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I will always love you

――何度目だろうか。


 真っ白い空間。

 地面も、空も。


(やぁ、ナルシマ カナメ君)


(――――ッ)


 精霊王、ウィシュナ。


 気付くと、転生前に少しだけ滞在した白い部屋の中にいた。もちろん、彼女も。


(やぁ、ナルシマ カナメ君?)


意識を取り戻すと、すぐに彼女の許へ駆け寄る。


(精霊王ッ! 頼む! ―――)



***



「パティエナッ!」


 ガラルドは今まで見せたことのないような情けない顔で、油断すると地面に吸い込まれてしまいそうなほどに精気のない、愛すべき部下の頭を支える。


「マス、ター」


「しっかりしやがれ、大丈夫だ! もうすぐ救援の馬車が来る。医者も乗ってるから、すぐ手当できるってもんだぜ!」


 嘘だ。救援の馬車は、来ない。

 ぐしゃぐしゃだ、鼻水と涙で。


「マスター……わたし、嫁入り前ですのに……」


「大丈夫だ! お前は器量がいい! すぐ見つかるさ! いい男がよぉっ! 怪我が治ったら、ギルドのエリートをいくらでも紹介してやるよ!」


 ――分かっている。


 こんな時でも素直になれないのだ、ガラルドという男は。

 そして、数多の冒険者を看取ってきたギルドマスターとして、この傷は、助からないと分かっている。


 少し離れた場所で横向きにぐったりしているセラは、溺れてしまうのではないかというほど涙を地面に溜めている。


「マスタ……わたしは、だめでしょうか……」


「だめ? だめなわけがあるか! そんなわけねえだろ! 大丈夫だ! 助かるさ、かすり傷だ、こんなもん!」


 散り際のパティエナは、その妖艶な容姿とは裏腹に、少女のように純真な瞳を彼に向ける。


 自分がここで終わると悟っているから、最後にその顔を魂に焼き付けたいと願う。だが、溢れる涙が視界に靄をかけてしまう。人の心と体は矛盾している。


「マスタ……いいえ、ガラルド。わたしでは、だめでしょうか……? あなたの、伴侶として、生涯を共にするのは…………ッわたしではだめ、でしょうかっ……?」


 声は震えてしまって、涙で見えない。彼はどんな表情をしているのだろうか。

 パティエナは氷の剣に熱を奪われすっかり冷えてしまった手を持ち上げる。


 冷たい手をごつごつした大きな手が包み込み、その熱を分け与える。


「ぐぅぅ……馬鹿言ってんじゃねええ! だめなわけがあるか……おめえ以外に誰がいるってんだ……ッどこにいるってんだ! おめえがいなくなっちまったら、この拳骨しか取柄のねえ男の人生に、なにがあるってんだっ! なぁ、パティエナあぁあっ!」


「……うれしいです。ガラルド」



 パティエナも

 ガラルドも

 セラも

 ユーミも


 ぐしゃぐしゃだ。



 皆、鼻水と血と涙で、ぐしゃぐしゃだ。


――――彼以外は。


 ユーミの手首を思いっきり掴むと、彼女を強引に引っ張りながら、ガラルドとパティエナの傍に進んで行く。


「ぐぅぅっぅうううぅ……」


 パティエナの手を握りながら、地鳴りのような嗚咽を漏らすガラルドに、月の光をさえぎって影をかぶせる。


「ユーミ! 魔力を貸してくれえええッ!!」


 叫びながら、ユーミの眼前に巨大な光のスクロールを描く。


「……あああああああああああ」


 王を玉座から引きずり下ろしたスキルと同じように、”言語”が目まぐるしく追加されていく。


「……あああああああああああああああああああ」


 スクロールに追加される文字は止み、ユーミの丁度、目の前にぼんやりと光る”Enter”キーが、現れる。



「――えんたああああああああああああああああああああああ」



 目の前で起こっていることと、これから起こる結果に思考を巡らせることができず、ユーミは言われるまま、”Enter”キーに魔力を注ぎ込む。


 まだ半分ほど残っていた膨大な魔力は、すんなりとそのほとんどがスクロールに吸い込まれた。


 巨大なスクロールは光る粒をまき散らせながら砕け散ると、ガラルドとパティエナを光の柱が包み込んでゆく。


 奇跡の光は綺麗で、温かい。


「ガラルド……あなたを」


 パティエナは、かふっと息を吐くとゆっくりと頭から力を抜く。


「……ガラルド」


 もう一度、彼の名を呼んだ後、ゆっくりと瞼を閉じた。



 ――だが、呼吸がある。



 衣服は切り裂かれたまま。

 血はこびり付いたまま。



 ―――だが、呼吸があり、傷はふさがっていた。


 命をつないだパティエナもまた、綺麗で、温かい。


「――――――――!」


 ガラルドは再度、地鳴りのように嗚咽を轟かせながらパティエナを抱きしめる。


 奇跡を起こした彼は、「ニイィッ」と不敵に笑いながら、白目をむいてまっすぐ後ろに倒れていく。



***



(やぁ、ナルシマ カナメ君?)


(精霊王ッ! 頼む!!――――)


(ちょっと、この前はさっさと現実に戻っていったくせに、なによ!)


(頼む! 頼むよぉぉおお!!)



 精霊王の両肩をがっしり掴みながら、ぶんぶんと揺さぶる。



(ひぃっ!)



 精霊の王たるものがひきつるほどの、ぐしゃぐしゃな顔をしてなおも懇願する。


 みっともなく。


(お願いだよおぉ! 治療の魔術をおしえてくれよぉぉおお!)


(ちょっと、落ち着きなさい! 治療の術式は光の加護と強大な魔力、人体構造の知識が必要でね!? ん? まてよ?)


(なんでもッ! なんでもするよぉお! 助けてくれよ! ぐひっ、助けてくれよぉううう! 絶対にこの世界を救うからぁっ)


(いいえ、ナルシマ カナメ君? 君はもう作れると思うよ! 治療のスクロールを。きっと君は前世の知識によって人の体の構造なんて、この世界で高位の治療術者より理解しているんじゃないのかな!?)



(…………?)



(それに光の精霊ちゃんを味方ににしたでしょ? そして、偶然出会った君の”相棒”はとーんでもない、魔力を持ってるじゃない!!)


(でも、君はついさっき新しい能力を覚醒したばかりで、あまりにも危険よ! 体にとても負荷が―――)


(ありがとうっ、ウィシュナ! 大好きーー!)


 カナメは、精霊王の忠告など頭に入らず現実世界に帰ってゆく。


(ちょっと、気を付けるのよー!!)


 最後に忠告した精霊王の言葉はカナメの耳には届かなかった。



***



”隕鉄級”


ゴブリンキング討伐依頼、達成――。

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