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雑魚魔物の中の王

 ギルドを後にし昼食をとるため適当な店を探して、カナメたちは町をひとしきり町をうろついた後、なんともいい匂いがする店にあたりをつけて中へと入り、小さなテーブルに向かい合って座り、注文をする。


「ここは、何の料理の店なんだろう」


「うーん、ごはん屋さんはあんまり入ったことがないからなあ」


 たしかにこの子は王女様だったからお城の料理人あたりが作っていたのだろう。

 運ばれてきた料理は独特な香辛料を使ったステーキの様なものだった。ナイフで切り分けて口に運んでみると、前世で食べた物よりは塩気が薄く単純な味付けだったが、しっかり肉の味がして、うまい。


 お城でごちそうになった豪勢な食事よりは大味だが、これはこれでいい。


(もしかすると、こっちで前世の料理を再現出来たらひと儲けできるかもな。あ、僕、料理は全くできないんだった……)


 異世界テンプレートの一つ、前世料理で一儲けができないことに気付くと、自炊などしてこなかったことを悔やむ。


「あ、そういえばさ」


 はむはむと小動物のようにおいしそうにご飯を食べているユーミに話しかける。


「僕、お城でスクロールを複製したろ? あんな風にスクロールを作って売ってお金を稼げないかな?」


 木製のカップで水を少し飲んだユーミは考えながら答えてくれる。頬っぺたに少しソースが付いているが、面白いので教えない。


「そうだなぁ。スクロールの流通は魔術協会が牛耳っているから、あまり個人が販売していることは少ないかなあ」


(ふむふむ。危険な魔法なんかが民間に流通したら大変だから、ある程度規制したりしているのかもな)


「それに、強力な魔術は仕組みが難しいから再現できなくて、お店で売っている物は生活に使うようなものばっかりだよ。魔術師は自分の魔術は隠したがるし、攻撃に使えるようなものは危険だから出回らないと思うな」


「要するに……あんまり現実的じゃないってことか」


「そうなるねえ」


「お城のスクロールを再現はできるのかな?」


「それも難しいかな。あれは一度きりの、その場所でだけ使えるような伝説級の魔術だからね」


(それをぶっ放しちゃったわけだけど……まあ、危機的状況だったししょうがないよな)


 これから先、お城に危機が迫った時にどうすればいいのか。どちらにせよ数千年は見ることもできないらしいし考えるはやめることにした。


「ユーミの魔術は誰から教えてもらったんだ?」


 気になったので聞いてみる。食事中のユーミも次々に食べ物を口に放り込みながら嫌がることもなく答えてくれる。


「わたしのは、魔術の素養があるって知った父が高名な魔術師先生にお願いして、お城で何年か師事したんだよ。全然うまく使えなくて、呆れられちゃったけどね! えへへ!」


 恥ずかしそうにユーミは笑う。


(なんだか違和感があるな。ユーミは魔術を使えている。なぜか自分の知っている魔術がランダム発動するだけだ……使えて居なければ発動もしないんじゃないか? それに、小さい頃に治療の魔術を使えていたことをユーミは覚えていない……)


「そうだ! 後で魔術品のお店に行ってみよ? 何か面白いものがあるかもね!」


「そう言うお店があるんだな。そうだな、連れていってくれ」




 偶然、出会ったりしたヒトやモノ。

 小さな出会いが人生を劇的に変えることもある。料理に加えた、香辛料のように。



***



 ユーミと並んで、魔術品店の前に立つ。


(……胡散臭えっ!)


 お香、だろうか。

 異様な香りが漂っており、爬虫類の干物、何かの動物の頭蓋骨など、店内には所狭しと禍々しい売り物がごちゃごちゃ並んでいる。


「なんじゃあ? 若いのが来るなんぞ珍しいのお」


 小柄のいかにもといった格好のおばあさんが出迎えてくれる。


「こんにちは!」


 怪しい老婆にも元気な挨拶ができる。

 ユーミはとてもいい娘だ。


「ね、スクロール、ありますか?」


「ああ、そこの棚さね」


 おばあさんが顎で示す棚を見ると、丸められて紐で結われた紙や羊皮紙、樹皮の皮をはいだだけのものなどが並んでいる。


「はーん? このあたりの巻物がそうか。だけど、なにがなんだかわからないや」


「これは……火を起こす魔術だね。お料理やお湯を沸かすときに使ったりするよ! こっちは、うん、短い時間だけど風を起こす魔術かな? あ! みてみて! これ、周囲の人が一斉にくしゃみする魔術だって。珍しいねえ」


(よせ。変なものに興味を持つな。あの時持ってた変なスクロールはユーミの趣味かよ)


 そのほか、

”眠れないときに使う魔術”


(お城の門番を眠らせたのはこれの応用のスクロールか?)


”暗い夜に本を読むための魔術”


 など確かに生活に役立つ魔術らしきものが並んでいた。


「これって、広げて見ても構いませんか?」


「ああ、構わないよ。破かないように気をつけておくれ?」


 万引きしているようで気が引けるがすべて記憶に叩き込む。


 あとで”18歳未満は戻るを(リターン・)押してください(エイティーン)”を応用して描いてみることにした。


 見せてもらってなんだし、一つか二つは買っていこうと適当に見繕っていると、古い棚の中でもより一層古びた本が目に付いた。


「これ……」


「あ、魔術教本だね。魔術の素養がある子に教え聞かせるための本だよ。基本的には魔術師先生が書いて、教え子に渡すものだけれど、たまに市場に流れるときがあるんだって!」


「……これ、いくらですか?」


「あ? そりゃあ、別に高名な魔術師が書いたもんでもないし、本当に基礎的なことしか書いてないから実際は紙の値段分くらいかね? それでも魔術教本は数が少ないから多少はぼったくらせてもらうさ」


 正式にぼったくられることが分かったが、この世界の魔術を知ることができるかもしれない。

 支払いを済ませて店を出る。財布はかなり軽くなったがもったいない気持ちにはならなかった。


「ごめんな、ユーミ。今日の宿代がなくなっちまった!」


「いーよ! カナメのお金だし、勉強は大事だからねえ」


「まっ! お金になりそうな算段は付いてるんだ。道中で倒したモンスターの魔石、あれって確か売れるんだったよな。どこで買い取ってくれるんだろう」


 そうして鞄から魔石を取り出すと、売れるというのは自信があるが、どこに売りに行くか。疑問に思ったが、大抵あそこだろうとアタリを付ける。

 相場は決まっている。


――再び冒険者ギルドに赴き、報酬カウンターで尋ねる。


「ええ。こちらで買い取り致しますよ!」


 やっぱり。

スレンダーで美人の受付嬢が対応してくれる。ギルドで買い取ってもらうのが一番手っ取り早く、金額も正当だという事はこれまでの人生で学んでいる。知識や想像のみで、経験したことはないが。


「少し待っていてね、ゴブリンが五つ……ホーンラビットが二つ、スライムが……ちょっと! これ…ッ!」


 慣れた手つきで魔石の鑑定作業をしていたスレンダー美女が図鑑のようなものを取り出し、ページを捲る。


「やっぱり! この魔石、ゴブリンロードじゃない! あんたたちこれどこで拾ったの!」


「あ……拾ったんじゃなくて、この街に来る途中で倒したんです」


 そういえば道中ユーミが言っていた。なんでもゴブリンロードが目撃されると中位の冒険者が調査に派遣されるのだとか。


「倒した!? どうしよっか……でも」


 なにか、考え込んでいるのか独り言を言っている。


「なにか、まずかったでしょうか?」


 いきなりまずいことをしてしまったのか、お姉さんが焦っているようなので聞いてみる。


「倒したこと自体はまずくない……命があって何よりだわ。でも、ゴブリンロードがいた場所では”あること”が起きる可能性が非常に高いのよ」


(あること……?)


 強敵らしいというのは想像に難くないが、たまたま魔術が炸裂してユーミが瞬殺したのでわからなかった。


「何が起きるんですか?」


「二通りあるのよ、頭を失った下位ゴブリンが”集団大暴走スタンピード”をおこすか、もしくは、”腐っても雑魚魔物の王(ゴブリンキング)”が生まれる――」

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