夢
工房に向かう途中に串焼きを幾つか買う。作業をしているグウェーブへの土産とユーミのおやつとして。
「グウェーブ、調子はどうだ?」
「おお、お前さん達。まあ、順調だ。それに、ほらよ」
そうして串焼きと交換に手渡されたのは、ユーミの鉄の杖。
「わあ! ぴかぴかだね!」
「打撃武器ってのは結局、『腕力』と『バランス』だ。重量があるほど威力は上がるが、振り回せねえんだったら意味がねえ。嬢ちゃんに最適に打ったつもりだ」
「おおっ、手に吸い付くみたいだよっ! ありがとねえ」
嬉しそうに振り回すユーミ。
無邪気でほほえましく見えるが、この武器でいくつもの屍を築くことだろう。
「明日には説明と演習でいくつか使いたいのですが」
「ああ、部品はある程度作って細工まではしてある、組み立ててくれるか?」
「ええ。もちろんです」
ラスターは銃の組み上げに参加することになり、カナメとユーミはまた手持無沙汰になる。
「まあ、あなた方は戦力ですから、休んでいてくださいよ!」
「戦力って言われるとアレだけど。まあ、町でも見て回ってみるよ」
「おうけい」
そうして町の雑貨屋を見て回ったり食料品の店を見ていると、町の子供たちが遊んでいるのが目に入った。
店から離れて、岩場にユーミと並んで腰かけながらその様子を見る。
ノーゲルが言ったようにその輪にエトナはいなかった。
エトナよりは少し大きいように見えるが、似たようなものだろう、キャッキャとはしゃぎながらこの世界の遊びか、ルールは分からないが鬼ごっこの様な事をしている。
そのなかの一人がこちらに気付き、遊びを中断して近寄ってきた。
「お兄さんたちは、ヒューマン?」
「ああ、そうだよ」
ドワーフ族に、ヒューマン族やヒト族と呼ばれるカナメ達。ふと、精霊王が人や人に近しい種族があると前に言っていたことを思い出す。
「エトナと一緒にいたのを見たよ、あの子は町におけらを呼び込んだ悪いドワーフの”おとしだね”だから遊ぶなって母さんに言われるんだよ?」
「そうそう、きをつけないとおけらにたべられちゃうよ」
ヒューマンはあまりこの町にいないのか、次々に似たようなことを言いながら子供たちが近寄ってくる。
そんなことないよ、遊んであげないと可哀そうだろ、そんな安っぽい言葉をかければいいのか。カナメには分からない。
「――おけらなんて、おねえちゃんたちが全部倒しちゃうから関係ないよ? それにきっと、魔族がね、ドワーフが強い武器を作るのが怖くって襲ってきてるの」
ユーミが子供たちに語り掛ける。
「えー! 本当かなぁ! おけらは強いんだよ、ヒューマンが勝てるわけないよ!」
「鉄をとりすぎて神さまを怒らせちゃった、っていってたぞ」
「そうだよ、何人も大人がやられちゃったんだよ!」
「ぼくの、父ちゃんもおけらにやられたんだ! あんなに強かったのに……!」
父親を螻蛄に殺されたと言って涙ぐむドワーフの子供。
エトナだって同じだ。
ユーミはそっと半べその子供の頭に手を乗せて『お話』を聞かせる。カナメの冒険譚だ。
お城の魔族を倒して。
ゴブリンキングを倒して。
砂漠のゴーレムを倒して。
巨大なミイラを倒して。
聞いたことのない冒険のお話を子供たちは夢中になって聞いている。
時に驚きの声を、時に歓声を。
たっぷり時間をかけて大いにカナメが格好良く脚色された『お話』を終えると。
「――だから、全部【勇者カナメ】がズバッと解決してくれるよ。そうしたらみんな、エトナちゃんと遊んであげてね?」
子供はいつだって冒険譚が好きだ。
お城の中だけが世界だったユーミもかつてそんな冒険譚に憧れたのかもしれない。不承不承、といったような顔で子供たちは、いいよ、わかったよ、などと返事をしている。
「もっと、『お話』を聞かせてよ!」
「あはは、ごめんね。『お話』の続きはこれからなんだよ? また冒険して、聞かせてあげるからね!」
ユーミが子供の頭を、ぐしぐしと撫でると、絶対だよ? そう言って子供たちは遊びの続きに戻っていった。
「……ユーミは子供が好きなのか?」
「うーん……子供も大人も、おじいさんもおばあさんも、ドワーフも。みんな好きだよ!」
「そっか。まあ、おけらなんてぜんぶ――」
「はったおしちゃおう!」
ユーミは元気いっぱいに応える。
『お話』の中ではカナメは空を飛んだり、強力な魔術を使ったり、目から光線を出したりと、かなり大袈裟な活躍をしていたが、子供の前ではまあいいかと半ばあきらめていた。
***
カナメは久しぶりに夢を見た。
自分がスーパーヒーローのように空を飛んで、大賢者のように魔術を放ち、ロボットのように目からビームをだして、強敵を打ち倒す。
それでも、町や世界は救えなかった。
そんな夢――。
目を覚ますと、いつもより長めに眠っていたようだった。
腰や肩にだるさを感じる。
ユーミのオリジナリティあふれるお話の影響だな、などと考えながら半身を起こしてぼんやり窓の外を見る。
岩をくり抜いてガラス状の薄板をはめられた窓。透明感はそれほどではないが。
ふと。
発砲音が聞こえて慌ててベッドから飛び起き、窓に近寄って眼下を見てみれば、ラスターがドワーフの大人を率いて銃の説明と射撃訓練をしていた。
この前まで家に引きこもって怪しげな装置を作っていた少年が。そう考えるとふふ、と笑みがこぼれてしまう。
「あ、カナメ。今日は遅かったねえ」
いつもは肩にかかるほどの少しくせのある髪の毛。それを今日はポニーテールに結ったユーミが、部屋に入ってきた。
ここはグウェーブの家だ。寝る間も惜しんで銃を打っている家主に代わり、掃除をしているらしい。
「さっき、みんなにお昼ご飯をもっていったけど、武器の出来もみんなの練度も上々だ! って、グウェーブさんもノーゲルさんも、ラスターも機嫌がよかったよ」
「え! もう昼なのか……僕の分は!? もしかしてユーミが食べちゃったのか!?」
「むうー! そんなわけないでしょ! あるよ!」
頬を膨らませてムスッとしたユーミは盆に乗せられたおなじみの料理を持ってくる。
「ドワーフはこの肉が好きなんだなあ……あれ?」
串焼きや食事にはモグラの肉が出された。
確かにうまいがいつもと味付けが違うようだ。
「どう! いつも同じ料理で飽きちまうってもんよ! ってグウェーブおじちゃんもエトナちゃんも言ってたからね! 私が作ってみたんだよ!」
確かにこれまでと違っている。が、美味い。手持ちの香辛料などを組み合わせて使ったのだろう。
「ああ、美味いよ」
「よかった! お料理は苦手だけど、わたし、なんにもしていないから」
「……そんなことないだろ。これからおけらをはったおすんだし、子供たちにお話ししてくれたじゃないの。子供たちが心を開いたから友達になる約束してくれたんだよ」
「うん……がんばろう、ね!」
昼に起きて遅い朝食とも昼食とも言えない食事をとりながら、考える。
(……螻蛄の目的は、なんだろう?)
窓に目をやるとカルブとエトナが走り回っていた。
エトナは最初に着た頃よりも、元気があるように見える。
穏やかな昼過ぎは、あくまで穏やかに、過ぎていく――。




