散る花弁
27話のあたりから若干グロや鬱展開と感じられる方がいらっしゃるかもしれません。
嫌な方がいるかもしれませんので、一応記しておきます。
町の門のすぐ外で、それぞれパーティーごとに別の馬車に乗り込む。
「総員、乗り込んだら馬車を出すッ! 忘れモンひとつで命取りになるかもしれねえから気を付けやがれッ!」
ギルドマスターは方々に激を飛ばしながら点検をしている。
(まるで軍隊だな。それにしても面倒見もよさそうだし、あのおっさんは結構いいやつなのかもな)
「ユーミ。準備は終わったか?」
ユーミは馬の鼻先を撫でながら、「やぁ、君。今日はお願いね?」と、馬にも挨拶をしていた。
「あ、カナメ。準備は万端だよ!」
いつもと同じように振舞っているが、やはりまだカラ元気にも見える。
元気がないのを悟られないよう隠しているようにも見えるから、カナメもそのまま気付かない振りをする。
「ね。カナメ……」
「どうしたんだよ、最近」
「うん……でも、何でもない!」
(終わったらまた甘いもので食べてもらって元気づけよう。ユーミは元気で明るいのが一番似合うからな)
総員準備が整ったようで、ガラルドは馭者に金を支払っている。恐らく危険が伴うため、前金を渡しているのだろう。
先に馬車に乗り込んでいたカナメとユーミの対面に、セラとパティエナが乗り込んでくる。
「よ、っと! カナメ君と、ユーミちゃんだったね、今日はよろしく! 同じパーティーだからちょーっと言葉を崩すけど、勘弁ね?」
セラは仕事中ではないからか友達と接するような馴れ馴れしさで話してくる。もともとこういう性分なのだろう、それに、全く悪い気はしない。
「あら、セラ。もっと寄ってくれる? 狭いじゃないの~」
「あんたの荷物が多すぎるんだよっ! 何を持ってきてんの!」
二人はなんだか友人と旅行にでも行くような様子で、戯れている。緊張感は感じられないが、初陣で新人のカナメ達が緊張しないように、気を遣っているのかもしれない。
「おい、おめえら! 遊びに行くんじゃねえんだぞ!」
ガラルドは図体もでかく、他の馬車や外の様子も警戒する役割も兼ねているのか、ひとり馭者の隣に座り込む。
「そぃじゃあ、出発!」
五台の馬車は、ひとまず南を目指す。
***
年上の女性、セラとパティエナは出発してからこのかた、おしゃべりに夢中だ。
「二人はどんな関係なの?」
「どこから来たの?」
「同じ宿!? 大丈夫なの、ソレ!」
などなど、ユーミは質問攻めでしどろもどろしていた。
「あわわわわ!」
ユーミがあわあわ言っていると、馭者の席に座っているガラルドが声をかける。
「そろそろ、だ!」
声をかけられたセラとパティエナは実際に音がしたのではないかというほど、ガラッと雰囲気を変える。打ち合わせた素振りはないが、互いに逆方向の窓に視線を移動して周囲を警戒する。
(ずいぶん息がぴったりだけど、同じパーティーだったのかな?)
全ての馬車が一様に止まり、皆できるだけ音をたてないよう注意しながら馬車から降りてきて、ガラルドを囲むように集まってくる。ここから先は徒歩。どうしても音が大きくなってしまう馬車では敵をおびき寄せてしまうからだ。
「作戦通りだ、ここには俺たちが残る。灰銀のおめえらは四方に散開しながら索敵してくれ……そぃじゃあ、武運を祈る」
ガラルドがそれぞれの顔を見渡して、願を掛ける。
黒蜥蜴は、北西へ、宵の鵬は北東。
剣白薔薇は南西に。赤熱の大剣は南東へと。
(頼むぜ、おめえら。全員無事でいてくれよ……?)
神のいない世界ではガラルドの祈り虚しく。
それぞれの戦いは幕をあける。
***
――夜が、暗闇が、次第に勢力を増していく。
剣白薔薇のパーティーは南西に向かい上品に駆けていた。
ミリアム、シャルル、サーリサ、ユリアナの四人だ。
貴族令嬢の幼馴染同士、貴族学校の成績があまりにも良く、若気の至りで冒険者となった。
もともと優秀なうえに、武芸も高名な剣士に師事していたため、瞬く間に灰銀級冒険者へと昇り詰める。
――見た目麗しく、強者。
各地で武勲を上げる彼女らに憧れ、慕うものは数知れなかった。
数年ぶりに四人揃って故郷へ凱旋し、骨を休めようとしていたところ、今回の緊急依頼が舞い込んだのだ。
それぞれが皆、尊敬しあい、誇りに思っている。
そして自信があるのだ。実力に、結束力に。
「ねえ、シャル。ゴブリンキングはとても強力なモンスターだから、いつもみたいに突っ走らないで頂戴ね」
「私とて、そのように愚かではありません。身の程を弁えているつもりです」
「笛は一番足の速い、ユリアナに渡したのですから、何かあれば俊敏に動いてくださいまし」
「ふふふ。わかっておりますわ! このユリアナ――」
声を潜めて談笑しながら駆けていると話の途中でユリアナは黙ってしまった。
黙るのは仕方がない。声を出す器官を失ってしまったのだから。
ユリアナの頭部は巨大な丸太のような何かでふき飛ばされ、前方の樹木に張り付いていた。
四人揃っての凱旋はもう叶わない。
「え……え?」
シャルルは動くことができない。
「――ッげええええっ!」
サーリサは、吸い込んでしまった現実を必死に吐き出そうとしている。だが、吐き出すことができるのは吐瀉物だけだった。
「シャル! サーサ! 逃げるのですッ! くっ、笛を……ッ!」
ミリアムは必死に走ってかつて友人だったものの手から笛を奪い取る。
「…――――ッ!…」
魔力を伝搬する笛は音を鳴らさない。
本当に届いているのだろうか。
今丁度、二人目の大事な友人がただの”肉塊”になったところだ。




