三人と一体
空から降ってきたそれは人間ではなかった。モンスターでもない。
どう見ても年代物の金属、それと比較的綺麗な金属とのつぎはぎで作られたボディに、頭部はどこか間抜けな面構え。身体の大きさは人間の腰の高さほどと控えめだ。
そして体操競技の着地の様な姿勢をしている。
それなら満点だ。
「ジャジャーン」
自身の登場の効果音を自身で放つ。
「…………」
一同は何が起きたかわからず、一時沈黙する。
しかし遺跡を守る門番は誰であろうと侵入を許さない姿勢だ。その場の新参者に照準を変え、再度突進する。
「ロ、ロ、ロケット、パンツ」
新参者は間抜けな機械音でそう言うと右手にあたる部分を門番に向け、すさまじい衝撃を放ちながら、切り離した。
射出された、人間で言うところの前腕はいとも簡単に赤熱した門番の体の中心に穴をあけた。
(す、すごい攻撃力! それに……見た目は少しアレだけど完全に、『ロボット』だ!)
剣と魔法の世界でロボットに巡り合えるとは思わず、敵か味方かもわからないままカナメは少しだけ興奮をした。
門番は体の急所を撃ち抜かれたようで完全に沈黙。砂漠のゴーレムと同じく、体が崩れはしたものの消滅はしない。ばらばらになった体から転げ落ちた、大きな魔石が怪しく光る。
強力な一撃を放ったそのロボットは右手を拾いにカチャカチャと音を立てて、どこか滑稽な格好で走っていた。
再度走ってラスター達の前に戻ってくると、
「ジャ……」
一瞬着地の際と同様ののポーズをとり、何か言いかけたが今度は門番の残骸の方へと走っていき、大きな魔石を拾ったかと思うと、それを自らの口に放り込んだ。
(魔石を……食っている! 魔石が動力、なのか? それとも好物なのか?)
そうして再び三人のもとへ戻ってくると、満点の着地姿勢で、言う。
「ジャジャーン」
「なんだ……これ?」
自分たちを救ってくれた何かに向かって素直に疑問を口に出すカナメ。
「ゴーレムの一種でしょうか? 正体不明ですが、色々な装置の集合体……自ら複雑に動いて、自ら声を出す。素材は見たことありませんが、新しい物もあればかなり古い物もある……今の技術ではこんなもの作れませんよ!」
ラスターは発明家として、このロボットがとても興味深いのだろう。それにまだ、この世界に機械という言葉は浸透していないようだ。
「魔力じゃないけど、魔力に似たすごい力を感じるよ? だけどたぶん、魔術で動いているのとは違うと思う」
(似たような事どっかで言ってたな? まあ、それは置いといて)
「やあ、君は……あー、なんだい? ロボット……ですか? 僕はカナメといいます」
コミカルな容姿とは裏腹の、先の強烈な攻撃を思い出して何となく敬語になってしまいつつ質問をする。
「ハロー …ナメ」
「おっ、話ができるぞ!」
「すごい! 賢いんだねえ。わたしはユーミだよ」
先ほどの灼熱の魔術と砂漠の暑さで、大量に汗をかいているユーミ。
外套の下の衣服がへばりついて鎖骨の辺りは肌が透けている。カナメはそれを見逃さない。
「ハロー …ユーミ様」
「なんでユーミは『様』付けなんだよ」
「僕はラスターです。君は一体どこからやってきたのです? いつ、どこで、誰に作られたのですか??」
「ハロー …スター ソレハ オコタエスルコトガデキマセンガ アナタタチヲ ホジョ スルヨウメイジラレテイマス マタ オオキナ……『テリ』 ニ ショウトツシ ゲンゴカイロ ガ イチブハソンシテイマス」
発声や抑揚はあまり褒められたものではなかったが、片言で話す内容はそう聞きとれた。
「大きな……『鳥』か? それにぶつかって少し調子が悪いんだな。僕らの名前もなんか足りないし……まあ、いいか。よろしくな! 君、名前とかあるのか?」
「…マエハ アリマセン」
「可哀そうだねえ、名前を付けてあげようよ!」
「そうだな……名前がないと何かと不便だしな。うーん……【エリヤヘルム・ヤッフェ】なんてのはどうだ?」
「えー、長いし可愛くないよ」
「それでは……【類人機動装甲壱式 射出手腕型】がいいのでは?」
「えー、もっとダメ! 意味わかんないッ!」
「それじゃあ、ユーミがつけてやれよ」
「うぅ~ん、『カルブ』っていうのは、どうかなあ?」
「いいんじゃないですか! 意味は分かりませんけど。やあ、君は今日から『カルブ』だよ!」
「…ソウデス」
「なんだよ、そうです、って……」
(なんか変なのが仲間になったな。もしかして精霊王(笑)が寄こしたのか? ちょっと間抜けだったり鳥にぶつかっちまうようなところなんかもそれっぽい)
「……それはそうと、どうします?」
興味深くカルブを観察しながら、この後の行動についてラスターがカナメに仰ぐ。
遺跡に進むのか、と。
「うーん、戻るか、進むか。いったん戻って体勢を立て直す、ってのも有りだけど、門番の魔石はカルブが食っちまったけど、明日になったら別の個体が補充されてる、なんて可能性もなくはない。ユーミ、魔力はどうだ?」
「うん、結構消耗しちゃったけど、まだ大丈夫かな。少しすれば回復もすると思う。けど……また、熱い暑い思いをするのは嫌だよ……」
門番を倒す際にまた火炎の魔術を使わないといけない可能性も、また砂漠を歩くのも嫌だと言っている。
「……遺跡の中に入ろう」
カナメ、ユーミ、ラスター、カルブ。
三人と一体は遺跡の中へと進む。
ゆっくりと。
砂漠にある古めかしい遺跡の中を進んで行く。荷車は持っていけないからと、持ち物は厳選した。
遺跡の壁は鈍く青い色をしていて、煉瓦のように積まれている。入り口から少しの間は狭い通路と階段が続いたが、進むにつれて十分な広さが確保されていた。
内部ではカナメのイメージそのままに、“アンデッド”のモンスターが襲いかかって来た。
「――ひ、ひィッ!」
「えいっ!」
人体骨格そのものが武具を装備しているようなスケルトンや、包帯でぐるぐる巻きのミイラのモンスターは、ユーミのぶん回しの前では、無力だ。
それに加えて――。
左手からちょっとした銃弾、口からちょっとした火炎放射、目からちょっとした光線を出してモンスターを撃破するカルブは、かなりの戦力となっていた。
そうして魔石の前で立ち止まるり、三人の内誰かが「よし」と声を掛けると魔石を食べてから次の敵にむかう。
「カルブ、すごいっ!」
「ソウデス」
(だから、そうです、ってなんだよ! それに……やだ、僕ったら非力!)
一度は失敗したものの強力な武器を持っているラスターは、銃を打撃武器として扱い、スケルトンを打ち砕く。自己評価では非力と言っていたものの、しっかりと戦力として機能している。
カナメは、光の精霊で明り取りをして荷物を持つ役目。
聖剣も世界樹の枝も聖なる属性で魔よけになるというが、閉じられた空間の中にこれだけ敵がうじゃうじゃしていると意味をなさない。
モンスターの群れがひと段落するとラスターが声を掛ける。
「す、少し休みませんか?」
この連戦でユーミも疲れている様子だった。体力はまだ底に着かないとはいえ、この暗がりの中では確かに精神が摩耗してしまう。
「そうだな。この辺りで少し休もう。どこまで続くかわからない」
光の精霊に照らしてもらいながら腰かけ、休息をとる。
鞄から水筒を取り出してユーミへ手渡す。「ありがとう」といって美味しそうに水を飲んでいる様はピクニックでもしているようで、それを見ているとカナメの疲労も少しは和らいだ。
「それにしても……ユーミさんが魔術師なのはわかるのですが、カナメさん。あなたは一体、何者なんです?」
「ん? 僕? いや僕は普通のサラリーマ――じゃなくて冒険者だろ?」
「だろ? ……って、そうじゃありませんよ。あなたがさっきから使用しているのは魔術ですか?」
「いや、僕は魔力が全然ないんだってさ! だからユーミの魔力に頼りっきりなんだよ!」
笑い事のように――
実際笑えるのだからしょうがない、カナメは答える。
「魔力なしでこの光は説明がつきません!」
「これは、この子が助けてくれるんだよ」
そういって聖剣を取り出して光の精霊を呼び出す。
「信じられない、精霊が可視化できるなんて」
「ひょんなことから助けてくれるようになったんだよ。日頃の行いがいいのかね」
笑いながら言うが、ラスターは納得できていない様子だ。
「ひょんなことで精霊が懐いてくるなら苦労しません! 歴史上、精霊を使役したといわれるのはたったの数人で、この時代では一人しか確認されていませんよ!?」
「カナメはすごいんだよっ?」
「すごいのは知っているんですよ、それで驚いているんですから!」
ユーミの一言は頭がいいはずのラスターの脳内をかき回す。
「まあ、いいじゃないか、ラスター。遺跡はどのくらい続くかわからないんだ。ホレッ!」
ラスター用の水筒を放り投げる。
「しっかり休んでおけよ」
「うーん、腑に落ちません……」
ラスターもまた、乾いた喉に水を染み渡らせる。カルブは何も言わず、動かずじっとしている。感情はないのだろうか。
――しばらく休憩していると、不意に光の精霊がカナメに話しかけてきた。実際に声をだしているわけではないが、カナメの脳内にはそう知覚された。
( )
「ん……なんだ? なんて言っているんだ?」
( )
「水が……、水の……? 先、この…… ごめん、わからないな……ま、とりあえず先に進んでみるか」
カナメはよっこいしょと声をだして腰を上げ、尻をぱんぱんと払って埃をはらう。
「それではみなさん、行きましょうか」
「ああ、行こう。雨を降らせに」
「うんっ」




