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遺跡の門番

 少しでも暑い時間を回避するためラスターと二人は、早朝暗いうちに町を出発することにした。


「忘れ物はありませんね? 特に水。こればっかりは忘れたら阿呆です」


 そう言って、妙な荷車を引くのはラスター。謎の板を乗せて居て、車輪も謎の素材を使っている。


(もしかして、魔術を応用して太陽光パネルを補助動力にしているのか? それにタイヤ。ゴムではなさそうだけど、木の車輪じゃない。本当に天才だ、こいつ……。サスペンションでも教えてやろうかね?)


 バネを使って衝撃を緩和する話をすると、ラスターは大いに喜んだ。


「ね、カナメ。カナメはどうしてそんなにたくさんの事を知っているの?」

「うーん、特殊なところで生まれたから、としか言えないなぁ」

「へえー。髪の毛も珍しい色だし、東の果ての島の国カナ?」


(異世界転生してきました、とは言えないよなあ……それに言われてみれば僕以外の黒髪は他では見たことがまだない)


「そう言えば、あなた達は何者なんですか? どこを目指して旅をしているので?」


 ラスターに聞かれると返答につまる。まさか「異世界転生者と王女様の二人組です」とは言えずに何の変哲もなさそうな回答をした。


「ああ、僕らは冒険者だ。ちょっと世界を救いたくて、聖王様にとりあえず会いたいんだよ」

「ちょっと世界!? いと畏き聖王様へとりあえず? 変な人たちですねえ?」


 笑いはしないものの、「ちょっと何をいっているのかわからない」といった表情だ。


「冒険者というと、純鉄級、くらいはあるのでしょうか? あの魔術はとても強そうでした」

「ラスターくん、わたしたちはね、“隕鉄級”なんだよっ!」


 登録証を見せながら、自慢げにユーミが答える。


「隕鉄!? すごいですね、その年齢で……あれ? お二人はおいくつなんでしたっけ?」

「……うーん、わからない」「わかんないっ!」


「…………」



 * * *



「そろそろ目的の場所です」


 ラスターが差す方を見ると少し離れた場所には岩が連なる場所があった。頭だけを砂から覗かせて、大部分は砂の下に埋もれている。


「あの岩の間が入り口のある場所ってわけか」

「ええ、そうです……行きましょう」


 近くまで歩を進めて、大きな岩の陰から様子を伺う。

 砂地から顔をのぞかせる地下へ至る遺跡の入り口。


 どこかで見たようなルーン文字が薄っすらと見える。


「なあ、ユーミ。あれってお城の地下のスクロールに描いてあったルーンにどことなく似ていないか?」

「うぅん、似ている気がするけど、読むことはできないかなぁ……」

「そういうもんなのか」

「これを投げて、様子を見てみましょう……」


 どこから拾ってきたのかガニ股で鼻息荒く両手で岩を抱えラスターが声を掛けた。


(いや、そんな重いもん、投げれないだろ……あ、投げれるわ)


「ユーミ、門番が現れるかもしれない、投げてみてくれる?」

「おうけい!」


 剛腕の魔術師ユーミがひょい、と軽々岩を持ち上げて、オーバーヘッドでキャストすると、ラスターはあんぐりと口を開けて驚いていた。


 ――――ドスン。


 放物線を描いた岩が地面に着くか着かないかの一瞬で、砂地に潜伏していたのであろう門番が姿を現す。


(……でたっ! 多分、ゴーレムの類……だけど、なんだ? 砂漠の奴とは全然違う……!)


 現れたのは、ゴツゴツした岩の集合体のようなサンドロックゴーレムとは全くの別物。

 滑らかに造形された四肢は『人間』のそれに近く、各所で球体関節を持っている。だが、胴体と頭は一体型になっており首はない。

 そして、これまた青錆びの様な色の全身にルーン文字の様なものが刻まれている。


 門番はは突如として現れた岩の方を向いて様子を見ているようだが、反応はない。

 カナメとユーミ、顔を向かい合わせてどうしたものか、と考えていると――。


「……行きましょう!」


 ラスターが威勢よく飛び出し、しまっていた“銃”を取り出した。


「おいちょっと、落ち着けぇい!」

「心血注いで作り上げたこの自信作! きっと時代をいくつも置き去りにするぞ! その威力とくと見るのですっ! ……遺跡の中に、入らせてもらいますよッ!」


 当然、唐突に声をあげた侵入者に気付かないはずもなく、片膝をつき弾薬を込め、素早く撃鉄を起こして片目で狙いを合わせるラスターへと向き直る門番。


「食らえ、“ラスターショット”!!」


 その弾は、鉄を溶かして作った人の手の指二本分ほどの大きさ。カナメの助言により円筒状で先を尖らせて、射出の際に回転が加わるように調整してある。

 発砲音がしてその弾は正に、ラスターの足元に転がり、その顔は暴発の煙で煤けていた。


「僕の計算では、数十発に一発、火薬の調整で失敗します――それが、“今”ですッ!」


 自信満々に言い切り、何かを諦めたラスターは穏やかに目を閉じる。


「ばかたれえええーーー!」


 カナメのツッコミと門番の躍動は同時だった。

 ――だが、こちらにも“戦士”がいる。ラスターに襲い掛かる門番の拳を素早い身のこなしで二人の間に割って入ったユーミが鋼鉄の杖ではじき返した。


 その衝撃音は鐘を鳴らしたような音だ。


(明らかに金属音!)


「ユーミ、金属のゴーレムだ、肉弾戦では分が悪いぞ!」

「じゃあ、アレお願いっ!」


少女を導く奇跡の敏腕(魔女っ娘プロデュース)】――


 何度も窮地を救った能力に期待し、発動する。


「食らえッ!」


 魔術で作った石を胴体の同じ場所へ何度も着弾させ、金属疲労による撃破を狙う。


 綺麗に光の粒を散らせながらユーミの魔力がスクロールを介し石弾として射出されていくと次々に着弾し、砂埃と砕けた石の破片が舞った。


「す、すごい! やっぱりすごい魔術です。やったんじゃあ、ないでしょうか!」

「ば、ばかやろう! 『やったか』は、フラグをたてるんだぞう!」


 砂煙の中から案の定、門番は現れ、次はカナメに襲い掛かる。胴体に少し凹みや傷が見られるが致命傷とまではいかなかったようだ。


「ひ、ひィッ!」


 毎度おなじみの悲鳴を上げながら必死にカナメは攻撃を寸での所で躱すが、二手目を躱しきれるほどの身体能力はない。


(なんか回避力が上がってる気がする! いや、そんなことよりこの門番、頑丈すぎるぞ……それなら)


「カナメ! 平気!?」


 再び繰り出される金属の拳は、割って入った魔術師の鉄の杖によって軌道をそらされた。次は反撃の番。


「ユーミ、炎で行く! 温度を上げて、溶かしちまおう!」

「おうけいっ!」


 再度光のスクロールを広げて、言語を書き換える。

 燃える太陽の光を、精霊の力を借りて光のレンズを作り収束、光や炎や温度、知識をごちゃごちゃに混ぜ合わせて、ユーミの膨大な魔力で辻褄を合わせる。


「でろでろに溶けちまえ!」


 ユーミの前にスクロールの行列ができる。

 現れた“Enterキー”に魔力を込める。


「【二人の冒険(エンタープライズ)砂漠の思い出(ハルマキス)】!!」


 とりあえずカナメの脳内からそれっぽい名前を付け、尋常ではない熱量を浴びせる。


「うへえ……」


 最後のスクロールが砕け散ると、魔力の消耗と一帯を包み込むおびただしい熱気に見舞われたユーミは膝と両手を地に着け、荒く呼吸をした。


(どうだ……?)


 業火の中を注意深く観察するとゆらりと、影が動く。

 金属の体は確かに赤熱しているが、まだ形を保っている。稼働停止には至らない。


「くそっ、まだ動く! ラスター、そっちに行くぞ!」


 動きは鈍くなっているが、しかしまだ速い。十分な速度でラスターに接近する。


「ラスター! 鉄は熱い内に……撃てッ!」

「わああああ!」


 急いで銃身に弾を込める。


――そして引き金を引き、銃弾を放つ。


 かなりの速度を持って銃口から飛び出した弾は門番の右肩を吹き飛ばすのみ、決定打にはならない。銃 の出来が良くても、狙撃手としての腕前はまだ初日だ。


 だが、肩に銃撃を受け右腕を失った門番は少しだけ動きを止める。


「ラスター! もう一発だっ!」

「駄目ですッ! 冷却時間が必要なんです!!」


 必死の叫びをあげるラスターに、再び門番が向き直った。ユーミは一瞬で大量に使用した魔力の反動で咄嗟に行動することができずにいた。

 再度、銃を持つ少年へ向き直り速度を上げて攻撃へと移行する。


 逃げろ!と叫ぼうとしたその時――


 門番とラスターの中間地点へ、視界の外のはるか上空より隕石のように落下してくる“何か”――

 

 ――否。


 “何者か”があった。

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