぎ水を飲む。


「だ、大丈夫か、ラスター……ちゃんと運転できて偉いぞ?」


「み、皆さん……ドワーフの皆さんより先に、うぷ。最深部へたどり着かなくては」


「お、おう」「おうけい!」


(精霊君、頼むよ?)


(        )



 ぽわっと綿毛のような光の精霊が現れて、辺りを照らす。


「それでは、僕が先頭を行きますので、着いてきてください」


「大丈夫? ラスター」


「この広さでは杖は存分に振り回せないでしょう……魔術での後方支援をお願いします」


「おうけい」


 最深部らしい横穴を見つけ、侵入する。

 初めてここに来た際には、暗さと得体の知れない地下に落下した焦りで気付かなかったのだろう。大人の人間が三、四人。

 横幅のあるドワーフなら二人が並んで歩けるような幅。


 ――丁度、”螻蛄”が一匹分ほど。


 慎重に明かりを照らしながら、穴の中を進む。

 奥にいるかもしれない相手を挑発してしまわない様、光の精霊による照明はとっさの攻撃に反応できる程度の範囲にとどめた。


「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……」


「おけら、だよ?」


「いやまあ、そうなんだけど」


 カナメとユーミは少し声を抑えながらも話しながら進んでゆく。

 隊列はラスターを先頭に、カナメとユーミは並んでその後ろに。


「のんきですねえ……」


「いや、僕だって怖いけど、こんな洞穴を黙って進むのは心臓によくない」


「ラスター、おやつ食べる?」


「ユーミさん……」


 ラスターは緊張感のない二人に情けない顔を見せる。

 ――パーティーは奥へと進んで行く。



***



 グウェーブとノーゲルは長年の付き合いがある。二人一組とするなら互いにパーティーを組むと、それ以外は考えていなかった。


トロッコの道、その中腹ほどの穴に侵入し、カンテラで照らしながら奥を目指す。

 既に一匹の螻蛄を相手に、その銃の威力を確かめたところだ。


「いい出来だ、一発目の銃弾で仕留めれたなぁ」


 グウェーブは仕留めた虫けらの頭をけ飛ばす。もう少し早くこの武器に出会っていれば――少し頭をよぎったが、首をぶんぶんと振って思考を切り替える。


「しかし、この虫っけらが今回町に攻める予定だった一匹、ってぇ考えるのは早計かね?」


「だとしたら、なお上出来。だが、町に攻め込む虫けらは余りもん。最低限、巣を守る奴はそれぞれの穴で待機してる、って考え方もできるわな」


「……俺達が町を守る門番は最低限確保しとるように――ってことだな?」


「実際は分からねえがよ……なぁ、ノーゲル。バリルガスが死んだ日。あいつエトナに少しだけ会えた、覚えているか?」


「ああ、忘れるわけがねえだろうが」


 ノーゲルは、少しいら立つような素振りで答える。親友が死んだ日を忘れるものか、と。


「なぁ。エトナは、その日の事を、それまでの事を覚えてる、と思うか……?」


「……馬鹿言え。その時エトナは二つだったんだぞ。おめえ、四つの時に二つの時の事、覚えてたかよ?」


「おめえ、そりゃまた話が変わってくるだろうが」


「なんでそんなこと聞くんだよ、今更よ」


ノーゲルはなおも、いら立っているぞという口調で言う。実際はそうではないということなどグウェーブはお見通しだが。


「おれが親父になってよ、エトナは『父ちゃん』って呼んでくれるが……だけどバリルガスの事――本当の父親の事も覚えてるとしたら、エトナはどんな気持ちなんだろうな……」


 グウェーブは自身の葛藤を友に打ち明ける。


「……エトナが大人になって、一端になってよ。結婚するころに聞いてみろよ。『おれが親父でどうだった』ってよ」


「大人になったら子供の頃の事なんざ、たいして覚えてねえに決まってんだろ」


「じゃあいいじゃあねえか。今、精一杯親父として育ててやりゃいいじゃねえか、それでいいじゃあねえかよ」


「……そうかよ!」


「おらぁ独り身だから、知らねえってもんよ」


「ハッ! そうかよ!」


 微かに。別な穴だろうか。

 銃撃の音が聞こえる。


 皆、無事だろうか。


 次第に巣穴を進む二人の足取りは力強くなっていく――。

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