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フィジカル

「――じょうぶ?」




「……大丈夫?」


 目を覚ますと、目を覚ましたかどうかわからないくらいの真っ暗闇。


「カナメ、大丈夫?」


 声を掛けてくれた少女は、仰向けに寝ているカナメをのぞき込むようにして声を掛けていた。


(あ、いい匂い)


 カナメは少女の髪の毛の匂いを肺の細胞いっぱいまで吸い込んでから、気が付いたふりをする。


「おいっ、みんな無事か!?」


「いてて……ここは砂漠の、地下なのでしょうか……」


「ソウデス」


 三人と一体はそれぞれ無事のようだった。

 落下の際に一緒に落ちてきた砂の山がクッションになって、ぎりぎり全身打撲程度で済んだようだ。

 暗くてわからないがカルブはどうせY字にビシッと着地を決めていることだろう。


「……光が届かないってことは、きっと脱出に苦労するんだろうな……」


 暗がりでは、光の精霊が頼りになる。


「なぁ、悪いんだけど、また助けてくれないか?」


(        )


 ふわりと光る綿毛のような精霊が短剣から舞い出て、周囲を照らしてくれる。


「ありがとな」


「魔力なしで光や水を発現できる……精霊の力はとても強力ですね……」


 これ程までに精霊が健気に援助してくれる力はきっと精霊王が授けてくれたという”精霊王の加護”なのだろう。


(あのアホ女が聖女様さえ認める精霊王なんて、本当なのかねえ……)


「ね、カナメ? この精霊さんはなんて名前なの?」


「んー? 名前? どうなんだ?」


(        )


「そんなもんはないってさ」


「えー! 名前をつけてあげなよぅ! 可哀そう!」


「後でいいだろ、今はここから脱出しないと。いつ砂が落ちてきて生き埋めになるかわからないんだ」


 自分でそう言って、脱出経路はあるのかと疑問に思う。


「そうだ、進むしかない。よく見りゃ、壁は砂じゃなく岩肌。どこに通じてるかわからないけど、一方通行みたいだ」


 精霊の力を借りて周囲を照らしながら、目的地もわからずに続く道をただただ歩く。


「カナメさん。僕はこの洞窟がゴライアスサンドワームの巣窟とは思えません」


 たしかに、あのぬっとりしたミミズがこの岩盤を掘り進んできたとは考えにくい。

 つま先で壁を蹴るとかなりの強度と密度がありそうな音がする。


「この岩盤の一層上が砂地なのでしょうか……」


「うーん、そんな気はするけどな、だったらこの洞窟は何だってんだ……?」


 ラスターは顎に手を添えて考え込む。


「まあ、ラスター、今は歩こう。考え込んでもしかたない」


 一行は進み、どのくらい時間が経ったか。

 徐々に会話は減り、不安から少しばかりのいら立ちも感じ始めてきた。


「そろそろ休もうか。ここには昼も夜もない、正直どうしていいかわからん」


 疲弊していた少年少女もこれには反対する要素がない。


「食料と水はどのくらいありますか?」


 問われてクソデカリュックをのぞき込む。

携帯食料はあと三食か四食分。水は精霊君が作ってくれれば、心配はない。


(精霊君たち、すごく有能だ……これはチート能力と言っていいんじゃないか!)


 殺傷力や戦闘力については疑問があるが、長旅で水を出せる水の精霊はかなり強力だ。

 尤も、飲めるのかはまだ不明だが。


「食料は、まあ、一日持つかどうかだな。水はどうにかなりそうだが、まっ、ない物ねだりしてもしょうが――」


「ね、カナメ! 向こうに明かりが――動いてるよ!?」


 ユーミの声につられて洞窟の先、明かりが動いているという方をみる。


――たしかに、松明の様な炎。それがゆらゆらとこちらに向かってきている。

 光の精霊の照明を少し弱め、固唾をのむ。




「なんじゃあ、おめえら?」



 ガラガラ声。

 敵意の有無は不明だが、明かりに使う松明の様なものを持って近づいてきたそれは人の姿だった。


 ガッチリとした骨格、筋肉。

 その割に背が低く、赤茶けた顎髭は長く、三つ編みにしてある。髪の色は重厚な兜のせいで見えないが、恐らく髭と同じ色だろう。

 左手に松明、右手に重厚な斧を携えていた。



(……ドワーフだ!)


「ハロー」


「ああん? あ? なんじゃあこいつ!」


 取り合えず機械的に挨拶をしたカルブを見てドワーフのおじさんは驚いた顔をしていた。


「なんじゃこりゃあ……どうやって動いとる! 外装は新しい金属と、見たこともねえ古い金属……」


「カルブだよ?」


 おじさんは名前を教えてあげたユーミの方を見ると、今度はその隣にいた少年に注目する。


「なんじゃあそりゃあ!」


 どすどすと歩いてきて、ラスターの”銃”に興味津々のようだ、舐るように見回す。


「こりゃまた……弩かあ? いや、火薬の匂いだな。爆薬を使うのか……?」


「なぁ、おっちゃんはドワーフか?」


 何となく口調や仕草から敵意がないと踏んだカナメは彼に話しかける。


「お? おお……。こりゃあ、失礼したな。おれは『グウェーブ』、ごらんのとおり通りドワーフだ」


「ハロー …ウェーブ」


「僕はカナメ、砂漠から落っこちてきちまったんだけど、もしかしてドワーフの町があるのか?」


 カナメは長旅には心許ない食料を案じて町が存在することに期待する。グウェーブは大した荷物も持っていないから、ふらっと出かけてきただけのように見えた。


「ああ、あることはあるが大した娯楽はねえぞ? 炭鉱の町、鍛冶の町だ」


「よかった! よそ者は受け付けない、なんてことないよな?」


「んなこたぁ、ないが。それよりもお前さんらの持つソレ。おれ達ドワーフはそういったもんに目がねえから、モテモテだぞ? そりゃどうやって動いとる?」


(こんなおっさんばっかりにもててもなぁ……)


「僕達、砂漠の流砂に呑まれて落ちてきてしまったんです。町へ連れて行ってくれませんか?」


「ああ、構わねえが。肩にかけとるソレは弩か? なかなか精巧に作られてるが、お前さんが作ったのか?」


「ええ、ですがこれは門外不出でして――」


「まあまあ、おっちゃん! とにかく町へ連れて行ってくれよ!」


「お、おお……ほんなら、着いてこい。こっちじゃい」


 親切なドワーフに案内をされてしばらく進む。

 道中もグウェーブは銃や、カルブに興味津々で質問攻め。ユーミはどんな食べものがあるか執拗に質問をしていてまるで会話にならなかった。


「こいつじゃ、乗れ」


 行きついた先は、四畳半ほどの大きさで恐らく木製の、箱。車輪がついていてその先にはレールが敷いてある。


「トロッコですか! 動力は何なのでしょう!」


 今度はラスターが興味津々でトロッコを調べまわす。


「動力は、魔石を使っとる。車輪と、軌条にな。金になるが、盗もうなんて思うなよ?」


 ドワーフはそう言ってたくましい腕と斧を見せ、トロッコの枠をガンガンと小突く。

 盗もうとすればぶち殺すぞ、と言っているようだ。


「すごい! 楽しそう!」


 ユーミは単純に乗り心地が気になっているようだ。


「言うちゃ悪いが、町はかなり遠くてな? 揺れるし椅子もねえ。こりゃあ鉱石を運ぶためのもんだ。乗り心地は保証できん」


 この洞窟はドワーフが掘り進めてきたのだろうか。

ちょっとしたアトラクション気分でトロッコに乗り込む。


「ほんじゃ、捕まっとれ」


 グウェーブは前方に乗り込み、左手に舵輪の様なものに、右手でレバーの様なものを操作する。

 ゆっくり、ゆっくりと走り出す。


「おお、すごいな。陸でもいい移動方法になるんじゃないか!」


「馬鹿言え、小僧。魔石を使うとるといっただろう。いくらすると思っとるんじゃい」


(ああ、コストがかかるし、盗賊まがいに盗まれるかもってことか)


 ゆっくり、人が歩くほどの速度で進む。


「結構、揺れますねえ」


 ゆっくり、人が走るほどの速度で進む。


「あ、僕、ちょっと酔ったかも」


 ゆっくり、馬が走るほどの速度で進む。


「速い! 楽しいねえ」


「お! 嬢ちゃんはいけるクチかい」


 ゆっくり、この世界の駿馬ほどの速度で進む。


「ちょ、ちょ、おっちゃん! だめ…うぷ……」


 カナメはガタガタ揺れる車体にいつしか激酔いしていた。


 ゆっくり、最高速度で進む。


「ね……おっちゃん――らめええええええっ!」


 申し訳程度の様な車輪は衝撃を殺すことなど無関心。子供用の車のおもちゃで高速道路を走っているようだった。


 目的地に着いたときにはカナメとラスターは胃がカラになっていた。

 キャッキャと嬉しそうにトロッコから降りてきたフィジカルモンスター、ユーミに水を手渡され、蒼顔の二人はへたり込んで動けずにいた。

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