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目覚め

「…………」


 ゆっくり目を開けると、木目の天井が目に入ってくる。少しだけ、まだ頭が痛い。


(眩しい………)


 ふかふかした感触。病院だろうか。

 恐らくベッドらしきものに寝かされているのだろう。足を動かしてみると「ごつん」と何かを蹴ってしまう。


「へあっ!」


 足にあたった何かから変な声を上がった。どうやらベッドに突っ伏して寝ていたユーミの頭を蹴り、起してしまったようだ。


「あ! ごめん、ユー――」


「―――っぶえええええええええええええッ!!」


(あらら、また泣いてら)


 前にもこんな光景を見たな、なんて思い出し笑いをしていると地震のような振動がする。

 どどどどどっ、と。


 どうやらそれは大男がユーミの泣き声を聞いて慌てて走ってくる音と振動だったようだ。

 慌てるものだから力が入りすぎて蝶番ごと扉をもぎ取ってしまい、ドアの上枠に頭をぶつけて、それを粉砕する。

 だが、何のリアクションもとらずにカナメと目があう。


 眉を”ハ”の字に、口を”へ”の字に変貌させると、この大男までもがおいおいと泣き出す。


「目覚めたか、この糞ガキィイイ、心配させやがってぇぇえ!」


 カナメの頭をがっしり掴むとぐしぐしと撫でまわし、ぶんぶんと振る。


「ちょ、痛い痛い、まだ頭がいたいんだよ! やめろって」


 よせ、と言いながらも、特段悪い気もしない。心配してくれたんだろう。


「ちょっとー、うっさいわねー! こっちにも怪我人がいるんだけどぉ!」


 いくつか離れたベッドでセラが抗議の声を上げる。抗議の文句と口調は真逆、セラは涙目でにっこりと笑っている。


 そして、傍らの丸椅子に腰かけたパティエナもその伴侶と同じく、涙を駄々漏らして嗚咽を上げている。


「みんな無事だったんだな、よかったよ!」


「おめえのおかげだ、奇跡の糞ガキ! 不甲斐ねぇおれが守れなかったもんを、おめえと、この嬢ちゃんが救ってくれた、感謝してもしきれねえ! 本当にありがとうよ!」


 屈強な巨漢が地に膝をつき、おでこを地面にがっしりとくっつける。その勢いで額がぶつかったあたりの床材はがっつりと割れてしまう。


「よせよ、あんたが何かするたびに建物が壊れる。だけど、赤熱の大剣――あいつらは、キングに喰われちまってた……。他の灰銀級の人たちは無事だったんですか?」


 カナメはガラルドやパティエナ、セラの方をみるが、皆一様に暗い顔をしてしまった。


「おめえが言うように、赤熱の大剣と、それに宵の鵬は全滅した。生き残ったのは剣白薔薇の一人と、黒蜥蜴の一人。おまけに黒蜥蜴の魔術師は婚約者の首を消し炭にされて頭がイカレちまった。実質無事に連れ帰れたのは剣白薔薇の、一人きり――全部、俺の責任だ」


 鼻水を垂らしながら思いつめた様な顔をするガラルド。


「どいつらも有望株、だった。――俺が殺した。ガキ、おめえが言ってくれたように、調子に乗っていたのは俺の方だったみてえだ」


「――それは、違いますわ」


 声のした方を見るとガラルドが壊した扉の方に見た目麗しい少女が立っていた。剣白薔薇の生存者、見た目麗しい貴族令嬢の冒険者、ミリアムだ。

 もっとも、今は包帯や湿布などで痛々しい容姿となってしまっている。


「私たちは、増長していたのです。初心者から、中級者へと。階級が上がり自惚れ、己の力を過信していたのです。現に、私たちは悠長に会話などしながら危険な地帯を進み、まんまとしてやられました」


「だが、隕鉄でも危険な依頼に、灰銀連中を呼んだのは俺で――」


 ガシャン! と大男の額で花瓶が割れる。差してあったバラが一輪、大男の唇に張り付く。


 動く方の手で花瓶を投げたのは、セラだ。投擲スキルもなかなかのもの。


「女々しいったらないわ! マスター。あんたが灰銀級を呼んで対処しなければ、キングはもっと力を付けて周辺の町を蹂躙したでしょう。時間をかければ、三千のドビーに、二十のメイジ、十の騎士に、近衛はさらに強力だったかもしれませんよ。出来うる最大限の作戦だった、って思わなきゃ」


「だけどなぁ! セラっ! 死んだんだぞ! 将来のある若ぇのが、俺の指揮でよ!」


 悲痛に大声を上げるガラルド。


 すると今度は花瓶を置いていたテーブルを思いきり大男の後頭部に叩きつける、パティエナ。

 木製のテーブルは、文字通り木っ端微塵となる。


(……プロレスか?)


「ガラルド、救われたのよ、私たちは。失った人はいますが、あなたが救ったものも確かにあります。未然に防がれたから目には映らないけれど、失っていたかもしれないものを、あなたは確かに救いました」


 王の勢力が増していればこの風景は今頃燃え盛っていたかもしれない。彼女が伝えたいのはそう言ったことだ。


「―――ッ、しかし……」


 ガラルドは自責の念を止めきれない。


〈ごちいいいいいん!〉


 今度はユーミが力いっぱいガラルドの頭を鋼鉄の杖でぶん回す。これはさすがに”効いた”ようで、ガラルドは目を白黒させてユーミをみる。


(ちょっと、ユーミちゃん。殺す気……?)


「ガラルドさんは、助けに来てくれたよ。わたしたちを! ……ありがとうねっ」


 鉄棒で殴ったのは戯れか、加減を見誤っただけか――ともかくユーミは微笑みながらガラルドに感謝の言葉を贈った。


(……そうだった)


 たしか、後で正式に謝罪をしなければ、と思ったのだった。それと感謝を。


「そうだった、おっさん。あの時は頭にきて調子に乗ったこと言って悪かった。それに危ないところに駆けつけてくれて助かったよ、ありがとな!」


「マスターがキングを押さえてくれなかったら、危なかったですよー、あんがとね!」


「ガラルド、あわや死の淵、温かく言葉をかけ続けてくれてありがとうございます」


「これじゃあ、立場が逆じゃねえか……ありがとうよ、おめえら」


 強面の大男はまた再び涙し、カナメたち一行はクスクスと笑っていてた。



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