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試作品

 結局、脳を揺らしたノーゲルが立ち上がれるようになるまで、水を飲ませたり、世間話をしたりして家に送るまでたっぷり時間をかけることとなった。

 グウェーブの工房へ行くとラスターとグウェーブの討論は続いていた。


「この重量でしたらどうです?」


「まあ、ドワーフの力がありゃあこのくらいならわけねえ」


 二人の前には試作品と思われる”銃”が置いてある。鈍く光沢を放つそれはラスターの持つものより二回りほど大きい。

 グウェーブは銃を手に取ると担いでみたり、銃身を顎のあたりにあてて狙いを澄ませる恰好をしたりしている。

 その大きさはカナメの前世からの記憶で言うところの”SMAW ロケットランチャー”ほどはある。

 しかし製造の精密さではそれほど単純にはいかず、材質の厚みなどがある分、重量はかなりのものだろう。


「安心しました――あ、カナメさん、ユーミさん。おかえりなさい」


「おお、お前さん達。どうだい、ドワーフの町はよぉ」


「ああ、いい町だよ。それに家も頑丈そうだ」


 先ほど、決して小さくはない重量の物体が決して小さくはない衝撃を持ってぶつかったが、崩れなかった民家を思い出してカナメは言う。


 戻り際に、銃の制作に没頭しているだろう二人に買ってきた土産の串焼き肉を渡そうとする。

 十本ほど買ったはずだが、二、三本明らかに足りない。ユーミの方を見たが、少女は頑なに目を合わせようとはしなかった。


「そういえば、カナメさん、銃を使った何やら有用な作戦があると?」


 手渡された串焼き肉をほおばりながらラスターが先の会話でカナメが言った内容を聞く。


「ああ、なに、特別な事じゃない。二人一組、或いは三人一組でさ。銃を撃った後に弾込めする間、別な人間とスイッチしてそいつが次を撃つ。冷却時間が必要だって言ってただろ? それに一発目で仕損じたとしてもすぐ絶望する必要がない」


「なるほど、とても広いとは言えない穴の中では、確かに有用ですね。それで、今回の作戦にどのくらいのドワーフが参加できるのか、なんだけど……」


「ああ、さっきも話したが、この町の――。ドワーフの戦士は皆やられちまった。協力してくれそうな大人の男は三十いるかどうか。だが町の守りに銃人は置いときてえところだ」


 グウェーブが町の戦力を説明する。

 二人一組として二十人が用意できるのならば。


「十組で討伐に行くなら。二十、銃がいるってことだな。 なあおっちゃん、どのくらいの期間がいる?」


「こいつは半日もかからずに打って組み立てたが、あくまで試作品だ。同族の命を預かるんだからもっと精度はあげてえ。それでも何本か打っちまえば勝手が分かってくるだろうよ……少なくとも三日は欲しいな」


「……え、三日でできちゃうわけ?」


 うんうんと聞いていたカナメはドワーフの技術に驚きを隠せない。

 初見の、しかもまだこの世界では馴染みのない兵器を、試作とはいえ初見で作った上に二十を三日。


「だが、それまでに虫っけらが来ねえとも限らねえ――その間に何かあれば町の守りを頼めるか?」


「もちろんだよ!」


 串焼き肉を美味しそうに食べながら、ユーミは高らかに言う。話を聞いていたようには見えなかったが。


「おう。もどったぞ!」


「『ただいま父さん』だ、エトナ!」


 工房の入り口を見ると町に遊びに行っていたエトナとカルブが帰ってきていた。すかさず、乱暴な口調の”娘”に言葉遣いを注意する。


「エトナ、カルブに迷惑はかけなかったか?」


「あたぼうよ! カルブとおらぁ、ともだちだからな!」


「友達……本当かいカルブ」


「ソウデス 『テモダチ』ト ナリマシタ」


「……ありがとうよ……」


 友達ができた、その言葉に感慨を覚え、少しだけ目頭を熱くするグウェーブ。

 幼いドワーフの少女には初めての友達だったのかもしれない。


 ひとまず、少なくとも過去七日以上の間を開けて螻蛄が現れたことはないという。銃の量産、一緒に”攻めて”くれるだろうというドワーフの人数分のそれが完成するまでに、作戦を練らなくてはならない。


「なぁ、ラスター。銃の準備ができるまで、もう少し作戦を練ろう」


(しかし、螻蛄が町を襲ってくる理由はなんなんだ……?)


 カナメには分からない。


「――まあ、とにかく。いろいろとありがとよ、お前さん達。とりあえず今日は飯でも食って休んでくれや」



***



 工房からグウェーブの家へと場所を移し、夕食の準備へと取り掛かる。

 地底の町では太陽の動きは分からないが、トロッコの作成者バリルガスが作ったという地表の熱でおおよその時刻を図るという道具によって、『夜』だと知る。


 夕食の食材は串焼きとしてユーミが大層気に入っていたモグラの肉、地底に咲く花の根っこ。 ――ゴボウにも似ている。

 不思議なことに町や洞窟の天井に身を付けるイモの様なもの。水は地表に根を下ろした樹木、その根が町に突き出ている。その先端から滴っている物を樽に溜めているらしい。

 きっとこの町でも水は貴重なのだろう、雨は降らないから。


「わぁ! またこのお肉だね、わたしこれすき!」


 ユーミは最近食べ物の事ばかり気に掛ける。食に事欠かなかった王女様は、旅に出ている際の食事の不足が堪えているのかもしれない。


「悪いな、おっちゃん。飯まで用意してもらって」


「本気か? お前さんは親友の命を助けてくれたんだぜ? 飯の数日や数年分、そりゃ振舞わせてもらうってもんだ」


 ノーゲルの治療をしたことを恩に感じているようだ。

 しかし、螻蛄の巣穴攻めをしている時にはおいそれとは使えない。気を失ってしまうからだ。

 先日は一日で済んだ。ゴブリンキング討伐の際にはもっと長いこと気を失っていた。

 誰かを救うために、自身や仲間の命を危険に晒す覚悟はまだ、ない。


「めしがさめちまう。さっさとくおうぜ」


「エトナよぅ……」


 気のいいドワーフは娘の言葉遣いに、いや。

 親友の残していった娘に綺麗な言葉遣いを教えてやれない自分を悔しく思っているのだろう。

 ――心は読めないが、そうなのだろう。


 ドワーフの鍛冶師が作った食事は大胆で剛健。繊細で優しさのある味わいで、何の不満も生まれない。

 少し焦げていたがそれさえも、

 彼の優しさと裏腹、乱暴な言葉遣いのようにいいアクセントになっていた。

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