二人の冒険
「つよくなりたい」
そう言ってぐしゃぐしゃに泣きながら、幼い子供のようにえんえんと声を上げる。
ずっと、言いかけて言えなかったこと。
ユーミはつよく、なりたかったのだ。
つよくなりたいと、言いたかった。
皆を、カナメを守れるように。
( そっか ユーミ そうだよな 僕も 強くなりたい )
「――――――――」
ぎぃんと、カナメの脳にいつだったかと同じ頭痛が走る。
「――――ぐっうぅう! 痛ってええ!」
それからさらに、腰に差した聖剣がぼんやりと光りを放つ。痛む額を押さえながら不思議に思って剣を取り出すと、目の前を白い大きな綿毛のような何かが飛びまわった。
(光の、精霊だ。なんでだろう? 光の精霊だって、わかる)
( )
「おまえ、助けてくれるのかい?」
( )
「……それじゃあ、手伝っておくれ」
頭痛を無視し、醜い王の方へ視線を向けて、ユーミの目前に手のひらを向け光のルーンで描かれたスクロールを出現させる。
(これじゃあ、だめだ)(もっと威力を上げなきゃ)
(組みなおすんだ、術式を)(一つにまとめなくてもいい)
(パティエナさんの分まで氷をぶち込んでやろう)
(水分を凍らせて)(凝縮するんだ、確か)
(これじゃあ、文字が足りなすぎる)(熱を奪う)
(同じ系統にこだわるな)(圧縮、圧縮)
前世の知識を寄せ集め、頭の中で”術式”を組み上げたカナメは、ぶんぶんと頭を振って、一度書いたルーン文字を消してから、よく知った文字に書き直す。
散々、仕事で使っていたプログラミングスキルで、前世の”言語”でスクロールの文字を刻んでいく。
稚拙な科学を、その穴を彼女のでたらめな魔力で補う。
(こっちで空気を圧縮して)
(これは回転を加える)
(これは裏で動かせばいい)
「何をしてやがる、あのガキども……」
王の振るう杖の一撃を丸太の様な腕で受けたガラルドは呆気にとられてその光景をみた。
膝をついて泣いていたユーミも不思議そうに立ち上がり、目の前に浮かぶ文字だけの綺麗なスクロールを見る。
左に三つ、小さな光のスクロールが浮かぶ。うまく組み合わせることができなかった記述は、思い切って別窓で動かす。
右手の方にはやや大きめのスクロール、文字通り、光の文字が目まぐるしくスクロールしていく。
何か異常を察知したのか、王は足止めしていたガラルドを弾き飛ばしカナメたちのもとへ向かってくる。
「がっ、ガキども! 逃げてくれぇっ!」
ガラルドが大声を上げるが、関係ない。
――ここからはユーミの見せ場だから。
目まぐるしく文字が追加されていくスクロールは、最終的に、”Enter”と表示されていた。
「ユーミ、エンターキーを押して!」
「え……え……?」
「魔力を貸してくれよ」
(一緒につよくなろう、ユーミ)
ユーミはカナメの言っていることがよく理解できないまま、右のスクロールに魔力を込める。
―――と。
次の瞬間、空気が破裂したような音を周囲に響かせて、人間の前腕ほどの大きさの尖った氷塊がこの世界の最高速度で王の肩を貫く。圧縮された空気が解き放たれたことでユーミの髪が、ローブがバサバサとなびく。
王はこの世に君臨して初めて痛みを覚えた。
その醜悪な顔に焦りと恐れを追加して、さらに見る者を深いにする邪悪な顔となっていた。
とてつもなく薄いガラス細工が砕ける様な、繊細な音を立てながら光のスクロールはキラキラと砕け散る。
――しかし、砕けたスクロールの上には、もう次のスクロールがある。
上から下にスライドして”Enter”の文字に変化する。
その上にはまだ文字がスクロールしているスクロールがある。
その上も。
その上も、その上も。
その上も、その上も、その上も――。
その場にいた者たちはすべて、言葉を失っていた。
「新しい能力と精霊に手伝ってもらって作った、光のスクロール。魔力を借りなきゃ発動できないんだけど」
ユーミのやや左後方から声をかける。
「さあ、ユーミ!」
ぽかん、としてカナメの顔を見る。
「うてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!!!」
突然の大声にびくっとしながらも。
ユーミはキュッと唇を結んで王を睨みつけ、凛々しく表情を変えて、右手で”Enter”キーに魔力を込める。
次々に。
次々に。次々に。
次々に。次々に。次々に。次々に。
次々に。次々に。次々に。次々に。次々に。次々に。次々に。次々に。
毎秒、何発も放たれる凍てつく銃弾。
砕けたスクロールが七色に光りながら、光の粒子となって砕けて舞い散る。
きらきらと光に包まれて、そこはまるでユーミ主演のマジックショーのようだった。
目覚めたばかりの能力を酷使してカナメの目は真っ赤に、鼻からは血が出ている。
「これが僕の新しい能力”少女を導く奇跡の敏腕”!」
「そしてこのユーミ専用のこの魔術の名は!
魔術機関銃:”二人の冒険”だあああああーーー!!!」
キラキラ、キラキラと目に映る光景は美しく。
シャンシャンシャンと耳に心地よい光の魔術。
ユーミの”見せ場”が終わると同時に、最後のスクロールが砕け散る。
狙いを向けられた方はたまったものではない。単なる死の、出待ち時間。
ゴブリンキングは体中に尖った氷塊が刺さり、或いは体を貫通して、世にも汚いボロ雑巾となっていた。
何を言いたかったのか恨めしそうにギャギャと最後に喚くと、王の覇道はここで終了。とびきり大きな魔石と赤い小さなかけらをその場に残して、消滅した。
その場にいた誰もがただ、何もいえず、考えられず。ただ光と氷のショーを見ていた。
ガラルドは少年少女をぽかんと眺め、セラは興奮気味にこの光景を見ながら体を横たえていた。
パティエナは腹部を抑えて霞む目で美しい光の吹雪を見た。
救助され、ほど近くで脅える体をさすっていた者もぼんやり光る決戦の地に何かを確かに感じ取った。
カナメは新しい覚醒能力を使い、頭痛と疲労感で失神を。ユーミは魔力の大部分を使ってしまい、貧血に似た状態で膝をつく。
「なんだぁ、こりゃあ……」
呆然と王の没落を見ていたガラルドは我に返り、重傷を負った仲間のもとに急いで駆けよっていくのだった。




