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冒険者ギルド

「魔術師だ」「まだ若いぞ」「駆け出しか……? どこかに属しているのか?」


 騒動を見ていた冒険者たちはこちら、というよりユーミをを注目している。

 いつだか武器屋が言っていたように魔術師というのは珍しく、一見、ユーミは魔術を使いこなしていて、うまくゴロツキたちを追い払ったように見えたのだろう。


 勧誘をしようと策略しているようだが、今ほどの件で明らかにユーミを恐れ、警戒している。


「――あらあら、やってくれたわね。あなたたち」


 奥の方から受付嬢の制服を着た、ずいぶんセクシーな女性がやってくる。

 カナメはいつか役立つかもしれないと思ってその目に焼き付けた。


「彼ら、腕は確かに立つのだけれど、新人ちゃんたちをからかったり報酬額に文句を言ったり、受付嬢を口説いてきたり……トラブル続きで困っていたのよねえ」


 流し目でこちらを見る。

 セクシーだ。


「ちょっとスッキリ……うーん、だけれど、壊しちゃったテーブルと床。それに食器。お代はもらわないと、ね?」


 にっこりと微笑みながらこちらに弁償を要求する。

 セクシーだ。


 確かに、ギルドの備品、それに建物。

しっかり手入れをされていた設備を壊してしまったのはやりすぎだろう。

 下手をすれば火事になっていた可能性だってある。

 ユーミは、テーブルと床、お姉さんをちらちら見ながら、空気が抜けた風船みたいにしょんぼりとしている。


「まあ~……だいぶ老朽化していたし、新品同様のお代をよこせ、とは言わないけれど、どう? お金はあるカナ?」


 まだ見た目は若輩者の僕に気を遣って、懐事情を心配してくれているようだ。


 財布の中を見てみるとあと二泊程度、安宿に泊まるくらいの金額はあるが、正直心許ない。

 一緒に財布の中身を(セクシーに)のぞき込んでいたお姉さんは助言をくれる。


「う~ん。あなたたち、冒険者? もしお金を稼ぎたければ依頼の相談に乗るけれど……」


(そうだな……旅には資金も必要だし、モンスターの知識に経験も必要だ)


「まだ、冒険者ではありませんが、はい! お願いします!」


 直角に腰を折って頭を下げる僕の様子を見て、慌ててユーミも同じ格好をする。


「っふふ。それじゃあ、冒険者登録をしようね? こっちへ来てくれる?」


――急がば回れ、だ。



***



 お姉さんに連れられ、カナメとユーミはギルドの受付カウンターの前に来る。


「それじゃあ――ようこそ、冒険者ギルドへ」


 お姉さんは受付嬢モードにスイッチする。


「冒険者の事、ギルドの事はおおよそ知っている?」


「いえ、全然わかりません!」


 後で学べばいいこともあるが、素直に聞くことだって大事だ。


「それじゃあ、よーく聞いてくれる?


『冒険者とは依頼を受託し報酬をもらう者たち。


依頼者は様々。

 一般の人々が依頼をすることもあるし、各団体、町や国単位での依頼もあるわ。

 その種類も、モンスターの討伐や珍しい動植物の捕獲や調査など多岐にわたっていて、法に触れる依頼を事前に排除できるように、できるだけ失敗をしないように、ギルドでは身に余る依頼を受託できないよう冒険者を選別するわ。

 それが”冒険者階級”。

 基本的には下位から順番に、

青銅、純鉄、灰銀、隕鉄、黄金、白金、金剛。

 灰銀級にまで承認されれば稼業として食べていけるでしょう。

国難を救い聖王様から勲章を授与された黄金級の冒険者もいるのよ。

それより上の階級は今はいない、と言われているわ。

 階級の詳しい話や偉人伝なんかは、本棚にギルド史があるから読んでね』


 何度も説明してきたのだろう。お姉さんはスラスラと説明文を読み上げる。


(ふーん、ランクの名称はややこしいけれど、だいたいシステムは予想の範疇だ。現状の階級で経験と依頼達成を積み重ねて、上位を目指していくんだろう)


「階級が上がる基準は決まっているのですか?」


「そうねえ……各ギルドマスターが戦闘力や精神性を見極めて判断することが多いわね。強いけれど、依頼達成のみに囚われてしまっては、ギルドの面子にかかわるから」


「はえー、なるほどですねえ」


「それじゃあ、登録にうつりましょうか。身分を証明するものはある?」


 そんなものあったっけな? と、少し考えて先日グラシエル王からもらっていた証書をカウンターへ出す。


「これでも構わないでしょうか」


 事務的に証書をのぞき込んだお姉さんは、ハッとした表情を浮かべると、バタバタと慌てて奥の階段を上っていく。

 セクシーだ。


「ますた~、ますた~っ!」



 ややあって、白髪交じりの偉丈夫が降りてくる。


(で、でけえ!)


 体格はよく筋骨隆々。

 素手でゴブリンロードくらいならぶっ倒せそうだ。

 

「よく来たな、ガキども」


「ちょ、男爵様にグラシエル王女様ですよ! マスター!」


「あ? 知るか、そんなこと」


 ギルドマスターはぶっきらぼうに、ひそひそと耳打ちするお姉さんをあしらい、こちらを見下ろす。


「お前らの事は噂で聞いた。グラシエル国の転覆を企む魔族を退けた、と」


 お城の一件の事を言っている。

 ちら、とカナメの方を見たかと思うと、いきなり衝撃的な殺気を放ちながら拳を打ち下ろされた。


 微動だにできずに(あ、死んだ)と思っているとユーミが一瞬でカナメの前に立ち、鋼鉄の杖を構えて防御態勢に入っていた。

 拳が杖に当たる寸前でぴたりと攻撃をやめ、満足げな顔をして偉丈夫は言う。


「フン。これだけ殺気を込めた俺の拳に微動だにしねえうえに、嬢ちゃんは嬢ちゃんで、すかさずガキを守る体勢に入るとはな。なかなか鍛えられた棒術使いだ。……おもしれえ、例の一件もある。依頼はひっきりなしで冒険者が足らねえ。純鉄から始めろ」


(いや、びっくりして何もできなかっただけだが……ちょっとちびったし)


「純鉄からは命を落としかねない依頼も頻繁にある。しっかり準備してから挑め。……それに、王女と貴族ってのは隠しておいた方がいいかもしれん。余計なことに巻き込まれんようにな」


(えええ。魔族の件はたまたまだし、いきなり見誤ってない? やっぱり順番にランクアップした方がいいんじゃないか? 大丈夫かよ)


「あなたたち実はすごかったのね? それじゃあ、登録証を作るから少し待っていてね?」


 どすどすと階段を上っていくギルドマスターを横目に、お姉さんは仕事に戻る。


 冒険者になったその日に無暗に飛び級したカナメたちは、一先ずギルドを後にした。

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