水
「で、その『お願い』ってのは……」
「はい。実は僕は発明をすることを生業にしていまして」
(それでこのがらくたの量、ね…)
ふと見れば、二人には構造のよく理解できない動力のついた荷車がある。どうもこれを使って二人を砂漠から救助してくれたようだ。
「ある発明品の構想を何年も練っていたのですが、ついに思いついたのです。これは、天啓です!」
「ふむふむ、天啓ね」
部屋中に散らかった用途不明の装置を見回して、少しばかり懐疑的な心持で少年の話を聞いていた。
「ですが、装置に使う部品が一向に集まらないまま、ついに時間だけが経ってしまったのです」
「それが、その遺跡ってのには、あるんじゃないか、と?」
「おっしゃる通りです! ただし、遺跡の入り口を守る門番――こいつがかなり厄介でして。入口を守る番人がそれほど強力なのならば、遺跡の内部にはかなり希少なアイテムもあるのではないかと」
(ああ……なんだか危険な香りがする……中も罠だらけなんだろうなぁ)
「なるほどな、話は分かったよ。でもそんなに必死になって、一体何の装置を作りたいわけ?」
「それは……。内緒です」
「ええー! でも、誰かに危害を加える様なものだったら手伝いたくないんだけど――」
(間違いない。こいつは作るつもりなんだろう。わかる。人類の化学はそうやって進化してきた。作るつもりなんだろう? エロマシーンをっ! なら手伝うとも!)
しかしカナメの予想が見透かされたのではないかとドキリとするほど、ほんの束の間に否定の言葉が浴びせられた。
「――いいえっ……僕は、そんな下卑た物を作るつもりはありません。ぼくは、この街を……救いたいのです。そんな装置を作るんですっ!」
ラスターは真剣な目をしていた。目の奥にはこの砂漠のように熱い何かが燃えているのだ。
カナメは下卑た想像をした自分の事を超絶にみっともなく思う。
「わ、わかったよ。それで、いつ出発するんだ?」
下卑た自分の思考をどこかに追いやるため、話を切り替える。
「すぐにでも出発したいところではありますが、僕はこのように非力です。武器を作りたいんですが、実はそのことでもご相談が……」
武器を作る。鍛冶屋にでも行くのか。と考えて相談とやらの続きを聞く。
「あなた達の放った魔術――」
「あれは“少女を導く奇跡の敏腕”によって発動する、魔術機関銃:“二人の冒険”っていうんだ」
「は、はあ」
ラスターはなんだかよくわからない、といった顔で返事をする。
ユーミはそれどういう意味なの? とカナメの袖を引っ張って聞いていた。
――ラスターは気を取り直し、言われるがままに訂正した。
「あなた達が放った、“少女を導く奇跡の敏腕”によって発動する、魔術機関銃:“二人の冒険”を見て――」
「ああ、長いからあの魔術、とかでいいぞ?」
「くぅっ!」
少しイラ立ってしまう。この黒髪の少年――カナメに悪気はないだろうという事は理解できるが、致し方ない事でもあった。
「あの魔術をみて、僕が構想している武器のヒントになる気がしたのです」
(このラスター君、もしかして……)
「カナメさん、これを見てもらえますか?」
そう言って彼が持ってきた機械は、棍棒ほどの鉄製の長細い筒に持ち手が二つ付いており、引き金の様なものもついている。
(これは……銃だ!)
まだところどころが粗削りで、カナメの記憶とは少し違う部分も多いが、これは確かに火薬などの力をで弾丸を打ち出す、銃を構想しているのだろう。
(銃だ……中二病という病を患ったことがある僕には多分アドバイスできるだろうけど。インターネットで調べたこともあるし。形状をああしろこうしろ、といえば拳銃くらいまではコンパクトなものを作り上げてしまうかもしれない)
ただ、不安がよぎった。生前にニュースなどで見た映像は、銃という兵器が誰かを傷つける場面がほとんどだった。猟銃など食べ物を狩猟して生きるために使用する場面より、その逆、命を奪う場面で使うイメージが強い。
(答えてもいいものだろうか? 剣と魔法の世界――魔術を使用できる者の方が少ない世界で銃を作れば、非力な人間も兵士となる可能性がある。人間同士の殺し合いや、戦争さえ助長してしまうかもしれない……)
じっと考え込んでいると、ラスターが複雑な表情をしながら声を掛けた。
「やっぱり、これを見て何を作ろうとしているのかわかるのですね」
(いいのだろうか……)
「お願いです! この街を、砂漠の町の人々を救いたいんですッ!」
おや、と思った。なんだ、同じ思想を持つ仲間ではないかと。
(ああ、インテリぶってるくせに、熱い奴だ。こいつなら間違った使い方はしないだろう)
「わかったよ、ただし。完成したとしても、量をたくさん作るな。できるだけ人に見せるな。まして落としたり、盗まれたりするな。設計が盗まれたら、真似をされるかもしれないからな。これは、簡単に人を殺せてしまう道具になってしまうと思う」
カナメの方も真剣に言う。
これは神に背く行為だろうか。
神がいるとしたら何と言うだろうか。
(まあ、この時代の技術で精巧に作ることは難しいとは思うけど、念は押しておいた方がいい)
「わかりました。もちろんです!」
そうして、カナメはラスターに『銃』の事、“二人の冒険”に使った設計思想、などを話す。ユーミは二人の話は退屈そうに、そのあたりの装置をいじくりまわしていた。
* * *
「――この街は数日後には創立千年となる節目で、ささやかながら祭典となるんです。買い物がてら、見て回ってください! その間に武器を作成しておきます!」
二人は言われた通り町を見て歩く。どの家や店も貧しそうではあるが活気に満ちていた。普段は違うのかもしれないが今はどことなく、みんな幸せそうに見える。
だが、聞きたくないような話も耳に入ってしまった。
『――あんた、ラスターの家に居候してんのかい!? あの子が作ってくれた料理を作る時の竈、爆発したよ! 危ないったらないわ』
『――あの子は父親が死んで気が狂い、母親が死んで【悪魔崇拝】になったんだよ』
『――いつも閉じこもって可笑しな【装置】を作っているんだってね。【反魂の禁忌】に触れて【人体錬成】をしようとしてるって噂だよ?』
訳あってラスターの家に居候しているというと、町の人からはどうも嫌な噂を聞かされた。
(そんな危ない奴には見えなかったけどなぁ)
そんな中、様々な店を回って携帯食料や下着の替え、傷薬などを買っていて食料品店で面食らってしまう。
「水、高けえっっ!」
それもそのはずだ、なかなか雨が降らないこの砂漠の町では水なんてものは高級品だ。大人の人間が三日間ほどの食費を賄えるくらいの金額で、一回の食事で飲む水が買える分くらいだ。
――しょうがない。水分がなければ死んでしまう。
そう思うと、砂漠で行き倒れの二人を連れて街に帰って水を分け与えようとしていた彼の、その親切さが身に染みた。
「ねえ、おじさん。三人分の水。それが……二、三日分ほしいんだけど」
「ああ、それなら――」
売り子の提示した金額に分かってはいたが再度、面食らう。
「やっぱり高いなぁ……」
「兄ちゃんは旅人かい。仕方がないだろう? アゼラールの町は砂漠の町だぜ。もっとも、乾いた街といっても数百年ほど前まではオアシスから水は引けていたらしいがな」
「へえ。そのオアシスが枯れちまった、ってことか」
売り子の青年が顎をしゃくって見せた方には、少しばかり窪んだ砂場があるだけだった。
「ああ。この街の言い伝えではな、どこのどいつか知らねえが――ある男が砂漠のオアシスに住み着いた『水の精霊』をさらって水を独り占めしようとしたんだが、水の精霊は言うことを聞かず怒ってオアシスの水を枯らしちまったんだとよ。それどころかその男の体中の水分を吸い取って、その男は生きたままミイラの化け物になっちまって砂漠のどっかを彷徨ってるんだって話さ」
(ふぅん。こういう民間伝承って案外、もとになった実際の話があるんだよなあ)
「まぁ、いっか。おじさん、ありがとう」
「まいどー!」
数日分の水を購入したカナメ達が逗留しているラスターの家に帰り玄関を開けようとすると、中から揉め事のような騒がしい声が出迎えてくれた。
「ラスター、いい加減に妙な道具を作るのはやめて、井戸掘りの仕事でも手伝ったらどうなの。それに妙な人たちまで家に連れ込んで!」
(妙な人たちって僕達だ……『こんにちは』なんて言いにくいよなぁ)
「井戸掘りの仕事なんて、何年も結果なんて出ていないでしょうに! 来る日も来る日も穴を掘って、砂を運んで、少し湿った地面が現れたら一喜一憂して、それでもまだ、水なんて出ないじゃないか!」
「みんな水が欲しいから一生懸命なんじゃない!」
「僕だってこの街に水をもたらしたいんだ! 方法が少し違っているだけです! 穴を掘って水が出たって、その穴の権利者が潤うだけじゃありませんか!」
「もうっ、ラスターのばか!」
見知った顔のラスターに捨て台詞を吐いて出て行ったのは赤毛の少女だった。
玄関先でぶつかりそうになって慌ててよけるが、カナメとユーミの存在に気付いていない。走っていく際にキラキラとした粒、涙を流しているのが見えた。
「あぁ、カナメさんに、ユーミさん、戻られていたんですね。これはお恥ずかしいところを」
「いや、今の女の子は?」
「あれは、幼馴染の――いえ、家族、みたいなものです」
「みたいな?」
「そうです。町でカナメさんたちは僕の噂を?」
少し話しにくい事を聞いてしまったか、ラスターは苦笑いを浮かべてカナメ達が町で仕入れたであろう情報へと話題を変えたのだった。
「ああ……ああ。なんだか町の人たちはラスターを変な目で見ているみたいだったな」
「いえ、僕が好かれていないということは事実です」
「…………」
ラスターは少し遠い眼をして、自分の過去を語り始めた。
「僕の両親は――」




