遺跡の宝石
「どんだけいるんだ、こいつら!」
遺跡の奥に進んで行くと再びアンデッド系のモンスターの群れに遭遇した。
「もう疲れたよぅっ!」
そう言いながらもキレのある動きでスケルトンを打ち倒していく魔術師。しばらく打撃攻撃をしていたカルブは魔石を食べると再度、目から光線を出して攻撃する。
(やっぱり魔石が動力源みたいだな、不思議な奴……)
しばらく同じようにモンスターを倒しながら進んで、どのくらいたっただろうか。突き当りに重厚で荘厳な両開きの扉の様なものが見えてくる。
「扉だ。この遺跡の最深部、かな?」
「恐らく、門番を信用して遺跡の内部まで罠を張ってはいなかったのではないでしょうか? 不死系のモンスターは自然に発生したか、屍に取り憑いたのでしょう」
「わくわくするね!」
「さて、奥には何が待ってるんだろうな?」
そう言ってカナメは重い扉を押して部屋に入る。
意を決して入ってみれば、何てことはない。がらんどうの、大部屋だ。
――今のところは。
大広間、あるいは玉座。といった部屋の奥に台座がある。それに、棺。
棺の奥にはさらに真っ暗な通路が続いている。
「まあ、気味が悪いっちゃあ、悪いな」
カナメが感想を言っていると、ラスターは奥の台座が気になるようだ。
まるで水の都。
ただし、水路があっても水がない。水が流れていたらさぞ美しいのだろう。そういったオブジェにも、もちろん水はない。
奥の棺は蓋が開け放たれていた。
さながらその棺の中から“マミー”が抜け出してしまったように。
「カナメさん……この台座の宝石……」
「ああ、絶対に取るな。絶対に何か良くないことが起きる」
転生者たるカナメは本能で知っている。それが何かを引き起こすスイッチだという事くらいは。
それでも、台詞の途中でラスターの手元から『きゅぽん』と子気味のいい音が聞こえていた。
「いえ、カナメさん。もう、取ってしまいました……僕が欲しかったのはこんなエレメンタル素材なんですッ!」
「ああ、なるほどね……」
そうこうしているうちに遺跡は徐々に振動をはじめ、天井からパラパラと砂や埃が舞い落ちてくる。
「このバカ野郎!」
カナメは恐れていた事、想像していたことを自信をもって告げる。
「こういう時は十中八九……遺跡が崩れるんだよおおおおおっ!」
フラグか。言霊か。実際に遺跡の揺れは激しくなり、今来た道の天井は崩れ始めて床に落ちては瓦礫へと変わっていった。
「す、すみません……ッ!」
「誰が許すかっ! 奥の通路だ、お前ら、走れえええ!」
全速力で棺の奥の真っ暗な通路へと走り出す冒険者の一行。
だが、一番走力のないのは結局――。
「カナメッ! 早く……早くっ!」
ユーミが自身の速度を落としカナメと手を繋ごうとしてくる。
「はっ はっ はっ……む、むりい」
(いつもいつも、なぜこんなにも全力疾走しなきゃならないんだ!)
痛むわき腹を抑えながらカナメは思った。こんなに一生懸命無様に走ってばかりの転生者が過去、いただろうかと。
これまでもカナメはそうだった。無様に、みっともなく。みじめに。とりあえず走るのだ。
今回もそうかといえば、しかし少しばかり違っていた。
( )
「ああ……? なんだぁ? だれだ!?」
( )
「ああ、そうか。なら……助けてくれよっ!」
( !)
突如、背後から水が押し寄せた。
砂漠では水は非常に貴重な存在とはいえ、背後のそれは濁流だ。これはこれで――。
「死ぬうぅぅぅぅ!」
押し寄せる濁流によって、通路を流される一同。水圧というのはかなりの力がある。呼吸、というルーティンに目を瞑れば、とっておきの移動手段になるだろう。
しかし、流されていった通路の奥は行き止まり。
カナメはカルブの方を向いて、どうにかしろと行き止まりの方を指さす。どうやら意図は伝わって、右手を構えてそれを射出し破壊した。
遺跡の通路から水流で押し出された一同は砂と水を巻き上げて即席の出口から飛び出す。
水圧とカルブの一撃がなければ遺跡の瓦礫で圧死か、さもなくば溺死、本当に全滅していたかもしれない。
間一髪、遺跡から逃れ、水を吐き出し空気を吸い込む。
――生きている。
「がぼっ……ごばっ!」
咳込みながらもカナメはまず、仲間の数を数える。
「ユーミ、ラスター、カルブ……荷物。オッケー!」
皆、咳き込んではいるが、命がある。
「ごほっ……す、すごい水の量! 死ぬかと思いました! 一体何をしたのです? カナメさん!!」
「カナメ……こほっ、誰と話していたの?」
「わからない……だが――おい、カルブ! 着地は満点だけど今は不謹慎だぞ!」
ひとまずビシッとポーズを決めるカルブに注意する。
こんな時は空気を読んで、げほ、とかごほ、とか言うものだ。
「何となく、光の精霊君と話すのに似た……感覚だった。つまり、光の精霊君じゃない……」
「この町の伝承に照らし合わせると」
「水の、精霊さん……?」
「ああ。直後に食らった鉄砲水、水の精霊君が助けてくれたんなら、まあ辻褄が合うなあ」
「カナメすごい!」
「まあ、ユーミ。それは後で褒めまくってくれればいいよ」
カナメはびしょ濡れのまま、水が滴る指先を町の方へ向ける。
「――――今は、“アレ”をどうするかが先決……だ!」
指さす方に視線を向ければ、世界樹ほどの背丈はないにしろ巨人のように大きいミイラが雄たけびを上げている。
「オオオオオオオオ」
それは確かに、町の方へ向かって歩いていた。
遺跡の内部は砂漠の下を町のある方角へと延びていて、破壊した通路は町からそう遠くはない場所だった。
「…………ッ!!」
「あれは、あんなものが人の身で何とかなるものなのでしょうか……」
ラスターはどこか、現実ではないような物言いだ。
精霊がカナメに語り掛けてくる。
( )
「ああ、そういうことね」
( )
「なるほどなるほど」
「カナメさん! 町が! どうすれば……精霊は何て言っているんですかッ!」
我に返ったラスターはたまらず大声を出した。
町には、人が――マーシュがいる。
「要するに、この遺跡は封印されていたミイラへの給水施設で……だけどミイラの化け物が渇いて乾いて、水の精霊君がどれだけ水を飲ませても間に合わねえんだとよ! だから大地に水を流せない、ってな。町には少しばかり水があるだろ。 それにミイラにとっては水分なら何でも一緒で……知っているかラスター? 人間のほとんどは水でできてんだとよ!」
「つまり、あれに絶えず水を与え続けなければ、水分を欲して近場の水分――町の水を、人を際限なく襲う……そういうことですね!? 人間の……“欲望”みたいに」
「言ってる場合かよ! あのミイラをなんとかしてぶっ飛ばす! みんな、協力してくれ!」
「……!」「おうけい!」「…ソウデス」
辺りは太陽が沈みかけ、夕焼けがきれいだ。
「幸いアイツ……動きは速くない。だけど、とにかく……、走れええええええ!」
早朝に移動を開始して今は砂漠の美しい夕焼けが見える。もういくらか時間が経てば太陽は完全に隠れ、真っ暗になるだろう。
カナメの一行はとにかく、巨大なミイラに向け、走る――。




