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おけらだって

「だらしねえ男どもだの、ほれ、町だぞ」


 ユーミにお姫様抱っこされたカナメと、カルブに襟首を持って引きずられたラスターは、屈強なドワーフの蔑みに何も言い返せない。


 げんなりとやつれた顔でドワーフが顎でしゃくった方を見ると、今までの洞窟より天井が高くドーム状にくりぬかれ、岩肌を水平にさらに削って作られた居住区がある。

 いくつもある家は赤茶色、岩の素材を生かした造り。

 太陽は届かないが、そこかしこで炎が上がっていて明るくなっており、集落の規模は大きい。――ドワーフの町だ。


 よく聞けばたまに、カンカンと鉄を叩くような音が聞こえてくる。


「なんだ? 早いな、グウェーブ」


「ああ、洞窟の奥で変なのを拾ってな、軟弱な人間と別嬪な嬢ちゃん――ちぃと背が高すぎるが。それに見ろ、動く鎧じゃあ」


 町の門番だろうか、これまた見るからにドワーフといった風体の男が話しかけてくる。


「動く鎧? ……なんじゃあっ? こりゃあ!」


 ラスターを引きずっているカルブを見るやいなや、手に持った槍をほっぽり出して駆け寄ってくる。


「ハロー」


「喋るんか!?」


「ソウデス」


「むうう…なんちゅう技術……動力は? 関節はどういう造りじゃい! なんとまあ滑らかに動く……」


「たまげたもんじゃろが!」


 なぜかグウェーブが自慢げに門番に見せつける。


「ちょっとおじさん! カルブはわたしたちの仲間なんだよ!」


 ユーミが不躾なドワーフたちにムスッとした顔で注意する。


「仲間……? ああ、こいつはすまなかった、お嬢ちゃん。それにカルブといったか? 失礼しちまったようだな」


「ソウデス」


「この、カルブとかいうのは君達が作ったんかい?」


「いえ、彼はどういうわけか急に空から降りてきて、どういうわけか僕たちを助けてくれるようになったんですよ」


 ラスターが敬意を説明すると、その肩から下げる”銃”が目に入ったようだ。


「なんじゃあ! そりゃあ!」


(だめだ、埒があかねえ! ドワーフにエンカウントする度にこのイベントが起きるのか!?)


 カナメが酔いとドワーフイベントにげんなりしていると――。



 <ごごごごごごご――>



「お、地震か……――」



「――ッ来るぞぉぉぉぉ!」



 門番が野太い大声を上げると、町の上段のほうでガンガンと激しく鐘を打ち鳴らす音が鳴り響く。


 カナメ達は驚いて辺りを見回すと、


「グウェーブ、戦えるか!」


「あたぼうッ! おい、お前さん達! 隠れとけ!」


 町の方から屈強で小柄なドワーフたちがこちらへ駆け降りてくる。

 彼らは誰もが鎧兜にそれぞれ武器を持っている。

 斧、剣、槍。

 どれもが不思議な光沢を放っており、かなりの業物に見えた。



 <ごごごごごごごごごごごご……>


 一段と振動、地鳴りは大きくなる。


「どこから出るッ!?」


「知るかッ! 地底の虫けらなんぞを手懐けおって!」


「なぁ、おっちゃん! 何が来るってんだ!?」


「いいから隠れとけっ! 町の岩壁は強固である程度は安心できる、避難するんじゃい!」



 と――。



 門番のドワーフが身構えるすぐ横から岩肌が裂け、褐色の鎌のような、鋸のような何かが空気を切り裂き襲い掛かる。


「おいッ! 大事ないかノーゲル!」


 ノーゲルと呼ばれた門番のドワーフは鎌の攻撃を槍で受け止めたが、木でできた持ち手はへしおられ、胸の辺りをざっくりと袈裟切りにされていた。


「鉄にゃあ自信があったが、木の柄じゃあ止めれねえか……」


 血をまき散らしながらノーゲルは倒れる。


「おのれぇいッ! 虫けらめがッ」


 グウェーブが斧を力任せに振りかざすが、俊敏な動きで躱される。


 虫けらは、土中を掘り進むために特化しただろう前腕を人を切り裂くにも上手く流用したようだ。、

 体高は大人の人間ほど。岩にも負けないような外骨格に流線型の頭とつぶらな瞳、ただし腹より後ろはライオンの様な哺乳類の姿をしていてごく短い体毛に覆われている。

 前半分ばかりが頑丈に発達した姿は”螻蛄(おけら)”によく似ている。


 前世の”おけら”はどこか愛嬌があったが、この世界の螻蛄(おけら)はかなり悍ましい姿だ。


「おじさんっ!」


 ユーミが飛び出し鋼鉄の杖を振りかぶる。

 螻蛄はしかし躱すことはせず、頑丈な前腕で容易に受け止めた。外骨格にはヒビが入ったように見えるが、それ以上の手応えは感じられない。


「ユーミさん! 退いてください!」


 ラスターの声を受け、前腕の攻撃を躱しざま、後ろに飛び退く。


「このぉっ!」


 銃を構えて狙いを定めたラスターは頑丈には見えない螻蛄のどてっ腹を狙い撃鉄を打つが、

思いのほか俊敏に反応され致命傷とはならず、背中側の外骨格を一枚吹き飛ばしただけに終わった。


 ――だが、螻蛄が逃げた方向ではカルブが右手を向けて構えていた。


「ロ、ロ、ロケット、パンツ」


 言語回路が故障しているためどこか間抜けな技を放つと、砂や小石を盛大に吹き飛ばすほどの風圧と、地を鳴らすほどの衝撃を以て螻蛄を外骨格ごと、穿つ。


 頭から尻まで大穴を開けられた虫けらは、茶色の液体をまき散らしながら沈み込んだ。

 残骸は消滅せず、びりゃりと音を立てて魔石は残らない。


 カルブはカチャカチャ金属音を立てながら、飛ばした腕を拾いに行く。


(魔石が落ちないってことは、モンスターじゃ、ないのか? なんなんだこいつは……)


 戦闘に参加せず、明り取りの役目をしていたカナメは、重症に見えるノーゲルのもとへ駆けよる。


「おい、ドワーフのおっちゃん、息はあるか?」


「……かふっ」


 口から血を吐き虚ろな目をしながらも、必死に呼吸をしている。


「息はある、なら! ユーミ、魔力はあるか!?」


「なくたって、助けたいよ!」


「おし、”少女を導く(魔女っ娘)奇跡の敏腕(プロデュース)”!」


 ユーミの目の前に、大量の文字が書かれた光のスクロールを出現させる。

 ドワーフたちは異世界の文字の意味を理解することはできない。


(ドワーフの体の構造なんて知らないが、魔力で何とか埋め合わせする……)



「えんたああああああああああ!」



 画面の中央、ユーミは目の前に現れたEnterキーに想いと魔力を込める。


 少し緑がかった、光の柱が倒れたノーゲルを包み込んで――。



「…………が、は、げほっ、はぁ、はぁ」



 どうにかノーゲルが息を吹き返したのを確認するとユーミはへたり込み、カナメは意識を手放して、そのままばったりと倒れ込んだ――。

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