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つよく、

――暗闇から現れたゴブリンキングは、鋭く汚らしい歯をむき出しにして、大層ご立腹のようだ。


 民をなぶられ、兵を殺されたためだろう。


 どの顔で言う! などと理屈は通らない。


 左手に杖を、右手に剣を。

 頭上には王冠を。偉そうに王の真似事をしていても所詮は、醜いゴブリンの王。


 半身を起こしてカナメは王の顔を見る。


「ひっでえ、ツラだなおい」


 その邪悪で醜悪。憎悪に満ち満ちて殺意を放つ、王の面構えに素直に嫌悪感を露にした。

 ユーミはカナメを快方しながら背後で見守るしかない。

 それと、


(お願いです。神さま! みんなを助けて……ッ)


 この、神が放り投げた世界で神に祈る。


 ぴりぴりと嫌な雰囲気が全身にまとわり憑いてつい、この窮地を脱することは不可能ではないか、と皆の脳裏によぎってしまう。


 ――たかが、ゴブリン。


 されど、王。


「俺がぶつかる! 援護しやがれ!」


 大声で指示とも言えない指示を飛ばし、ガラルドが王に突っ込んでいく。


「まぁた、強引な!」


 セラが「とほほ」という感情を顔で表現しながらも王の頭上に曲射の矢を放つ。


「なら、私は後ろね。 誤射、しないでね? セラ」


「誰がするかー!」


 場違いに軽快なやり取りをした後、パティエナも氷の大剣を引きずりながら、かなりの速度で王の背後を狙う。


 だが。


 豪音と火柱が上がり、直線で突っ込むガラルドの胸のあたりから煙が上がった。


「ぐうううううっ! 魔術だと!? なぜ、ゴブリンキングが魔術を使いやがる……!」


 ふうと大きく息を吐きながら、耐える。

 強烈な衝撃と痛みに意識が飛びそうになるが、なんとか地に膝を付けることは辞退させていただく。


「ッマスター!」


 後ろに回ろうとしたパティエナは急いで軌道修正、王とガラルドの間に割って入り剣戟を入れる。


「パティエナ! 退け! こいつぁ、おかしいぞ!」


 ガラルドは大声を上げて二人の女性へと警告を与える。しかし、そんなことは剣を合わせる彼女が一番よく理解していた。


「お、おかしいなんて、わ、わかって、ますぅう!」


 剣戟の途中でもパティエナは律義に返事を返す。


「ゴブリンの、王は、ステータスは圧倒的です、が、魔術、や剣術! は、使えない、はず!」


 王は、パティエナの綺麗で豪快な剣術を完全に捌ききっていた。腕力だけで”受ける”ことはできるだろうが、ここまでの太刀筋に対してどこか理論的に、体勢を崩すこともなく受け流すことは難しいだろう。それは王の知性を示すに十分な動きだった。


 攻め立ていたはずのパティエナはいつしか受けにまわっていた。「行かなければ」そう感じたガラルドだったが胸に受けた魔術の衝撃と痛みに咄嗟に動くことは出来ず、剣先を揺さぶられ先に体勢を崩したのは彼女の方だった。そして、大きく――下段から切り上げられた王の剣に、氷の剣の切先は自身の頭上に弾かれてしまう。


「まずい!」


「パティエナ!」


 セラとガラルドは駆ける。


 右手に持った王の剣はゴブリンの分際で、綺麗な剣筋を見せつけた。

跳ね上げられた氷の大剣を目の前に引き寄せ辛うじて防御に回すことには成功したが、パティエナは腹を深刻に切り裂かれて今、崩れ落ちようとしていた。痛みなどは感じる暇もない。


「――嫁入り前、ですのに……」


 パティエナはその体から多量の血を流し、ゆっくりと崩れていく。


「がああああああああ!」

「わああああああああ!」


 ガラルドとセラは同時に吠える。

 吠えるから、

 吠えたから。

 それが何か結果に影響するとは露ほども思ってもいない。だが、それ以外に表現できないのだ。


 セラはおびただしい数の魔力の矢を射ながらパティエナのもとに駆け寄るが、王はゴブリンの死体の頭を鷲掴みにして持ち上げ、盾として防ぐ。

 肉の盾を放り投げた王にガラルドは殴り掛かるが、ひらりと躱される。


「パティえ――」


 パティエナの体を抱こうとしたセラはしかし、王の振るった杖に捕らえられ、体をくの字にひしゃげ、骨の砕ける音を出しながら吹っ飛ばされる。


 杖の打撃だからよかったのだろうか。

 剣の斬撃だったらどうなったのだろうか。


 どちらでも同じだ。直撃すれば選択肢をいくつも奪われる。

 最早、同じことだ。


 地面に転がったセラは友人のもとへ駆け寄りたいと願いながらも、その体には力が入らず、ピクリとも動かすことができない。


「ガキども! 早く逃げろおおおお!」


 ガラルドは順当にいけば一番、今後の人生が長いだろう人間を逃がそうと自らが盾となるべく王へと突っ込んでゆく。


 見ていることしかできなかった少年少女。ユーミはぼろぼろと泣いている。

 カナメとてだらしなく口を開け、放心状態でガラルドの後姿を見ているしかなかった。


「ね。カナメ」


 声をかけられて我に返る。


「ユー、ミ……」




「ね。カナメ……?」


「…………」


 目には溜まった大量の涙をついには地面へと零し、ユーミは悲鳴をあげるように声をあげた。


「……わたし、つよくなりたいようぅううっ!」

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