親父
段取りが決まれば、作業に取り掛かる。
工房に移動した一行はグウェーブに銃の構想のおおよそと、各部品の構成などを大まかに説明し、そのあとは試作品の作成者、ラスターに説明を任せた。
カナメは銃の大まかな事はインターネットで知っていたが、いざ作れるかというとそこまで都合はよくない。
ふむふむ、なるほどといったことを言いながら図面に構想を起こしながらグウェーブとラスターはああでもない、こうでもないと声を上げていた。
手持無沙汰になったカナメとユーミは約束によって工房の外で待っていたノーゲルに案内を頼み、少し町を見て歩くことにする。
「なぁノーゲルのおっちゃん、キマイラはどのくらいの頻度で現れるんだ?」
「大体、七日から三十日くらいで現れる。場所はあの洞窟の既にある穴から現れることもあれば、新たに穴を掘ってくることもある。最初のうち、穴を大岩でふさいでみたりもしたが、あまり効果はねえ」
「あの洞窟は?」
「さあな、俺が生まれる前からあった採掘場所だ。何年も何年も少しずつ掘り進んでな? あまりに長くて移動だけで何日もたっちまうもんだから、トロッコを作った――エトナの父親がな」
「グウェーブのおじちゃんが?」
ユーミがさっき店で買った串焼きを七本食べ終わり、会話に参加した。
串焼きはモグラの肉らしいが、ドワーフの町周辺でとれるモグラは地中で咲く花の実や根を主食にしているらしく、臭みがないため美味いという。
「エトナは、グウェーブの本当の娘じゃねえ」
「そう……なんだ」
――本当の娘。
ユーミは自分の出自とエトナを重ね合わせ、ほんの少し寂しそうな眼をする。
「エトナの親父は優れた鍛冶師だったが、同時に優れた戦士だった。トロッコを作って洞窟の今の最深部に進み鉱石を掘っていた時に初めて螻蛄に襲われたのよ。その時は五人の同族が死んで。体を切られながら命からがら帰ってきた奴は町に着いてすぐ、エトナに二言三言声を掛けて、死んじまった」
「……それが2年ほど前ってことか……」
「ああ、そうだ。エトナの親父、『バリルガス』がトロッコを作ってから奴らが現れるようになったって吹聴する同族もいてな。子供ってのは親の影響を受けるもんだろ? エトナはなかなか友人もできねえみてえだ」
「でもさっきグウェーブのおじちゃんが言ってた噂とは……」
「ハッ! 要するに、”バリルガスが鉱石を掘りすぎて神の怒りを買った””バリルガスが地獄の界壁を破った””バリルガスが魔族を呼び込んだ”って言ってんのよ、町の連中はな!」
「そんなわけ――」
神の怒りも地獄の存在もカナメは信じられない。
だが魔族は、いる。
「そうだ! 俺もグウェーブもそんな噂は信じちゃいねえ! あいつがトロッコを作ったおかげでどいつもこいつもいい生活してやがんのになあ! 知ってるか、トロッコができてからはこの町の生産量は町のすぐ近くで鉱石がとれていた頃の水準に戻ったのよ! ――それに、そうだったとしても……子供のエトナには関係ねえじゃねえか……」
「…………」
「俺とバリルガス、グウェーブは親友だった。聖王様の槍は俺達三人共同で打った傑作よ! ……バリルガスの嫁はエトナが生まれてすぐ死んじまったから、俺とグウェーブでエトナを育てることにした」
昔話を思い出して少年の様な目をしたかと思うと、すぐにノーゲルは現実に戻ってきた。
「父親と父親じゃあ、喧嘩しちまうから、今よりもっと小せえエトナを抱っこしてよ、泣かなかった方が父親になることにしたのよ」
「……あの時、死んだのがアイツじゃあなくて俺だったらなぁ……」
「……ッ! ばかぁ!」
ぼそっとこぼした一言を聞き逃さずに、ユーミがノーゲルの頬に平手を打ち込む。
パチンと――
とはいかない。
頬に衝撃を受けたノーゲルは重そうな体躯を回転エネルギーに委ねて吹き飛び、傍に置いてあったタルを三つ破壊しながら転げ、民家の壁に衝突した。
幸い岩でできた民家の壁は頑丈で、崩れたりすることはなかった。
「ばかぁ! 誰が死んじゃっても、誰かは悲しむんだよ! だったらそんなこと言ってないで! 生きているおじちゃん達でエトナちゃんをもっともっと幸せにしてあげたらいいじゃない!」
(いやあ、そうなんだけど、ユーミちゃん! 力を加減して! 殺す気なの……)
「だ、大丈夫かおっちゃん!」
「ああ、効いたよ。ちぃとばかり、頭をよぎっただけだ……もう今ので飛んでったよ」
ノーゲルは言いながら、少し笑う。
立ち上がろうと手を付き足に力を入れるが、膝に力が入らない様子で何度も小鹿のように足を震わせていた。
(大丈夫か、記憶も飛んでってないか?)
せっかく昨日死の淵から生還した人間に、再度治癒の魔法を発動させようか迷っていると。
「あの虫の親玉を、はったおしちゃおう!」
ユーミは両手で拳を握り、ドワーフを鼓舞する。
ふっ、と笑いながら。
決意をしたのだろう、彼は穏やかな表情だ。
「はは、そうだな嬢ちゃん、もう弱気は言わねえ。バリルガスの仇を討って汚名を払い、エトナが友達をたくさん作れるようにしてやろうじゃあねえか!」
今も立ち上がれずにプルプルと膝を振動させながら、四つん這い状態になっているノーゲルは力強く、そう決意を表明したのだった。




