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灰銀のそれぞれ

――北東を行く、宵の鵬。


 巨大な伝説の鳥から名を拝借した。宵の名があらわすように、皆が黒ずくめの恰好をしている。


 それぞれが、各々、素性や名前、それに面布やマスクで隠しているため素顔さえ知らない。


 金のために集まり金のためだけに徒党を組んだ。

 それぞれが思想を持っているわけでもなく、金という唯一神を崇拝しているからこそ、これほど連携をとれている。


 ギルドを通さない”暗殺”も受託していた。


――金のためならば。


 そのため、冒険者階級が上がりすぎないよう、名が独り歩きしないよう調整さえしている。


 今回の依頼は、金がいい。


 ゴブリンキングというのは危険らしいが、宵の鵬は腕に自信がある。

 ”誰にも気付かれない内に命を絶つこと”をよし、とできる状況であれば。


 音もなく闇の中を駆けていると、前方に樹木で囲まれた少しだけ広い場所が見えてくる。草が茂っているが、真ん中の大岩に巨大な何かが鎮座していた。


(気付かれていない、獲れる……ッ!)


 目配せをして、皆が同意したことを確認すると、目にもとまらぬ早業で一人が急所めがけて必殺の投擲を繰り出す。

 この技で数多の命を刈り取ってきた。


 ただし、今回は刈り取られる側のようだ。


 わずかな枝葉の隙間を縫い、それは目標に到達する。


 曲刀が刺さった相手は「がたん」と音を立て、倒れる。

 生物が見せる倒れ方ではない。倒れたのは、無機質な案山子だ。


 曲刀を投げたことで位置が知られたのだろう。素晴らしい技術を持った彼の体は瞬く間に前半分を数百本の矢で埋め尽くされていた。


 まるでハリネズミのようだ、と男はぼんやり考えながら笛を吹く。


「…――――ッ…」


 魔力が飛んだのは感知できた。


 ただしハリネズミの仲間たちも、既に五体のどこかしら、使い物にはならない状態となっていた。


(ゴブリンが、罠を使う、だと……?)


――絶命する寸全、それは男にとって新しい発見だった。



***



 黒蜥蜴と名乗る彼らは、北西を目指し、足を動かす。


 リーダーの、カッシュ。

 彼の家族は全員が盗賊だった。


 物心つく前からスリや空き巣。錠前開けの技術を叩きこまれていた。

 歳場もいかない頃、友人の家に遊びに行った際に留守だったその家のカギをあけ、つい、金銭や貴金属をポケットに入れた。


 後に友人にそのことを自慢げに話すと、石を投げられ、自分が友人だと思っていた者は須らく近づかなくなった。

 役人の耳にそれが入り、彼の家族はすべて捕らえられた。少年はまだ幼いという理由で免除されたものの、貴族の邸宅に入り込んだこともあると露呈すると、家族は数日後に処刑された。


 なぜ自分ばかりが。

 世の中、わからないことだらけだ。


 子供が一人、真っ当に食っていけるはずもなく、冒険者となった。

 何年も廃墟やダンジョンに潜り込んで宝を漁る生活で、ある日、罠にはまって死にかけていた。偶然、そこに来たパーティーに命を救われ、シーフやスカウトの腕を買われてそこへ転がり込んだ。


 なぜこんな自分を助けてくれるのか。


 ――わからない。


 知識や実力があるカッシュはいつの間にかパーティーの長となっていた。


 同じパーティーの魔術師スナートと、前衛の剣士ナーデルはいつの間にか恋仲となっていたようだ。

 恋愛などしたことがないカッシュは当然、そんな心の機微などは気付くこともなかったが。


 近く、婚姻してパーティーを抜けるという話だったのでこの依頼に食いついた。

 自分の分け前も気のいいこいつらにくれてやろうと思ったのだ。


 人の金を盗んで育った自分がこんな気持ちになるなんて、わからないものだ、世の中は。


 結婚というものは、どうやら金がかかるらしいからな、などと考えながらふと出会った頃を懐かしく思い、仲間の方をみる。


 ――わからない。


 気のいい前衛の戦士の、その首から上が燃え上がっているのが、なぜなのか。


 わからない――。


 わからないが、笛を吹かなければ。

 それだけはわかっていた。


 助かるのだろうか。


――わからない。



***



 実力は並みだが、この街の冒険者ギルドではなぜだか割と名前が知られている。南東へ歩を進める赤熱の大剣は、そんなパーティーだった。


 口がうまくいつもご機嫌な、のん兵衛。


 喧嘩っ早くてトラブルばっかり起こす、ゲジ。


 ケチで小物だが情に厚い、タルすけ。


 冷静に見せかけて臆病なこの俺、ビビり。


 影が薄くているんだかいないんだかわからねえ、カゲ。


(大抵こいつのせいでこのパーティーは四、五人なんて表現される)


 それぞれ、まあたいして強くはねえが、うまくやってきた。

 怪我や喧嘩なんかは絶えねえが、まあまあ楽しい毎日だ。


 初めて会った日には、自己紹介ぐれえしたはずだが、どいつもこいつも本当の名前なんて忘れちまってる。

 冒険者ギルドに初めて見る顔がありゃあ、からかったり、脅しをかける。そうすりゃあ、有望株が出世しても俺たちの事は、なんとなく苦手なまんまなことが多い、って寸法よ。

(お礼参り、なんてこともたまにあるが)


 ケチなやり方だ。


 俺たちは本当は、みーんな臆病。

 ケチなやり方を、ひたすら積み重ねて灰銀まで来た。

 それが何の因果かこの依頼。


 本当はゴブリンロードなんてのによってたかって、ぎりぎり勝てるかどうかだろう。


 臆病な俺たちじゃあな――。



 臆病なことがその身を助けることは多い。野生動物のように。

 臆病な故、迅速に逃避行動に移れる。

 臆病な故、怖いと思ったら立ち向かわない、隠れるという行動もできる。

 ――生き延びるために。


 臆病な故、すぐに笛を吹くことも出来る。

 ゴブリンの何倍もある得体の知れぬ巨体を前にした際、などにだ。


 ただし、今回ばかりは臆病なだけでは生き残ることは到底不可能。


――気の合う仲間は、既にこいつの胃袋ん中、っちゅうわけだ

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