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殴りWIZ

「なぁおっちゃん、聖王様に会ったことがあるのか?」


 何らかのヒントになれば。

 食事の途中にふとそう思い、”槍”を献上したという昔話を思い出して、聞いてみる。


「ノーゲルから聞いたのか? お喋りな奴だな。そうだ、俺たちが鉄とも魔鉱石とも言えねえ不思議な材料をたまたま見つけてな。世界樹の枝と合わせて槍を拵えた。それが若かりし聖王の目に留まり献上した。大層な報酬をもらったよ」


「魔族にも通用するような強力な武器なのか?」


「ああー……強力な時もあれば、強力じゃねえ時もある。一般人が扱うにゃ、どちらとも言えねえな」


「聖王の槍って言うくらいだから、敵を滅ぼして手元に戻ってくる、とか想像したんだが、そうもいかないみたいだな」


「なんじゃあ、そんなものがあったら一目見てみてぇもんだ」


 神話級の武具を想像して、魔族の打倒に思いを馳せる。

 が、どうやらそう都合のいい武器ではないようだ。


「まぁ、何かしらお前さん達には飛び切りのモノを作ってやりてえと思うがよ、あいにく町はこの状況で、それにアイデアがねえ。俺達お得意の重装備は好みじゃあねえだろ?」


「まあ僕は戦闘自体が向いてないんだけど。あはは」


 カナメには武器の心得がない。命を守るアクセサリーなどはあればありがたいが。

 グウェーブにそう伝えると、


「そんな都合がいい武具なんてあるかよ。伝説や言い伝えに出てくるような素材があれば別かもしれねえが……」


「わたしは杖を作ってほしいな!」


 ユーミは振舞われた料理を綺麗に食べ終え、カップを両手で持って食後のお茶を嗜みながら願望を言う。


「杖……か。魔力伝導や増幅属性なんかを教えてくれ、それに見合う素材がありゃあ、作ってやるさ!」


「これ!」


 お茶のカップをテーブルに置き、すたすたと駆けて鉄の杖をグウェーブに見せる。


「こ、こいつは杖というより……」


 ――鉄棒。


「こいつには魔力増幅や制御性能もねえように見えるが、嬢ちゃんは魔術師だろう?」


「ううん、殴って使うんだよ! 今のところはね!」


 ――この魔術師は”殴りWIZ”だ。


「そ……そうかい。そもそもなんだってこんな鉄の杖が作られたんだか――だが、振り回すにゃあ、そうだな。重心バランスに、柄。嬢ちゃんは手が小せぇから持ち手なんかを打ち直せば今より扱いやすくなるんじゃねえかな」


 この匠は、このパーティーの魔術師の物理攻撃力をさらに上げることができるという。


「このくらいは朝飯前だ。銃の作成のついでに打ってやろう。おれは明日から工房で作業に入る。その間にラスターよ、ノーゲルと作戦を詰めてくれるか?」


「わかりました。明日、作戦を練り、明後日に戦ってくれるドワーフの皆さんに作戦の説明と、銃の取り扱いと演習を。練度を見ながら、その翌日か翌々日には――」


「虫けら退治といこうじゃねえか」


 夕飯を済ませて少し雑談をしていると、こくりこくりと船を漕いでいるエトナを寝床に連れていく父親。

 カナメとユーミは寝所に消える、親子の背中を見ていた。



***



 ラスター。カナメとユーミ。彼らは翌朝、ノーゲルの住む家に来ていた。

 エトナはカルブが気に入ったらしく、今日もキャッキャと町に遊びに出かけていく。


 壁には重厚な剣や斧、槍や盾がいくつも飾られていた。部屋の隅には見事な甲冑もある。


 テーブルに着いたドワーフ一人と人間三人。


 昨日グウェーブの家で振舞われた、洞窟に咲く淡く光る花のお茶が出されている。

 茶葉はあるが、淹れるのは得意ではないからと、家主の代わりにユーミが淹れたお茶。


「それでは、僕の考えた作戦草案をお話ししますね」


 カナメのパーティーの頭脳、ラスターが切り出す。


「まずはいくつかの螻蛄の穴。数が多いため全ては無理ですが、およそ十。二人一組で穴に入り、進みます」


「銃ってのを装備して、か」


「そうです。螻蛄に遭遇したら完成した強化版の銃で倒せるはずです。万一、撃ち漏らしたら後列と交代して砲撃と弾込めを」


「ラスターの銃って、十回に一回は……」


 ――失敗していた。


「だ、大丈夫です、ドワーフ族の火薬の調合は完璧です。銃の調整も相まって武器としての失敗はないでしょう」


「日数的には大丈夫だと思うが、その間に町に虫けらが出たらどうする?」


「はい、過去起きなかったからと言って未来も起きないとは考えていません。予防線として、数人のドワーフの皆さんに残ってもらい――銃も増産できそうなのでいくつかお渡しします。それに、カルブを残していこうと思います」


「え! カルブを置いていくのか? 僕たちは大丈夫?」


 心配そうにカナメは質問する。

 もし、親玉――。

 魔族や、螻蛄のボスの様なものがいたとしたらカルブの攻撃力なしで勝てるのだろうかと。


「何を言っているのです、カナメさんとユーミさんがいるではないですか!」


 ラスターは目を見開いて本気で驚き、何を戯言を。そう言っている。


(まずい、ラスター少年も僕を買い被っているんだな!?)


「そうだね、カナメがいるからわたしは大丈夫だよ!」


「そうだな、嬢ちゃんの腕力も、兄ちゃんの治癒の魔術もあまりに強力だもんな……」


「それに、カルブは物の一撃で螻蛄を葬っていました。今までは一匹ずつ現れていたというなら十分なはずです。もしも、複数現れるとしたら抵抗できないでしょう。どちらにせよ待っていただけでは町は全滅してしまいます」


「銃を量産して門番に与えて、これからも町を守り切るってのは難しいのかい?」


 ノーゲルは作戦に怖気ずいているわけではなさそうだが、もう一つの案を持ち出す。


「螻蛄の目的にもよりますが、”餌”が目的で町を攻めている様子ではなさそうです。何らかの目的で町を襲っているのであれば、じり貧でしょう。あれが例えば三、四匹。一度に現れて門番を襲ったとしたら撃退できるでしょうか。今回は穴を進むため、俊敏な螻蛄が避けることができない、という前提がある作戦なのです」


「なるほどな。だが俺達二人一組のドワーフの誰かが、『親玉』を見つけたらその後どうするんだ」


「虫ですから、巣があると考えています。何か見つけたなら、退却、或いは待機を。……洞窟の最深部、初めてそこへ到達したときに最初の螻蛄が現れたと聞きましたから、巣があるとすればその近くではないでしょうか。そこへカナメさんとユーミさん。それに僕でトロッコに乗って先回りし、大急ぎで一番奥の穴を進みます。できるだけ僕たちが最初に遭遇できるように」


「わかったよ、がんばるね!」


 多分作戦内容は良くわかってないであろうユーミ、ただし、魔族の恐ろしさは知っているはずだ。


「作戦内容は分かった、参加してくれる同族には俺から説明しておこう」


「お願いします。明日には、いくつかの銃が出来上がっているでしょう。それを使って使用方法の説明と演習をします」


「じゃあ、僕たちは、――工房でも覗きにいくか」


「そうですね、今日は休みましょう」

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