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別れを告げる

「さてと、おめえら」


 ガラルドに呼び出され、カナメとユーミは冒険者ギルドの二階に来ていた。ソファに二人座らされ、向かいにはガラルドが座っている。


「まずはこれを受け取れ、今回の依頼の報酬だ」


 ガチャンと、どっしり重そうな革袋をテーブルに置く。


「おい、泣き虫おっさん、これは多すぎないか?」


「うむ。泣き虫ってえのは、是非やめてほしい。おれにも面子ってもんがぁ、あるからな」


 隣に腰掛けるユーミは「あはは」と声に出して笑っている。


「ゴブリンキングってのは厄介なモンスターだ。報酬は割に合ってるはずだ。それに、おめえさん達に”灰銀級”ってのは似合わねえな。今日から”隕鉄級”を名乗りやがれ」


 カナメとユーミは冒険者としての格を上げられる。


「それは、ちょっと早すぎないか? まだ依頼なんて一つしか達成してないぞ」


「……ゴブリンキングを単体のパーティで討伐する。そいつぁまさしく隕鉄級の所業なんだよ、或いはそれ以上。これから依頼を受ける人間のためにも、受け取ってもらわにゃあ」


「あれは、みんなで協力して倒したんじゃないか」


「はっ! 俺達じゃあ、傷ひとつ与えられなかったのを、見たこともねえ魔術一発で仕留めたんじゃねえか。それに今回の件、ちと特別だったみてえでよ?」


 ガラルドは血のように濃い結晶を一つ、テーブルに置く。


「これは……なんです?」


「キングが消滅するときにばかでけえ魔石と一緒に落っこちた」


 促されてテーブルに置かれた結晶を手に持って観察してみる。不思議な力が込められている感覚はある。カナメが持つ結晶にユーミも顔を近づけて凝視してくる。


「すごい魔力……。魔力とは違うかな? でも似たような感じ。不思議だね……?」


「これがなんだかわかんねえが、この石ころの力でキングはとんでもねえ進化をしていた、ってのが俺の予想だ。一応、魔力は込めねえほうがいいだろうな。何が起きるかわからねえからよ」


 長年冒険者をしているガラルドでもこれは見たことがないらしい。


「おめえさん達はこれから何をしようってんだ?」


 たしかに、ガラルドに旅の目的を話した記憶はない。


「僕たちは、その、この世界を魔族から救おうと思って旅をしています。それで、まずは聖王様に会ってみようと思って。冒険者になったのは、その旅の資金作りです」


 何となく小恥ずかしくって敬語に戻ってしまう。


 目を真ん丸にしてこちらを見るガラルド。阿呆面だなと思った見ていると急に笑いだす。


「がははははははははッ! そうか。世界を救うってか。そりゃあ規模がでけえ! ゴブリンの王なんざチンケなもんだわな!!」


 何となくムッとしてガラルドを睨む。


「いや、すまねえ。無理だろ、って思って可笑しかったんじゃねえよ。おめえらなら本当にやっちまうかもな! 自分は小せえな、そう思って可笑しくなったんだよ!」


(本当かよっ! それに僕だってできれば平穏に暮らしたかったんだよ!)


「だが、聖王はそう簡単にはお会いにならねえだろうぜ……だってそうだろ? 人族の王が、会いてぇです! ってやつら全員に会ってたらキリがねえ」



(確かに……。盲点だったな。日本人の僕が急に他国の大統領に会いに行ったって会えるわけないわな、そりゃ)


「おれも言ってみりゃ、ただの一般人だ。飛び切り冴えた助言をする事ぁできねえ。すまねえな」


 別に謝ることではないのに頭を下げられる。


「いや、簡単に会えると思いこんでしまってたよ。目が覚めた」


「そう言ってもらえると助かる。ひとまず、ギルドの依頼を達成しながらこの街に滞在するのもいいが……」


 どうする? といった仕草でカナメはユーミの方を見る。


「ありがとう! でも、冒険に行くよ!」


「ですって。とりあえず少し休んだら次の町を目指して出発するよ!」


 カナメとユーミ。二人は進路を決める。


「……そうかい。そう言うと思ってたぜ? 次にたどり着く大きな町は砂漠の町”アザラール”だな。昼は暑いくせに、夜は寒くて応える。モンスター共も一癖あるぜ、気を付けな!」


「ああ」「うん!」


「そうだ、この石ころ、おめえらに預ける。ギルドからの”永久依頼”だ。この石ころの正体を調べてほしい。宿は何泊でも奢ってやる。――その代わり、町を出る前には顔を見せてくれ。セラと、その、パティエナにも会っていってくれよな」


「ああ、もちろん!」


食料や水などを買いに、二人はギルドを後にした。



***



――別の日。


 カナメとユーミはセラに声を掛け、怪我を治療したいと申し出ると、


「いいんだよぉ、疲れちゃうんでしょ? あの魔術はさ! それにこの痛みは、友人を守れなかった戒めとして、ちょっとの間付き合ってくよ」


 などと言って断られた。軽い口調のセラは思っているより芯が強い女性らしい。


 後から聞いた話では、数百のゴブリンなど一瞬で葬ることができる実力と、物騒な二つ名を持っているとのこと。もっとも本人は可愛くないから、と全く気に入っていない様子。


「この間の恩は絶対、忘れないよ! 何か困ったことがあったらお姉さんを頼ってねー?」


――別れを告げる。



 パティエナに挨拶に行くと、あのスクロールの魔術を使ってみたいといわれたが、大人の(セクシーな)女性では術式を発動できないと言ってやんわり断った。それに魔力を食らいつくしてしまったら、命の危険がある。

 旅立つことを告げると、何度も、何度も礼を言われ、泣きながらハグをされた時にカナメは気絶しそうなほど興奮した。


 カナメの表情を白々しく見ていたユーミが鉄の杖をいじくり始めたので平静を装い、慌てて引き離したときにひどく後悔をするのだった――


「この前、冒険者登録をしていたあなた達に、まさか命を救われるなんて、ね。一生忘れないからね。本当にありがとう! ユーミちゃんが壊しちゃった床とテーブルはガラルドがやった事にしておくわね?」


 きっと、ガラルドは尻に敷かれるのだろう。


――別れを告げる。



 買い物の際中、剣白薔薇の生き残り、ミリアムと出会う。三人の友人を失い、おめおめと国に帰って平穏に暮らすなど到底自分にはできないと言い、彼女らの家族に形見を届けてから、また旅を続けるという。

 失った三人の分まで名声を上げ、剣白薔薇つるぎしろばらの名を天まで届けたいのだとか。

 星になった友人たちは喜ぶだろうか、それともこれ以上危険なことはしないでくれというだろうか。


「あなた達と出会ったことを誇りに思いますわ。またどこかでお会いしましょう、御達者で。――幸運を!」


 純白の薔薇はその花弁にどこか陰りを持ち、凄みを増していた。


――別れを告げる。



 冒険者ギルドで優しく心配性、そして不器用な偉丈夫、ガラルドに挨拶する。


「よお! 来たな。そぃで、行っちまうんだな? 短けえ付き合いだったが、寂しくなるってもんだ。こいつは餞別、砂漠の太陽は肌を焼いてくる。使ってくれ、高級品の外套だぜ!」


「ああ、ありがとうな、おっさん! またくるから、宿を奢ってくれよな!」


「馬鹿言え、いくらしたと思ってやがる。自分で払いやがれ! ……だが、また来いよ! 世界を救う、前でも後でもどっちでもいい! おめえらは友人だ。本当に感謝してんだぜっ! ま、一泊くらいなら奢ってやる、最高の飯付きでな! 達者でやってくれ。……じゃあなカナメ、ユーミよぅ!」


 寂しそうに別れをいい、名を呼ぶ涙目のガラルド。


「ああ、そんじゃな!」「じゃあまたねっ、ガラルドさん!」



――別れを告げる。



 カナメとユーミは、砂漠の町に思いを馳せ”ラダ・クリッタ”を後にする。


 待っているのは、アラビアンナイトか。

 それとも――。


 預かった血のような赤色の、不思議な結晶は一体、何をもたらすのか。

 二人の冒険は続く。

 次から新章となります。

ここまで見ていただいてありがとうございます。

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 引き続きよろしくおねがいします。

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