砂漠へ至る道
アザラールに向かう道中ではいくつものモンスターに出会った。
一人ではまだ魔術をコントロールできないユーミは今も鋼鉄の棒をぶん回す。とは言え華奢な身体のどこかにそんな力が、といった疑問も湧いてくるほどの強力な攻撃力だ。
(それにしてもすごい力だな、モンスターの原型がなくなってる)
カナメは前回の旅路では世界樹の枝を振り回していたが、今回は光の精霊が宿る短刀の聖剣を得物にしていた。
(これは武器としても結構強い! モンスターは基本的には光の加護に弱いんだろうか)
ロードやキングほどではないが普通の、この世界ではどこにでもいるらしい平凡なゴブリンにとどめを刺せたことに一人喜びをかみしめていた。
「すごいよ、カナメ! 一人でもゴブリンを倒せるようになったねっ」
ユーミも褒めてくれるが、次々と大型のモンスターを魔石に変える彼女の前ではカナメの活躍は、はっきり言って渋い。
(結構な中ボス級を二体も倒してるのに、初めて一人で序盤の雑魚を倒せた! 大丈夫かな、僕!)
町を出てから三日ほど、野営をしながら歩を進んでいた。
「進むペースは順調だ。あと一日か一日半くらい進めば砂漠に入ると思うけど、そこからまたかなり歩くことになりそうだ。砂漠攻略の前に食料や水場なんかも探しながら行こう」
木々や草はだんだんとまばらになってきて、辺りには岩や乾燥帯が増えて来た。
(異世界ものでは、水や食料を無限に持ち歩けるスキルなんかがあるけど、僕には使えないんだろうな)
便利スキルどころか、戦闘スキルさえおぼつかない。カナメは攻撃スキルを習得したが、魔力がないためユーミがいないと発動できない。【18歳未満は戻るを押してください】はかなり強力なスキルだが、腹の足しにはならない。
(棒術とか剣術でも習得できればなぁ。ま、ないもんをねだってもしょうがない。配られたカードで勝負するっきゃないか……)
「ユーミ、日も暮れてきたし今日はこの辺で休もう。この辺りの岩場は安全そうだ」
「わかったよ!」
途中で捕まえた鳥の様な生き物を捌いて調理する。
内臓を取り出して首を落とすのはまだ慣れないが、女の子にやらせるのもどうかと思いカナメが担当することにした。
砂漠の長い旅はきっと食料や水分の確保は難しいと考え携帯食料などはできるだけ温存し、道中はできるだけ自給自足を心掛けるようにする。
捌いた肉を、火を起こして、焼く。
「すごいね、カナメは。料理ができるなんて!」
「料理なんてものでもないよ、ただの丸焼き。香辛料と塩だけだ」
「でも、おいしいよ!?」
「外で食べるとうまいもんなのよ、ご飯てのはさ」
(モンスターは消えちまうから食えないもんな。飯のスキルも欲しいもんだよ)
自分の非力さを想いながら野営の準備をして眠りにつく。翌日もまた、長距離を歩かなければならない。
* * *
「うわー、これは強烈にだだっ広い………!」
「本当に町なんてあるのかな……?」
ユーミは舌を出しながら暑さにへばっている。
カナメはぶら下げた水の入った水筒をユーミに手渡しながら、目の上に手で庇を作って見渡す。
背丈の倍ほどの岩がそそり立つ地帯を抜けると、目の前には広大な砂漠地帯が広がっていた。恵みの太陽、その光は遮るものがなく、惜しげなく大地に降り注いでくれる。
「これは下手するとたどり着く前に暑さでやられちまうな……一旦岩場の陰で休んで、日が落ちてから動き出そう。暗いうちに移動しながら休めそうな場所を探して、太陽が出ているうちはそこで休む、繰り返しだ」
「うへぇ……」
どうやらユーミは暑さが苦手のようだった。
――日が落ち、夕暮れになってから二人は移動する。
「くっそ! 夜は夜で滅茶滅茶寒いな!」
ユーミに毛布を手渡しながらカナメは愚痴を言う。
「うへぇ……」
ユーミは寒いのも苦手らしい。
「それに………ひぃいっ!」
地中から現れた、馬ほどもあるサソリ型の魔物がその尻尾をカナメに刺突してくる。必死で逃げ惑うと、すかさずユーミが間に入る。
「えーいっ!」
鋼鉄の杖から繰り出されるぶん回しはサソリにも有効。甲殻は見るからに頑丈に思えたが、ユーミの膂力の前にそれは意味をなさない。
物理攻撃が効かない魔物だらけだったらどうしようと思っていたカナメは一安心する。
しかし、魔物達も昼は暑さで休んでおり、夜に活発に動き出すようだ。
サソリ型の魔物が落とした魔石を拾っていると、すぐ近くの地表で光る一対の目玉と目が合う。
(やば、これはたぶん………)
何となく砂地に潜って獲物を待つ蛇を想像すると、それは正解だった。
一瞬でカナメをのみ込もうとする人間の背丈の数倍はあろうかという巨大な蛇はしかし、顎の下から鉄棒を見舞われる。
「ひぃぃっ!」
驚くカナメは尻もちを着き、蛇は頭の方から逆さまに倒れ込む。
「このっ! このっ!」
ユーミは、倒れた蛇の頭を執拗に鉄棒で殴り続ける。肉体が消滅し始めても、止まらない。
「ちょ、ゆーみちゃん?もう大丈夫だってば!」
返り血を顔に浴びながらはぁはぁと肩で息をして振り返る。
「わたし、ヘビは苦手なんだよっ!!」
(苦手のときのリアクションはだいたい、キャー、だよ? そんな入念に撲殺するんじゃない!)
「まあ、でも、助かったよ、ありがとう。あと、食べるものも水も限られているから、あまり無暗に動かない方がいいぞ?」
「わ、わかったよ!」
(ふー、砂漠の敵は砂地に身を隠しているのが多いんだな。それに暗くって………)
手に持っている松明一つで暗闇を歩く疲労感にげんなりしていたが、ふと思い出し松明を聖剣に持ち替える。
「なぁ、助けてくれるかい?」
( )
ぽうっと現れた綿毛のようなもの。
光の精霊だ。聖女様からもらった短剣に宿り、ゴブリンキングを討伐する際にいろいろと助けてくれた精霊。この綿毛が懐いてくれているのは精霊王の与えてくれた加護の力だと思うと、あまり無下に扱うのも気が引けると最近は思うようになっていた。
「おほっ、これはいいぞ! すっごく明るい!」
「あの時助けてくれた精霊さんだね! かわいいっ、それにこんなにはっきり姿が見えるってことはとっても強い精霊さんだよ!?」
「へー、そうなのか」
ぽわぽわと光りながら飛び回る精霊をよく観察して話しかけてみる。
「おまえ、なんで僕たちを助けてくれるんだい?」
( )
「ふうん。なるほどねえ。偶然ってのもあるもんだな」
「………! カナメは精霊さんが言っていることがわかるの!?」
ユーミは驚いた顔でカナメをみる。
「ああ、もともとこの短剣にこいつが宿っていたんだけど、何かの呪いで封じ込められちゃったんだって。そんで偶然僕が持った時にその辺の精霊の眷属みたいなのが助けてくれて呪いが解けたんだと。それから光の魔術をお城でぶっ放しただろ? その光を食べて、弱っていた力が復活したんだってさ。言葉は分かんないから大体の感じだけど。驚きだよな!」
「……それもびっくりだけど、それだけじゃないよ。精霊と意思が通じるなんて、完全に“精霊使い”の素養があるってことだよ!」
「ふぅん。そうなの? ま、暗いときには便利だよな。それより、進もう! 太陽が昇っちまう」
こうして二人は、砂漠の夜に歩を進める。




