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攻める

 目を覚ますと、目が合う。


 少しくせ毛の髪を垂らしてカナメの顔をのぞき込んでいた、女の子。


「ユーミ」


「カナメぇぇ、よかったぁ……」


 声を掛けるとそう言ってずびずびと鼻を鳴らして安堵の声を漏らす。


「ちゃんと毎回、起きてるだろ。今回は怪我もしてないし」


「だって……」


「おお、目が覚めたかい、あんちゃん」


 心配そうに声を掛けながらグウェーブが近寄ってきた。


「あはは、いつも倒れるんだよな、僕ったら。どのくらい気を失ってたんだ?」


 右手で後頭部を搔きながら、笑う。


「昨日からだ。しかし、危ねえところを、ノーゲルを助けてくれて本当にありがとうよ」


 ユーミの顔を見て安心していたが、前腕の鎌を受けて切り裂かれるドワーフを思い出す。


「まあ、お互い様だよ。そういえば町に連れてきてくれてありがとうな……それで、あのおけらは一体何なんだ?」


「ありゃあ、『キマイラ』だ」


(うーん、僕の知ってるキマイラと全然違うな……)


「いつもあんなのと戦ってるのか? おっちゃん達は」


 ドワーフたちはあれが襲い掛かってくるのを知っていた。

 初めての遭遇、ではないはずだ。


「昔からってわけじゃねえ。あれが出てくるようになったのは。町ではいろいろな噂になっとる。”鉱石を獲りすぎて神の怒りを買った”だとか、”穴を掘りすぎて地獄の界壁に穴を開けちまった”だとかな……」


「そんなことが、いや、”神”なんて……」


 神なんて、いないだろう。

 そう言いかけて、考える。


(神は、本当にいないのか? 絵本でも、この世界の宗教でも神はいたとされている……どちらにせよ――)


 あまり人前で神はいないと断じても、余計なトラブルになる可能性があるだろうと結論付ける。


「ま、本命は、”武器を作らせないように魔族が虫ケラを使って俺達の町を潰しに来た”って噂だな」


「魔族、ですか!」


 ラスターははっきりとその顔に恐怖の色を浮かべる。



 ――魔族。


 いつかまた魔族と対峙する時が来るとは思っていたが、今がその時なのだろうか。


「助けてもらってなんだがよ、早くこの町を去れ。俺たちの町が滅んでもすぐに世界がどうこうってことはねえだろ、お前らは若い、長生きをしろ」


 危険だから、早く逃げろとグウェーブは言う。

 カナメとユーミは向かい合って、少し笑いながら頷いた。


「なぁ、おっちゃん。僕たちが手伝うよ、原因を突き止めて、町を守ろう」


 踵を返して部屋を出ようとしていたグウェーブは驚いて振り向く。


「何を言っとる……確かにお前さん達はなかなかに強いが、この町を助ける義理なんてねえだろうが」


「トロッコに乗せてくれたから! 楽しかったよ!」


 ユーミはにっこりとしながら受け取った義理があるという。


「ええ、あんな洞窟はもしも歩いたとしたら、それは何日もかかっていたことでしょう」


 ラスターは歩かなくて済んだのがありがたいという。


「僕たちは世界を救うのが目的だから、魔族が悪さしてるならどっちにしろ止めないといけないんだよ」


 カナメは目的のついでだから、町を守るという。


「ソウデス」


 カルブはそうです、という。


「世界を救うだって? こういっちゃあなんだが、お前さん達……頭がおかしいんだな?」


 グウェーブは完全に訝しんだ表情でこの少年たちを見る。


「余計なお世話だよ。僕だって本当はゆったり暮らしたかったんだからな?」


「カナメはすごいんだから! 死霊の魔族に、ゴブリンの王様、大っっきなミイラ! たくさんの敵を倒してきたんだよ!」


 そういわれて数々の死闘を思い出す。


 ――背中を切られながらスクロールを複写して(一度は失敗もしている)死霊の魔族を倒した。

 ユーミがスクロールを使っている。


 ――周りの敵は皆が倒してくれて、思い付きでスクロールを描いてゴブリンキングを倒した。

 ユーミがスクロールを使っている。


 ――なんだか弱った小さめのミイラに短剣を刺して倒した。

(これは、ユーミがほぼ聖なる雨で弱らせたんだ……)


「……あ、ごめんユーミ。あんまり僕が倒したことにしないでくれる? そうやって噂に尾ひれがつくのって多分よくないよ?」


 それに、カナメは一人では戦うこともできない。


「いや、助太刀してくれるってのはありがたい話だが、昨日の様を見たよな?」


 昨日の、様。


 どこから襲ってくるかわからない虫けら。

 俊敏な動きは力任せの物理攻撃を得意とするドワーフと相性が悪い。


「かれこれ二年ほどはこんな状況が続いてらぁ。ドワーフは頑丈だが、あれが襲ってくるたびに数人でかかる。そいでやっと一匹を仕留めるんだ。何人も死んだよ」


「――もうこの町には戦士がいねえのさ」


 声のする方を見るとノーゲルが歩いてきていた。


「俺もグウェーブも、戦士じゃあねえんだ。本職は鍛冶だ。戦士は皆やられちまったよ。昨日は本当にありがとうな、傷跡は残ってるが、すっかり塞がってる」


 上着を捲り上げ、傷跡を見せてくる。


「元来、腕力と体力が自慢の種族だが、戦うってのは本当は、もっと戦術や技術がいるんだろうな」


 グウェーブはそう語り、どこか遠い目をする。


(戦い方を知らないが腕力自慢のドワーフ、僕たちと、鍛冶。それで町を守るには……)


「とうちゃん!」


 町を守る方法を考えていると、入り口から小さなドワーフの女の子が駆け寄ってくる。


「おお、エトナ。お客さんがいるだろ?」


 どうやらグウェーブの娘らしい。

 エトナという名前の女の子は元気に挨拶をしてくれる。


「よう!」


「エトナ、『よう』じゃあねえ。『こんにちは』、だろうが」


「こんにちよう」


 上手く挨拶ができないようだ。

 エトナは体のわりに重そうな金槌を持っている。女の子とはいえ、やはり能力値は腕力、それに体力に振ってあるのだろう。


「かわいいっ!」


 ユーミは自分の膝丈ほどの身長、前歯が少し足りていない女の子を撫でながらにこにこしている。


「なんだぁ、きょじんのおんなか?」


「こら、エトナ。ヒューマンの女の子だ。それに凄く強いんだぞ?」


「ひゅーまん! おおきいねえ」


「すまねえな、嬢ちゃん。エトナは今までヒューマン族を見たことがねえんだ。それに周りはこんな男ばっかりで口の利き方が、な?」


「ううんっ! 可愛いじゃない! 大丈夫だよ!?」


 するとエトナは種族の性か、ずっと突っ立っているカルブの存在に気付く。


「なんじゃあ、こりゃあ!」


「エトナッ! 『まぁなんでしょう、これは』だろう!」


 父の言葉など全く聞こえないようでエトナは目の前のものに興味津々だ。


「おまえさん、名は?」


 一向に子供らしい言葉遣いにならないエトナを見て目を覆うグウェーブ。


「カルブっていうんだよ」


 ユーミはにこにことしながらその物体の名を教えてあげる。


「へえー かるぶ。おらぁ、エトナだ」


「ハロー …トナ」


「しゃべれるんかい!?」


「ソウデス」


「きゃはははははは」


 父は残念そうにしているが、今まで出会ったドワーフを見る限り、真っ当に成長しているようにしか見えない。


「なぁ、あそぼうじゃねえか」


「…………」


 カルブはドワーフの女の子に遊びに誘われて困惑しながらカナメに顔を向ける。


「いいじゃないか、カルブ。少し遊んできてやれよ」


「悪ぃな、あんちゃん。おい、エトナ。あんまり遠くまで行くなよ!」


「あたぼーよ!」


「『はい、わかりました』だろうが!」


 きゃはははは、と笑いながら駆けて家を出ていく女の子とカルブ。


「すまねえな、お前さん達。騒がしくしちまった」


「いや、元気でいいじゃないか。おっちゃん達に、そっくりだったよ」


「そっくり……か」


 グウェーブはまたしても遠い目をする。


「しかし、この町を守るっての、ちょっと考えているんだけど……」


「難しい……か」


 少し気落ちするように椅子に腰を掛け、両膝の辺りで手を組んで俯くドワーフにラスターが声を掛ける。



「――グウェーブさん。守るのではなく”攻める”というのはどうでしょうか」



 今までずっと考え込んでいたようだ。

 雨を降らせてひとつの町を救った賢い少年には、何か勝算があるのだろうか――。

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